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2話 再び、フェリーシア

 国王との面会が終わると、リルネはフェリーシアと別れて客室用の部屋に案内された。荷物も運ばれていた。城に到着した時は、急いで国王に拝謁しなければならなかったので、フェリーシアの部屋で一緒に身繕いをしたのだが、これからはここがしばらくの間、自分の部屋になるらしい。部屋では侍女が待っていた。


「リルネ様、ようこそお越し下さいました。こちらにご滞在の間、身の回りのお世話をさせていただくマリーネと申します。どうぞご遠慮なく、何なりとお申し付けください」

 そう言って、彼女はリルネに挨拶をした。

「ありがとう。お城は初めてなので勝手がわからず、、いろいろ教えていただけると助かります」

「リルネ様、陛下への拝謁も終わりましたので、旅の疲れを取る湯あみの準備もできていますが、どうされますか。それともベッドでひと休みされますか?」

「湯あみ、あ、いいですね! それでは、それをさせてください!」

 湯あみだなんて、、本で読んだことがあるだけでしたことがない。山の家では、冬こそ井戸の水を温めてお湯で身体を拭いていたが、それ以外はただの水浴だったから、お湯で身体を洗えるのは嬉しかった。

「承知いたしました。ご案内いたします」

 そう言うと、マリーネは浴場まで案内してくれた。


 服を脱ぎ隣の間に行くと、そこは大きな浴場になっており、、驚いた。そして、後ろに立つマリーネにもびっくりした。

「えっ、あの、、マリーネも一緒に入るの?」

 彼女は浴場の中までお供するかのように、薄手の肌着1枚になって後ろに立っている。

「はい、お背中を流しますゆえ」

「えっ、あっ、自、自分でできます! 大丈夫です!」

「介添えはしない方がよろしいですか?」

「は、はいっ。その、、お気持ちだけで十分です」

 初めてのことに慣れず、リルネはどぎまぎするのだった。


 湯あみを終え、部屋に戻ると、ソファにフェリーシアが座っていた。

「勝手に入ってごめんなさい。失礼しているわよ。湯あみはどうだった?」

「う~ん、気持ちよかった~」

 リルネはお湯につかるというのが初めてだったので、その心地よさに感動すらしたのだった。

「明日は、王都の案内をするわね。行きたい所やしたいことはある?」

「う~ん、そうね、、何があるのかよくわからないから、、フェルにまかせてもいい?」

「それもそうね。それじゃあ、私があなたに合わせてスケジュールを組みましょう。でも、あなたの好みくらいは聞かせてちょうだい」

 そう言うと、フェリーシアはお茶を飲みつつ、リルネを質問攻めにした。



 その夜の晩餐は、賑やかだった。

「リルネ、私の子どもたちを紹介しよう。こっちが娘のシャルロットで、隣が息子のランスロットだ。二人ともリルネにご挨拶しなさい」

「こんにちは。お初にお目にかかります。王女のシャルロットです」

「こんにちは。お初にご挨拶申し上げます。王子のランスロットです」

 二人ともまだ子どもらしい幼さがあり、挨拶も初々しく可愛らしかった。

「こんにちは。ご機嫌麗しゅう、リルネです。よろしくね」

「母を幼いころに亡くしているから、少々人見知りだが、慣れてくるとお転婆娘とやんちゃ息子だよ」

「お父様、お客様にそんなこと言わないで!」

「お客様に、、言わないで!」

 弟君は、お姉様の真似をしたいお年頃のようだ。見ていて微笑ましい。


 国王は入口に目をやって、そこに立っているシューベルを呼んだ。

「すでに挨拶はしておるな、、宰相のシューベル・トゥバイン公爵だ」

 シューベルがテーブルに近寄ってきた。

「リルネ様、毎年、フレデリック殿とヘンリエッタ殿からリルネ様のお話は伺っておりました。本当に大きくなられました」

「えっ、おじいさんとおばあさんから?」

「はい、年に2回ほど使いの者が家まで行っていたと思いますが、、お会いになったことはありませんでしたか?」

「えっ、それって、もしかして、行商のおじさんのことですか?」

「ああ、そうですね、。そう言えば、そのような恰好で向かっていましたね」

「あのおじさんは、エッジスタートの人だったんですか!」

 なるほど、それだと合点も行く。家に来ると親しい友だちのように三人で話をするのだから、、。そうか、そういうことだったのか。

「もう一人おりましたでしょう。ええと、、そう、ベッカー。彼は、フレデリック殿とヘンリエッタ殿が移り住む前に、現地を調べ、居住を整えてくれた者ですよ」

「えええっ! ベッカーさんが!」

 青天の霹靂! ベッカーさんまでも、、ここの人!

