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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
4/42

不思議之国

「そういえば、上でやばいの見かけた」

「やばいの?」


 俺はウラウネの言葉に首を傾げる。

 上………シャンカラの街で何かを見たらしい。やばいとは、どういう意味だろうか?


聖騎士(パラディン)が五人いた。たぶん、“神の涙”を探してる。売って正解だったよ」


 ウラウネは親指を立てる。

 俺は、頷く気になれなかった。

 あの時のローリエの顔を思い出す。あいつにとってオーリィは何だったのか。自分を封印した憎き相手ではないのか。

“神の涙”は、彼女にとってどんな物だったのか。


「ところで、あの子は?」

風月(ふうげつ)の所だ。この世界の常識について知りたいらしい」

「お前、余計なことしたのか?」


 俺はウラウネに、さっきあったことを話した。


「オーリィは謎多き女だから」


 ウラウネは言う。ウラウネ自身、自分達に非があるとは思っていない様子だ。確かに、知らなかったし知れなかったのだから仕方ない。


「謝った方がいいのか?」

「必要ない。それで、お前から離れるってんなら、それでいいはずだろ」


 そこで俺はハッとする。

 こいつは、“やばいの”の話をしにきたのではなかったか?


「おい、話の続きを」

「? あ、あー!」


 ウラウネはすっかり忘れていたらしい。俺はジト目でウラウネを睨む。

 ウラウネは照れ隠しに懐からタバコを取り出し、火をつける。

 三番通りを歩いていた子供連れが、ウラウネを睨みながら離れて行く。


「その聖騎士なんだが、“大天災”については何も知らないみたいなんだ。教会が正体を伏せたか、はたまた、教会も知らないのかは不明だけど」


 ウラウネはため息をつく。

 タバコの煙が一緒に出てきた。


「だが、“捨て猫”のことは探してるみたいだった」

「やっぱりか」


 怪盗をしている以上、知らない人間に正体を知られるわけにはいかない。

 俺は、結局犯罪者でしかないのだから。


「そんで、あいつらも地下街が怪しいと思ったらしくて」


 ウラウネがそう言いかけた時、遠くの方で悲鳴が聞こえた。子供の声だろう。


 聖騎士の鎧が音を立てて迫って来るのを感じる。

 バレないはずだ。おそらく。

 俺とウラウネは頷き合って知らないフリをして逃げることにした。

 しかし、


「お前ら、地下街に住んでるだろ?」


 ウラウネが舌打ちする。

 思ったより、相手の足は速いようだ。


「怪盗がいるらしいが、知らないか?」

「残念だけど、地下街の連中は身内以外に興味がなくてね」


 聖騎士はウラウネを見て、言う。


「いい身体だな? どうだ、今夜俺と……」

「断る、外道。私は顔も知らない相手と約束はしない」


 もっともだ。


 聖騎士は今度は俺を見る。


「お前は?」

「こいつの身内だよ。同じく、何も知らない」


 俺達はとっさに金の入った袋を隠していた。

 金の出所を探られたら厄介だったからな。


「本当か? 何か隠してねぇだろうな?」


 余裕のあるフリをしているが、内心は焦っているのだろう。俺はウラウネに合図した。今こそ、〈読心(テレパス)〉の出番だ。

 ウラウネは頷く。


「怪盗に何か盗まれたの?」

「ああ。とっても大事なお宝が」

「でも、怪盗ならもう売ってるんじゃないか?」


 聖騎士達はざわめく。まさか、その可能性は考慮してなかったのか? 流石ウラウネ。ちゃんと心を病んでいるらしい。


「よかったら、怪盗が物を売りそうな店、教えようか?」

「………」


 聖騎士達は迷っているらしい。しかし、一人が進み出た。嫌な予感がする。


