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14話 フレンクランのロッジ

 フェリーシアはバーグと一緒に、あるロッジに顔を出していた。素性を隠すため変装をして会員になったが、入会自体は推薦人集めと面接のみで、思ったより難しくなかった。ここのロッジはそれほど秘密主義ではないらしい。しかし、ここからが本番で、すみやかに事を進めなくてはならない。

 フェリーシアが入会してすぐに、複数のロッジ合同の集会があり、若いメンバーたちはその準備に忙しく動き回っていた。


 バーグとフェリーシアがメンバーの集まる居酒屋へ行くと、待ってましたとばかりにトーマスが寄ってきた。彼は商人の息子で政治や思想にそれほど関心があるわけではないが、ロッジに加入することで、今後のためのステイタスになると信じ、ここで交友関係を広げていた。

「やあ、バーグ、フィル、お疲れ! 景気はどうだい」

「大祝祭が近いからね、、そう悪くはないよ。まあ、君の所ほどじゃあないけどね」

 バーグは親しい友人のように答えていた。フェリーシアはここではフィルと名乗っている。

「はっはっはっ、ボクのところだってぼちぼちだよ。ところで明日の集会、やっと講演者たちが発表されたよ。半分以上はうちの幹部だ」

 トーマスはちょっと誇らしげだった。

「それにしても、公会堂でロッジの講演会をするっていうのも、なんかずいぶんと開けっぴろげだね」

 フェリーシアは声を低めながら言った。

「何が開けっぴろげなのさ。半年前の講演会だって同じところだったよ。君はまだ新人だから知らないと思うけど、こういう講演会はできるだけ大きいところでするのがいいんだよ。まあ、入れるのは、もちろんボクら会員だけだけどね」

「ここの幹部は他の支部にも顔が利くほど力があるのかい?」

「ああ、ここの幹部は貴族の中でもずいぶんと顔の利く面々さ。ボクもまだ顔しか知らないけどね。何しろお貴族さんたちは、こんなところには滅多に来ないからさ。でも彼らと同じグループっていうだけで、何かこう偉くなった気分がするだろう」

「ふう~ん、そういうもんなのかな、、。でも、ロッジ内では身分は関係なく、自由、平等なんだろう?」

「もちろんそうさ。まあ、、表向きは、、だね。でも、こうやって彼らと同じ会員だっていうことだけで、すでに、自由、平等じゃないか」

 トーマスは嬉しそうに言った。フェリーシアは正直、自分の考えていたロッジと違い驚いていた。

 その後も彼は、集会がどれほど盛況で、世の先端を走っているかを熱く語った。フェリーシアとバーグはそんな彼の話をずっと聞いていた。

 

 翌日、バーグは店を若いものに任せると、フェリーシアと一緒に公会堂へ向かった。

 会場付近はすでに人が集まっていた。

「やあ、来たね。バーグ、フィル、こっちだよ」

 二人を見つけたトーマスは、彼らを入口の方へ手招きしてチケットを切った。

「いや、すごい人だね! こんなに集まってくるなんて、驚いたよ」

「そうだろう。あそこを見てごらんよ。伯爵様とその取り巻きの貴族たちだよ。さっき馬車で到着したところさ。まだまだ来るらしいよ。今日は、ボクの人生最高の日になりそうだ!」

 トーマスは興奮気味に答えた。

 貴族たちは話ながら奥の別室へと案内されていた。バーグとフェリーシアはそれとは逆の方へと進んで行った。

 

 会場は2階席までいっぱいになっていた。1階は平民用の席で、たくさんの人でごった返している。二人はなるべく全体の様子がわかるように、後ろのほうに座った。

 しばらくすると同じロッジのメンバーである、ザラトロ、リべリエ、ピエールの3人も入って来て、フェリーシアたちとは反対側の後方に座った。彼らはいつも3人かたまっていた。たまに違うロッジメンバーなのか、見かけない者たちとも話していたが、居酒屋でもいつも彼らのところだけ、ピーンと張り詰めたような緊張感があった。


 そうこうするうちに集会が始まりだした。

 壇上に上がったのはフェリーシアたちのロッジの貴族、ストロリアン伯爵だった。

「皆さん、今日はようこそお集まりいただきました。いくつかの支部が集まってこのような盛大な集会を催すことができ、嬉しく思います。これも我が祖国を愛し、よりよき国を作ろうとする我らフレンクラン国民の熱き志の結晶です。この場でお互いに拍手を送りましょう!」

