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2話 山小屋の日常

 窓から朝陽が差し込み小鳥のさえずりが聞こえてくる。階下からはパトのほえ声がする。リルネはベッドから飛び起きると、窓を力いっぱい押し開けた。朝のまぶしい光を浴びながら、遠くに連なる山々を眺める。大きく伸びをすると、肩にかかっている赤朽葉色の髪がかすかに揺れる。


 下に降りると、おばあさんが朝食のスープを皿に取り分けていた。おじいさんは牛の乳搾りを終えて、ちょうどパンを切りそろえているところだ。

「今日は卵いくつあったの?」

 リルネはおじいさんの隣に座りながら聞いた。

「7つじゃ」

 牛小屋の隣にはニワトリ小屋があり、毎日ニワトリが代わる代わる卵を産んでいる。

「最近ニワトリたち、元気がいいよね。急にたくさん産み始めたみたい」

「おばあさんが栽培したミツナモ草のせいじゃ。あれは人間にも効く薬草じゃからのう。ニワトリにも効くんじゃろう。牛たちだって、最近乳の出がいいようじゃ。おばあさんは本当に薬草栽培が上手じゃ」

「あら、ニワトリや牛たちですって! リルネやおじいさんたちはどうなんです?」

「ええっ、私たち!!」

 二人はとっさに顔を見合わせた。

「おじいさんは、最近、いびきの音が小さくなりましたね。リルネは寝起きがすこぶるよくなったようよ。効果てきめんだわ」 

 おばあさんは一人嬉しそうに笑う。

「私たちにも、それ、食べさせてたの!?」

「あらま、ぜんぜん気づかなかったのね。はい、これね、朝のスープよ」

 そう言って、おばあさんは皿を二人の前に置いた。

 リルネとおじいさんは今さらながらそのスープをながめた。一体いつから朝のスープが特製スープになっていたのだろうか。ニワトリの産卵や牛の乳の出のよくなった時期を思い出してみる。

「まったくおばあさんには、、、いっぱい食わされたわい!」

 突然、おじいさんが大声で笑い始めた。リルネもつられて笑い始めると、隣でパトもうれしそうに尻尾を振るのだった。


 リルネはおじいさんとおばあさんに育てられた。本当の両親でないことはもちろん気づいているけれど、わざわざ聞くこともない。この二人以外の親なんてあんまり想像できないし、だいいち、実の親がいなくてさびしいと思ったことがない。


 おじいさんは幼い頃からたくさんの本を読み聞かせてくれた。それこそ夜空に浮かぶ天体から土中の虫に至るまで、その範囲は百科事典並みに広く、知識量は計り知れない。それを証明するかのように、裏の物置小屋には本がたくさん積まれている。そして驚くことにおばあさんも負けず劣らずの物知りなのだ。


 幼い頃、リルネは風邪を引いたり一人さびしくなったりすると、二人のベッドによくもぐり込んだ。おじいさんがリルネを寝かしつけようと昔話を始めると、数分とたたないうちにおばあさんが口を出す。

「あら、おじいさん、それはちょっと違うわ。そのときに手を組もうと言い出したのは地下に潜っていた人たちよ」

 おじいさんは、どこかの国の政変について面白おかしく話してくれていた。

 おばあさんにそう言われておじいさんは、

「いやいや、彼らは腹の中では早く手を組んで終わりにしたいと思っとったんじゃ」というが、

「でもそれはおじいさんの考えでしょう。手を組もうと言い出したのは彼らではないわ」

 また二人の言い合いが始まってしまった。こんなことはしょっちゅうだったが、だからといって仲が悪いのではなく、むしろ、二人はそれを楽しんでいるのだ。

 一人残されたリルネは、目が冴えていくばかりなのだった。



 朝、学校へ行くのは、山道をもう少し登った小屋で牛を飼っているベッカーさんの馬車に乗せてもらう。ベッカーさんも毎朝搾りたての牛乳を町に運んでいるので、おじいさんの搾った牛乳と一緒に、リルネを馬車に乗せてくれるのだ。

 だが、この生活もあと数日で終わりになる。リルネは村の中等部を卒業すると、何人かの友だちと一緒に、今度は町の寄宿舎に入って、高等部に通うことになっていたのだ。

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