「お、お前………! “詐欺師”のウラウネだろ! 聖教会で期待されてた………。皆んな、気をつけろ! こいつは人の心を読む!」


 聖騎士達はすぐに剣を抜いた。

 魔術師に手加減する気はないらしい。


「ちっ。悪い。顔が見えないとやり辛いんだよ」

「わかってる。逃げるぞ」


 しかし、相手もプロだ。簡単に逃してはくれない。俺達はすぐに囲まれた。

 こんな所に、風月やローリエが来ればまずい。それ以上に、こいつらを教会に帰すわけにはいかない。

 俺はすぐに電話機を取り出して、とある人物に電話する。

 この状況を打開できる、唯一の魔術師だ。


「その必要はないよん♪ 全く、困るんだよ。私の縄張り(テリトリー)で暴れられたらさぁ」


 周りで様子を見ていた住人達の目に光が宿る。


 実は、この街、魔術師の存在については理解している。

 シャンカラの地下街にはとんでもない魔法使いが五人いる。そんな噂があって、街の住人は時折、助けを求めにやって来る。

 そんな住人の迷いごとを表向きに対応しているのが、彼女だ。

 青いワンピースに、金髪碧眼のツインテール。髪を結んでいるのは、死んだ兄がくれたという青いリボン。

 誰が見ても美少女だが、一つ残念なのは、いつも白いウサギのぬいぐるみを持っていることだろう。

 かつて、“怪盗捨て猫”とかいうやつが誕生日プレゼントで送ったものだ。


「アリス! そいつら敵だ! 殺せ!」

「オールオーケー」


 アリスは、聖騎士達を引き摺り込んだ。


   ○○○


「何だ、ここ!?」


 アリスは聖騎士達の反応に笑いを堪えきれなかった。

 これから、挽き肉(ミンチ)にされるというのに、平和な脳味噌だ。


「はじめまして、あるいはさようなら。“不思議之国”のアリスでーす!」


 アリスの持つウサギのぬいぐるみが肥大化する。

 聖騎士達が悲鳴を上げた。

 ウサギは、愛らしいぬいぐるみの面影を捨てて、ただの化け物へと変化した。


「かいせーつ! 私の魔術、〈不思議之国(ワンダーランド)〉は異空間であらゆる事象を起こすことができます!」


 聖騎士達の顔が恐怖で染まっている。

 頭は地味に良いようだ。


 そう。この空間にいる限り、アリスは倒せない。

 アリスは死なない。たとえ、攻撃を受けても回復するのだ。

 それは、彼女が生み出したこのウサギにも言えることで。

 そして、彼女は好きな事象を起こせる。例えば、聖騎士達が死ぬという事象を起こせばどうなる?


「安心して! 私、“死ぬ”命令はしないの! だってぇ」


 アリスは残酷に笑う。


「すぐに死んだら、悲鳴が聞こえないもん♪」 


 聖騎士達の自我は崩壊する。

 出ることも生き残ることもできないこの空間で、自分達はいずれ死ぬ。

 この少女にぐちゃぐちゃにされて。


「神よ! お助けをぉ!」

「ああ、こんな任務、受けるんじゃなかったぁ!」

「母さん母さん母さん母さん………」

「死にたくねぇ!」

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ」


「あっははっ! よく叫ぶわねぇ!」


 アリスはウサギを撫でる。


「赤く染めちゃえ、うさぎちゃん」


   ○○○


「外が騒がしいですね」

「そうね」


 ローリエは風月に尋ねる。

 世界の常識には関係ないことだ。


「この地下街?には、魔術師が何人いるのですか?」


 ローリエが知っているのは、ルシェルと風月だけだ。


「ルシェルと私。あとはアリスっていう可愛い女の子と、ルシェルの悪友のウラウネさん。それから放浪癖があって滅多に帰って来ないミーウ」


 つまり、五人。

 片手で数える程しかいない。


「そんな人数で、戦えるんですか?」

「ええ。最強の布陣よ。特に、アリスは」


 ローリエは首を傾げる。

 この世界の魔術師の強さがわからない。一体、どれほどのものなのだろうか?