 会場からは大きな拍手が沸き起こった。

「さて、今日列強各国は、風変わりな哲学、信仰、そして政治思想に揺るがされ、国家のあるべき姿を見失っていると言っても過言ではありません。しかし、我がフレンクラン王国は、強い王政と確固とした教会倫理のもとで、今までにない繁栄を誇っています」

 再び拍手が起こる。フェリーシアは拍手をしながらびっくりしていた。これほどまでにはっきりと王政を支持するロッジを知らなかった。通常、ロッジは王政や教皇庁を批判するため、その身を守る手段として隠れながら活動するはずのものだったが、これでは王政当局のスポークスマンである。

 最後の演説者も終わり、参加者全員にワインが配られ交流の時間となった。2階席の貴族たちも大声で笑っている。

 ザラトロたちも配られたワインを持っていたが、やはり人の輪の中には入っていなかった。3人はワインを一気に飲み干すと会場から出て行った。


 その夜、バーグの店にフレンクラン首都近郊に住むエッジスタートの間者メンバーが集まっていた。

「今日のロッジ集会に参加した人はいる?」

 3人が手を上げた。

「フリーメイソンのロッジって、秘密主義で、時には錬金術の話をひそひそするような、そんな雰囲気を考えていたのだけれど、ここらへんのロッジはまるで違うのね」

「はい、、私も他国のメンバーの話を聞いていたものですから、最初はびっくりしました。フレンクランのロッジは、秘密結社というより王政擁護結社と言っていいくらいで、自由主義だとか錬金術などの話はあまりしません」

 一人がそう言うと、他のメンバーも続いた。

「私のロッジでは、国外のロッジとやり取りしている人がいまして、その人の話だと、他国のロッジは身分に関係なく、政治や教皇について話すそうです。しかし、フレンクランではそれができないと言っておりました。王政側の貴族が顔を利かせているため、そのような話はタブーになっています」

「そうなのね、、。フレンクランはロッジですら国王の息がかかっているということなのね」

 フェリーシアはため息をつくように言った。それを聞いて他のメンバーが発言した。

「しかしお嬢様、中には自由主義に惹かれている者もおりますよ。彼らは表向きそのような話はしませんが、信頼できる仲間うちではそういう話をしています」

「あら、そういう人たちもいるのね。安心したわ。その人たちはやはり平民層の人?」

「はい。私のロッジにいる者は学者です」

 フェリーシアは話を聞きながら、急にザラトロたちのことを思い出した。

「バーグ、私たちのロッジにもちょっと変わった人がいるわよね。ザラトロたち3人。彼らはどういうメンバーなのかしら?」

 バーグもまだ彼らのことはよく知らなかったが、そのかわりに他のメンバーが答えた。

「ザラトロというのは、貴族の家庭教師をしているザラトロでしょうか? もし彼でしたら、私のロッジにもちょくちょく顔を出してきます。自分のロッジでは話をする相手が少ないようで、時折顔を出して来ては何人かの決まったメンバーで話をしていますよ。彼は正真正銘の自由主義者です」

 フェリーシアの目が少し輝いた。

「もう少し詳しく、話を聞かせてちょうだい」

「はい、彼は法律が専門で外国の法制度をずいぶん勉強したらしいのです。彼が言うには、フレンクランは法律だけでなく政治制度も遅れているそうです。王政も教会もそれほど評価していません」

「バーグ、彼はどうかしら?」

「はい、彼と話してみるのはよいかと思います」


 フェリーシアは自分を囮にしようと考えていた。自分がエッジスタートのギルド関係者であることを匂わせ、錬金術を使うところを実際に見せて、それをロッジで噂として広めようとしていた。錬金術はヨハンがデュッセルン村でしていたことを拝借する。あれは「気」の知識がなければできないのだが、エッジスタートのごく一部の者は、それを知っていた。そしてフェリーシアもその一人である。

 ただそれを国王の近くの者に見せるわけにはいかない。噂は当局から離れたところで回ってくれなければ意味がないからだ。フレンクランのロッジは総じて当局に近すぎる。それが難点だった。




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