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21話 弁競演会の開演

 リルネは修道院で大祝祭の開会を聞いた。そしてその日、マーチンと一緒にフレンクランへと出発した。


 フレンクランに到着したのは大祝祭3日目の日だった。1ヶ月ぶりにフレンクランに戻って来たリルネは、街の変わりようにびっくりした。どこもかしこも観光客でいっぱいで、人々はワインを飲みながら楽しそうに歓談していた。


 リルネはバーグの店でなく、1階が大衆食堂になっている2階の宿部屋に案内された。そこにはフェリーシアと数名のメンバーがいた。


「おかえり! リルネ、元気だった?」

 フェリーシアは笑顔でリルネを迎えた。もう何か月も会っていなかったような気がする。

「ええ、私は元気だったけど、フェリーシアは大変だったんでしょ?」

「そうね、いろいろあったわ。お腹すいていない? 下で何か食べながら話しましょう」

 フェリーシアはマーチンともう一人伴って、リルネと一緒に階下に下りた。適当に食事とワインを4人分頼むと、フェリーシアは今までの経緯を簡単にリルネに説明した。

 リルネは静かに聞いていたが、後半はさすがに青ざめていた。

「よく無事で、、。そんな、綱渡りみたいなことを、、。カルレン公がいい人だったから、、よかったものの、、、」

 リルネは泣きたくなってしまった。この人は、、自分の国が危機に瀕したら、自分の命まで投げ打ってしまうのだろうか、、。理由はわからないけれど、やはり、それは、、切なかった。


「心配かけて、ごめんなさい。昨日、叔父様にもさんざん絞られたわ」

「国王がここに来ていらっしゃるのね」

「ええ、今迎賓館にいるわ。すぐにでもあなたを、エッジスタートに連れて行きたいようだったけれど、、。少し我慢してもらっているわ」

 フェリーシアは「冗談よ」とウィンクをして続けた。

「ところでリルネ、あなたはどんな風に過ごしていたの? なんだか顔色もいいみたいだけど、、。修道院の生活は合っていたようね」

「ええ、そうね。静かで、いくらでも本が読めて、清涼な雰囲気で、、とてもよかったの」

「あなたは、、そういう清閑な空気が好きなのね、、」


 リルネは修道院での生活をフェリーシアに話した。そして、自分がある考えに至ったことを伝えた。しかしリルネは彼女に話しながら、実はどのように身の振りをしたらいいのか、、まったく考えがなかった。

 ちょうどその時、フェリーシアはリルネの肩越しに、顔見知りの人物が店に入って来たのを見た。フェリーシアの顔を見てリルネも振り返った。するとそこには、何と、黒コートを羽織ったヨハンがいた。

 ヨハンもすぐ二人に気づき、びっくりした様子で近づいてきた。

「うわ~、奇遇だね。君たちとこんなところで会えるなんて! 人が多すぎて、もう会えないと思っていたよ」

「そうね、本当に驚きだわ! あなたも食事にきたのでしょう」

 フェリーシアは同じテーブルに席を作った。そしてマーチンたちにもヨハンを紹介した。リルネはヨハンの黒コートを見るなり、はっとある考えが浮かんだ。

 リルネは笑いをこらえつつ、何やらニヤニヤしている。

「ねえねえ、ヨハン、、ヨハンのコート、私に貸してくれない? やってみたいことがあるの」

 リルネはフェリーシアに思いついたことを話した。


「あなたって、、変わってるわよね、、」

 話を聞いたフェリーシアは、珍妙な動物でも見るかのようにリルネを見た。

「面白そうじゃない? うまくいけばこの試合、ドローになるかもしれないでしょ?」

 フェリーシアはマーチンたちに目をやると、彼らもお手上げというように肩をすくませた。

「あなたの身の安全が確保できるのだったら、私はかまわないわ」

 リルネは何でこんなことをするのかヨハンにもわかるように、簡単に事情を説明した。すると今度はヨハンが面白がり、彼までもやる気になってしまった。

 場所を部屋に移すと、残りのメンバーにもリルネの計画を説明し、彼らも加わって本番に備えての打ち合わせをした。



 弁競演会当日、バーグをはじめとしたメンバーたちは、手に手に大きなズダ袋を抱えていた。マーチンはヨハンの黒マントを入れたカバンを、リルネは10㎝高の木箱を持って、会場のスタジアムに向かった。フェリーシアは念のため別行動で会場に向かう。

 会場付近はチケットを持った人でいっぱいだった。メンバーはそれぞれの配置へと向かって行った。

 バーグはリルネとマーチンにチケットを渡した。このチケットはリルネの計画を成功させるために、バーグたちが自分たちの情報網を駆使しながら手に入れたものだった。

 バーグの差し出したチケットには、『レフトゥル博士側-AA-1-12』となっていた。

「レフトゥル先生の後ろに4人のアシスタントが座ります。これはそのすぐ後ろの席です」

「うわ~、すごくいい席ですね! よく取れましたね」

 リルネもびっくりだった。

「この席の周辺はレフトゥル先生の後援会の方たちですから、先生が勝つにはこれしかありません!と、説得し倒し、譲っていただきました」

「ありがとうございます。大切に使います」

 リルネはそう言ってチケットを受け取った。まるで自分が弁競演会の参加者にでもなったような気分だった。

「では、行ってきます!」

 リルネはそう言うと、マーチンと一緒にスタジアムに入っていった。


 会場の中は、もうほとんど席が埋まっていた。弁競演会が行われるのは、スタジアムのアリーナ中央になる。そこには司会台と、その前に向かい合わせに、椅子が距離をおいて置かれていた。椅子の後ろには長テーブルがあり、4人分の椅子が備えつけられている。

 観客席の方は2階席3階席があり、その上に全体を見下す形で来賓席が設置されている。

 リルネとマーチンはチケットを見ながら自分たちの席を探した。さっきのバーグの話だと相当前のはずだ。

 『AA』というのは討論者たちの真後ろの区画のことだった。その『1-12』は討論者たちの真後ろの列、通路側から12番目、アシスタント用の椅子の真後ろだ。

 リルネは12番、マーチンはその手前11番の席に座った。周りはサックセン国の豪商や貴族たちばかりで、リルネはずいぶんと場違いな気がしたが、そんなことはもう関係ない。自分はここで大芝居を打つのだ。

 観客席を見上げると、アリーナの低いフェンスの向こう、そして上の階まで、大勢の人で埋まっていた。まるで真ん中にある2つの椅子に、人々が覆いかぶさるかのようにせまって見える。人々のざわめきがスタジアムの中を駆け巡り、中央の弁論場に流れ込んでくるようだった。皆この最後のイベントに、気持ちが高ぶっているのが感じられる。


 チャイムが大きく3回鳴らされた。会場の全観衆がアリーナ中央を見る。とうとう世紀の弁競演会が始まろうとしていた。


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