 村での15年間の出来事が、違う景色になっていくような感覚に陥った。しかし、それは決して悪いものではなく、自分は多くの人に見守られながら生きていたんだという実感。おじいさんとおばあさんにはもちろん感謝しかないが、そのほかにも自分を支えてくれた人たちがいたことに、リルネは感慨と感謝を禁じ得なかった。

 新大陸という未知の大陸、そして神仙峯という土地、不安しか抱くことができなかったが、今、初めて、温かい気持ちで見つめ直すことができている。おじいさんが別れ際に言っていた「大事に大事に育てた娘」という言葉、そして、私がいるべき場所へ行き、人々のために仕事をしなければならないと言ったことも、今なら、すんなり受け入れることができる気がする。そう、私はいろいろな人に大事に育てられた娘なのだから、その恩返しをしなくてはいけない。そう思うと、リルネは胸が熱くなるのだった。


「さあ、冷めないうちに食べるとしよう」

 国王はリルネの様子に目を細めながら、食事をすすめた。テーブルには所狭しと皿が並べられている。

「フェリーシア、そう言えば、昼に言っていた黒マントを借りた青年とは、どんな青年だったんだ」

 フェリーシアはヨハンについて、サックセンの小さな村で出会ったこと、そして彼は鍼治療の技術を持っていて、薬草や香辛料にも詳しかったことなどを説明した。

「なるほど、確かに旧大陸の人間ではないな、、そうなるとここの者か、、。名前はヨハンというのだな」

「はい、叔父様。フレンクランからここに来る時にも、一緒に来ないか誘ったのですけれど、もう少し旅を続けたいと言って、そこで別れたのです」

「ふむ、、明日、調べさせてみよう。新大陸からこちらに来ている者は、皆、把握しているし、エッジスタート内にいるはずなんだがなあ、、」

「ええ、何か事情がありそうだったわ」

 リルネは二人の話を聞きながら、フェリーシアがヨハンは白バラ十字団ではないと言った理由がわかった。

「そうすると、ヨハンも新大陸の人なのね」

「ええ、そうね。鍼治療や気の鍛錬の手法は、新大陸では古くから普及しているけれど、旧大陸にはまだないのよ。新大陸から持ち込まれたものは、エッジスタート国内だけでしか使われていないし、、。彼も新大陸の人か、ここでそれを学んだのか、なのよね。ただ、あの手際の良さは、新大陸で直に会得したものだととしか考えられないわ」

「そうか、、ヨハンも新大陸の人なんだ、、」

 今日は新たに知ることばかりで、リルネの頭の許容量をはるかに越えていた。


 晩餐も終わり、それぞれが部屋へと戻っていった。



 フェリーシアは侍女を下がらせ、ソファに座りひとり物思いにふけっていた。

 フェリーシアには誰にも話したことのない秘密があった。それは親にも言ったことがなかった。彼女が新大陸にいた時から、城を出て外を自由に回りたがっていた理由だ。


 幼い頃、絵本が大好きでよく読んでいた。ある日、白馬の王子の童話を読んでいると、急に胸の奥からなつかしさが込み上げてきた。幼いフェリーシアには何が起きたのかよくわからなかったが、ただ、なつかしい人のいるらしいことがわかった。そしてその人に会いたいと思った。

 顔も名前もわからない。だから探しようもない。月日が経てばそれは消えていくのだろうと思った。しかし、それは消えることも褪せることもなく、フェリーシアの心の中にずっと残っていた。

 物事の分別がつく年齢になると、彼女は誰だかわからないその人を探すようになった。新大陸のあちこちを回ってみたが、それらしき人は見当たらなかった。

 思い切って旧大陸に来てみた。旧大陸では旅という形でしか回ることができないから、靄の中を歩いているようだった。

 自分はいったい何をしているのだろうかと思うこともあったが、そんな時、リルネを迎えに東の山岳地帯へ行くことになった。

 リルネに会った時、突然、あの幼い時に感じたなつかしさが込み上げてきた。その場は自分の感情を押さえて、すぐに気持ちを切り替えたが、その晩は一睡もできなかった。自分の探していた人は彼女に違いないと思った。

 しかしびっくりした。こんなところで出会うなんて、、それも女の子だったなんて。




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