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1話 お迎え

 フェリーシアは、エッジスタートの国王である叔父に呼ばれ、急いで髪をハーフアップにして叔父の執務室へ向かった。ちょうどお忍びの旅から戻ってきたところで、まるで彼女を待ち構えていたようなタイミングだった。本国のお父様から手紙が届いたらしいけれど、戻って来いという催促でないことを願っている。


 海の向こうの新大陸では、父親は国王、嫡子はフェリーシアだけだから、ゆくゆくは王位を継がなければならない。エッジスタートは旧大陸の国で、父の弟、アルフレットが治めている。旧大陸では、このエッジスタートの王家と一部の者を除き、新大陸の存在をまだ誰も知らない。


 執務室には、国王と宰相のシューベル・トゥバイン公爵、外相のスコット・アルフレン公爵がいた。そして二人の子女、姉弟にあたるシャルロットとランスロットもいる。母親を早くに亡くしている二人は、8歳と5歳で、国政に携わるにはまだ幼い年齢だが、国王は、新大陸関連の重要な案件には、必ず彼らも同席させるようにしていた。


「おお、待っていたぞ、フェリーシア。昨日戻ったらしいな」

「はい、もう日も暮れておりましたため、ご挨拶は翌日にと思っておりました」

「そうか。しかしそなたは、何ゆえあちこち外回りをしたがるのかのう、、。ここ旧大陸は、新大陸と違って治安の悪いところも多い。いくら各地に我が国の間者がいると言っても、王族が身分を隠して旅をするのは、褒められたことではないぞ」

「はい、わかっております、叔父様。けれど、もう少しだけ、私のわがままをお許しください」


 国王はため息をついた。フェリーシアは本国にいた時から地方巡りを好んだ。課せられた勉学や責務をこなした上での事なので、文句の言いようもなかったが、新大陸は別としてもここ旧大陸では、王族の遊びとしては似つかわしいものではなかった。それを抜かせば、気品も容姿も聡明さも全て兼ね備えている申し分のない王女なのだったが、、まあ、今日は説教をするために呼んだわけではない。


「さっそくだが、本題に入ろう。新大陸の兄上からの手紙だ」

 国王は、トゥバイン公爵に手紙を渡し代読させた。

「『アルフレット、息災のことと思う。そちらでの日々の激務、頭の下がる思いだ。さて先日、神仙峯から老師が来られた。もう何年になるか、フレデリックとヘンリエッタに養育を任せたあの赤子を、そろそろ引き取りたいと言ってきたのだ。おまえに任せっぱなしであったが、あの赤子も大きくなったことであろう。頃合いを見計らってその娘をこちらに送ってはくれぬか。手間を取らせるがよろしく頼む』とのことでございます」

「うむ、シューベル、あの娘は、もういくつになるかのう?」

「はい、15歳でございます。東の山岳地帯の村に行かれてすでに15年になります。フレデリック様とヘンリエッタ様からは毎年使いを通して、ご成長の報告を受けております」

「そうだな。ずいぶんと利発に育ったということではないか。神仙峯の血筋とあらば今後が楽しみだのう」

 フェリーシアは初耳だった。

「叔父様、神仙峯から子どもを預かっていたのですか?」

「そうか、おまえは知らなかったか。神仙峯の老師様が兄上に頼んだそうだ。神仙峯から遠く離れたところで養育してほしいとな。何やら訳ありのようだが、我らは触れぬが良きことと理由は問わず、兄上がこちらに送ってこられたのだ。わざわざフレデリックとヘンリエッタを養育係に付けてのう。最初はエッジスタートで暮らせばよいと思っていたのだが、あの二人が旧大陸で生活するならば自給自足のすべも教えたいと、山奥の僻地を希望してきたのだ。それで治安の良い山村をいくつか見繕って、そこに居住の手はずを取った」

「そうでしたか。それでお父様は、その娘を連れてきてほしいとおっしゃってるのね」

「そうだ。うん? そ、そうだが、、、いやいや、おまえに言っているのではないぞ」

 国王はフェリーシアに外遊びをするよい口実を与えてしまうと思い、即座に一応くぎを刺す。

「はい、それは承知しております。でも、神仙峯のご息女なんて、、早く会ってみたいわ」

「それは、そうだの、、。それに、昔、兄上の教育係をしていた二人が養育したとなると、すでに一門の人物然としているやもしれんな」

 国王もどんな息女に成長したか早く見て見たかった。


「さて、それで、、」

「叔父様、やはりそのお迎え、私にさせてくださらない?」

「えっ、だ、だからおまえは! それに、昨日どこぞから戻ってきたばかりではないか!」

「はい、ですので、まだ荷も解いておりません。すぐにでも出発できます。東の山岳地帯でしたら、近くまで行ったことがありますから、迷うこともありません。それに、あまり人目につかないようお迎えをしたいのでしょう」

「それはそうだが、、だから、騎士団から2、3名だけ遣わせば、目立つこともないだろう」

「私は一人で動けますし、それに、大切なお嬢さまをお連れするのでしたら、女の私の方が身近でお守りすることもできますよ」

 国王もフェリーシアに任せれば大丈夫だろうとは思っている、が、しかし、ただでさえ自粛してほしい外遊びの後押しをするようなことはしたくない、、、国王も頭の痛いところだったが、

「はあ~、わかった。今回は、おまえに頼もう。各地の間者たちにも伝えておく。騎士団よりはおまえの方が、彼らも顔をよく知っているからな」


 国王はため息をつきながら、そのように指示を出した。


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