16話 リルネの修道院生活
リルネがこの修道院に来てから2週間がたつ。フレンクランの聖堂であった密談が終わって、リルネはバーグの部下マーチンに伴われて、サックセン国のレフトゥル派の修道院に来ていた。ここで短期の見習い修道女として生活していた。
修道院の生活は静かなものだった。日の出とともに起床する。まずは掃除をし、その後朝食を取り、朝の礼拝をして1日の活動が始まる。農園で果物や野菜を作る者、事務室で名簿管理や経理などの事務作業をする者など、それぞれに仕事が割り振られている。日が暮れると夕食となり、夜の祈祷会をして就寝となる。
リルネはこんな生活初めてだったが、時間が穏やかに流れるのは心地よかった。
レフトゥル博士について勉強したいということで入ったので、各自に振り分けられる仕事は免除してもらい、その時間は図書室にこもった。そしてウスンサーリとレフトゥルの論争文献と、レフトゥルの論文や講義録を読み漁った。
二人の主張は、教会の神父さんが言っていた通りだった。リルネも、ウスンサーリには共感できるがレフトゥルに共感するのは難しかった。こんな神学論争をお祭りの舞台で取り上げてどこが楽しいんだろうか。内容ではなく覇権争いのために行われるのは明白だった。意味も分からずノリで勝敗をつけるのだろうなあと思うと、二人が少し気の毒になった。
リルネは朝の務めである掃除をしていた。レフトゥルの勝ち筋がまったく見えない手詰まり感いっぱいの中、彼女はここに来た初日、院長に言われた言葉を思い出していた。
「レフトゥル博士とウスンサーリ博士の『自由意志論争』はいわば神学論争です。大祝祭の、それも弁競演会というような場で戦わせる内容ではないのですよ。ただ、私はもちろんレフトゥル博士の意見に賛同しています。何年か前に、レフトゥル博士はこの国の帝国議会に呼び出されて、そこで教皇から直接尋問されました。これまでの反抗的な書物や論文すべてを彼の目の前に置き、教皇は『これらの文章は全て汝が書いたものであるか?』と詰め寄ったのです。しかし、レフトゥル博士はまったく臆せず『はい、そうです。私は自分の発言を撤回しません』と言ったのです。彼は良心に率直だったのですね。それは修道士であった時も、国会に呼び出された時も、そして今も同じです」
彼が勇敢に最高権力者に立ち向かっているのはよくわかる。しかし、肝心の彼の主張がピンと来ない。でもレフトゥルには勝ってもらわなくてはならない。そうしなければエッジスタートのギルドをフレンクランやトーボルクから守れない。
リルネは今日も図書室にこもっていた。ただ今日は、二人の文献を読むのではなく、彼の主張のピンとこない点、論点のかみ合わない原因を突き止めようとしていた。レフトゥルが問題にしている論点はどこか、何で感情的になっているのか。
すると少しずつ何かが見え始めてきた。ズレの原因がわかってきたような気がする。だんだんとレフトゥルの言いたいことが、、視界が広がっていくのと同時に、、少しずつ見えてきた。
「もしかしたら、勝てるかもしれない」
リルネには一筋の光らしきものが見え始めていた。




