0話 フェリーシア
幼い頃、絵本が好きでよく読んでいた。ある日、白馬の王子の童話を読んでいると、急に胸の奥からなつかしさが込み上げてきた。幼いフェリーシアには何が起きたのかよくわからなかったが、ただ、なつかしい人のいるらしいことがわかった。そしてその人に会いたいと思った。
名前も顔もわからない。だから探しようもない。月日が経てばそれは消えていくのだろうと思った。しかし、それは消えることも色褪せることもなく、フェリーシアの心の中にずっと残っていた。
物事の分別がつく年齢になると、彼女は誰だかわからないその人を探すようになった。新大陸のあちこちを回ってみたが、それらしき人は見当たらなかった。
思い切って旧大陸に来てみた。旧大陸では旅という形でしか各地を回ることができないから、靄の中を歩いているようだった。
自分はいったい何をしているのだろうかと思うこともあったが、そんな時、彼女を迎えに東の山岳地帯へ行くことになった。
彼女に会った時、突然、あの幼い時に感じたなつかしさが込み上げてきた。その場は自分の感情を押さえて、すぐに気持ちを切り替えたが、その晩は一睡もできなかった。自分の探していた人は彼女に違いないと思った。
しかしびっくりした。こんなところで出会うなんて、、それも女の子だったなんて。
2ヶ月後、彼女は私に言った。
「私は嬉しい。本当に嬉しい。きっと、これは違う世界じゃない。見ている方向が違うだけ。背中をくっつけていれば私たちは一緒だよ。そしてそれはきっと同じ世界だよ」
彼女は私の手を取った。手と手を合わせてしっかりと指を組み合わせた。私の心の中の憂鬱が溶けて消えていくようだった。彼女はまぶしくて、温かくて、つないだ手を離したくないと思った。