3話 首都コロントン
フェリーシアとリルネは再び高架道を走っていた。できれば暗くなる前にコロントンに入りたかった。
フェリーシアは、さっきの知事とのやり取りやパトリシアの話をずっと考えていた。今まで平和だと思っていた国で、、見えないところで何かが不気味に動いているような気がした。早く、早く、国王に会いたかった。
いくつもの低い山を越えて広い平野に出た。至るところに森が広がりその向こうには湖らしきものが見える。そしてそのずっと奥に、お城のような建物が小さく見えた。
「やっとコロントンに入ってきたわね」
フェリーシアはなつかしそうに言った。
「ここに連邦政府があるわ。そして国王の住んでいらっしゃる居城もここよ」
「さっきのジムヨークと雰囲気が全く違うね。建物も低いし、、エッジスタートに近いのかしら、、、」
「コロントンはジムヨークと違って、自然との共存を州方針にしている都市だから、こういう感じなのね。あなたの言う通り、エッジスタートはここがモデルになっているわ」
「フェルのお父様もここにいるのよね」
「ええ、そうよ。連絡は入れてあるから、、きっと首を長くして待っていらっしゃるわ」
高架道は都市部に近づいて来ると、低い山に建設されたトンネルの中に入って行った。今まで地上十数メートルの所を走っていたが、急に地下に入った。
「コロントン市内は高架道がなくて、皆、地上の道路を使うの。コロントン州内を移動する時にも、ジムヨークのような高架道は少ないのよ。移動に馬を使う人もいるくらいよ」
「え、馬もいるの?」
リルネは喜んだ。ジムヨークには馬が一頭もいなかった。新大陸と旧大陸とではあまりにも違いすぎた。
「ええ、ここは旧大陸と雰囲気が似ているわ。もちろん、根本的なところは違うけど、、、」
トンネルを抜けると、両側は山の斜面の切り出しになっていた。前方左手に大きな駐車場が見え、フェリーシアはそこに入って行った。ただ駐車場はそのまま通り抜け、前方の建物の屋内駐車場に車を止めた。駐車場出口のパネルにリングを当て、そのままエレベーターで建物の最上階まで上がって行く。最上階で下りると、そこには全く違う世界が広がっていた。フロアはガラス張りになっており、そこから市街が一望できた。
「うわ~~~!!」
リルネは思わず声を上げた。リルネの立っている所は山の中腹のようだ。目の前にはコロントン市街が広がっている。ジムヨークと違って高い建物が一つもない。そして旧大陸のようなレンガや石作りのように見える低い家々が、きれいにずうっと立ち並んでいた。
リルネたちが立っているフロアのすぐ横の建物、それは遠くから見えていた城だった。あまりにも近すぎて全体の様子がわからないが、あの城に違いない。
リルネはなつかしい気がした。すごくほっとする景色だった。
二人は坂道を城壁伝いに下りながら正面のほうへと回ってきた。城の入口は大きな幅広の階段の上にあった。階段の前はロータリーになっており、そのまま町の大通りへとつながっている。大通りでは車と馬とが車線を分けながら行き来していた。ロータリーの中心には大きな噴水があり、噴き出される水はきれいな軌道を描いて踊っていた。
リルネはおとぎ話の世界に紛れ込んだかのような錯覚を覚えた。歩道の石畳はきれいで、道の両側には街路樹と街灯が立っており、夕方の日差しに美しく溶け込んでいる。
「リルネ、行きましょう」
フェリーシアは立ったまま動かなくなっているリルネをせかした。
リルネはフェリーシアの声が耳に入ってきてはいたが、気が回らず返事をせずにいた。
「後でゆっくり、、、明日から、あちこち案内してあげるから、今はいったんお城に入りましょう」
フェリーシアは、ボーとしているリルネの手を取って、階段を登った。
二人が階段の上までくると、そこには一人の男性が待っていた。
「フェリーシア様、お帰りなさいませ。お待ちしておりましたよ」
おじぎをしながら、彼は丁寧に言った。
「フォーエン! 久しぶり!」
フェリーシアはうれしそうだった。国王の秘書が二人を入口まで迎えに来たのだ。
「無事のご到着、安心いたしました。国王陛下もご連絡を受け、お持ちになってらっしゃいます」
三人は大きく開け放たれたドアを抜け、中へ入って行った。1階、2階は連邦議会議事場を含め、連邦の各施設が入っていた。1階中央の議事場を囲む廊下には、赤じゅうたんが敷かれ、初めての人でも迷わないよう、議事堂内部の見取り図が廊下に掲示されていた。
階段を3階まで行くと、そこは広い廊下が伸びて、両側にいくつものドアがある。前を歩く二人は、まるで我が家のようにおしゃべりをしながら歩いている。右手に大きく開け放たれているドアがあり、フォーエンがノックして言った。
「陛下、フェリーシア様とお客様をお連れいたしました」
「入りなさい」
国王は二人を見るとすぐに立ち上がり、近づいてきた。
「君が、リルネだね。遠いところよく来てくれた」
そう言ってリルネに手を差し出した。リルネはどぎまぎしながら手を出し、国王はその手をしっかりと握って笑った。
「大きくなったね。君は、私を初めて見るだろうけれど、私は、君のことが、とてもなつかしいんだよ」
リルネは少し恥ずかしくなって下を向いた。
「フレデリックやヘンリエッタは元気でいるのかい?」
「はい、おじいさんもおばあさんも元気に暮らしています」
「そうか、、、それは何よりだ」
「フェリーシア、君も元気そうで何よりだ。今回はいつもより大変だったようだね」
「ええ、予想もしてなかったことが起こったので、私もびっくりしました」
「無事で何よりだよ」
そう言うと国王はフェリーシアを抱き寄せ、背中をぽんぽんとたたいた。フェリーシアも安心したように身を任せた。
「さあ、二人ともお腹はすいていないかい。君たちのお土産話を一刻も早く聞きたいな。夕食を取りながら話を聞かせてもらおうじゃないか」
国王はフェリーシアとリルネの背中に手を回し、二人を食堂へ案内した。
「フォーエン、夕食をスタートすると伝えてくれるかい」
夕食は和やかな雰囲気だった。二人は武勇伝を話し終えると、フェリーシアが国王に聞いた。
「お父様、ここに来る途中でジムヨークの叔父様のところに寄ったの。そして爆弾騒ぎの話を聞きました。私、もうびっくりしてしまって、、、大変なことになりましたね」
フェリーシアがそう言うと、国王は少し表情を曇らせた。
「ああ、本当に頭の痛い事件だ。今までこんなことはなかったからね。君は、そんなに心配することはないよ。負傷者が出ているわけでもないからね」
フェリーシアには、その言葉とは裏腹に、国王は相当悩んでいるように見えた。
「今日は久しぶりに楽しい時間を過ごしたよ。食事もとてもおいしかった。私は、明日からまた忙しい公務が入ってしまっていて、、。神仙峯については、改めて話す時間を作ろう」
国王は終始笑顔であったが、フェリーシアは父親の心痛をおもんばかった。