 それに、風月の魔術もわからない。


「風月さんの魔術は」

「シークレット。私のは秘密なの。仲間しか知らないから」


 仲間とは、ルシェル達のことだろうか。

 ローリエは違うのだろうか。いつか、仲間と呼んでくれるだろうか?


「わかりました。私の魔術も言ってないですし、お互いさまですよね」


 風月はぎこちなく頷く。

 見つめていると目を逸らされる。


「もしかして、風月さんの魔術って………」

「トップシークレットだから!」


 ドーベルマンのベルーガが面倒くさそうに欠伸をしていた。


   ○○○


 俺とウラウネは、再び現れたアリスに駆け寄った。

 ウサギのぬいぐるみは赤く染まっていた。


「やったか?」

「うん。もう大丈夫」


 アリスは頷く。

 怪我もしていないようだしこれで一安心か。


 だが、


「今回のことで、教会は本格的に“大天災”を探し始める」


 ウラウネは俺の心を読んだのか、アリスに言う。

 アリスは難しい話はわからないとでも言いたげに、肩をすくめた。


「私達が彼女を守る必要ある? あの子のために命を散らせる? それだけの価値があの子にある?」


 アリスは静かに言った。


「だが、聖教会の言う事を聞くのか?」


 俺は言う。

 北大陸で生まれ育ったアリスには、聖教会の恐ろしさがわからないかもしれない。

 それこそ、聖騎士達を虫を潰す様に殺したのだろうし。


「………彼女の魔術。それによる」

「本当に“大天災”なのか、知りたいんだな?」


 アリスは頷く。


「そうか。じゃあ、行くぞ」


   ○○○


「頼む、死神。俺をもう一度、送ってくれ」

《断る》


 もう数百年、このやり取りを続けていることだろう。

 このオーリィとかいう男は、死神に転生の話を持ちかけてくる。


 確かに、自分はこの男に祝福したが、二度も三度もする気はない。


《天に還れ。俺はお前の母親ではない》

「頼む……。やっぱり、俺は耐えられない。早く、ローリエを助けてやりたい!」

《心配せずとも、その内適任者を見つけて祝福を授ける》


 オーリィの顔は絶望に歪んだ。


「俺のことを忘れて、彼女は幸せになるのか?」

《そうだ。俺にはお前やローリエがどうなろうが知ったことではない》

「ローリエは生命神の祝福を受けた“神子”だろう!」


 死神は顔を顰めた。

 死神と生命神は、夫婦である。

 だから、多少なりとも助ける気があるし、幸せになって欲しいとも思う。

 だが、この目の前のオーリィはその限りではない。不幸だろうが幸せだろうが、面倒を見るのは死ぬまでだ。

 そして、この男は真実を知る者として密かに処刑された。つまり、死者である。


《去れ。同じことを何度も何度も》

「頼む、死神」


 死神は立ち上がった。

 オーリィの目の前で立ち止まる。


《ならば、俺に何を捧げる》

「ずっと前からあげてるだろ。一生の忠誠を」

《駄目だ。貴様の魂は、毎度毎度同じことを言う》

「ちょっと待て。毎度毎度? 死神、俺は何度も転生してるのか? つまり、今回も」

《騙されぬ。いつもそう言う》


 死神はオーリィにデコピンをする。

 オーリィは、死神の部屋の壁を突き破り、遥か彼方へ飛んでいった。

 すると、生命神が入ってくる。


《また虐めてる》

《うるさい。あいつはしつこい》


 生命神はクスクスと笑う。


《そう言って気に入ってるんでしょ?》

《今回こそは駄目だ。死神は“神子”を作らない》


 生命神は何も言わなかった。

 ただ静かに、死神の手に自分の手を重ねた。


《私の“神子”が可哀想よ》

題名のやつ殆ど出てこない説。

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