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怪盗は盗んだ宝と恋をする  作者: 野良猫氏
地下街の魔術師編
2/42

目覚め

「…………おい、“捨て猫”」

「黙れ。盗んだ宝から出てきたんだ」


 服を持ってきた人物………地下街で“魔薬”を販売している、“詐欺師”のウラウネは、俺の部屋にいる少女を見て顔を顰めた。

 年齢不詳、性別不明(たぶん女)は、若くて綺麗な人が好きではない。

 この少女が、俺達の基準で()()かはわからないが、無垢な表情からは()()とも思えない。


「そいつは、どんな宝だ?」

「…………“神の涙”、って言ったらわかるか?」


 ウラウネは、ギョッとして少女から飛び退いた。

 そして、腰の短剣を抜く。


「離れろ、そいつは“大天災”だ」

「なんだそれは」


 俺はウラウネが持って来た服を畳んで、少女の枕元に置く。

 この少女の名前はそんなに物騒なのか?


「そういや、お前は“フリー”の魔術師だったな」


 “フリー”とは、魔術師を管理している自称正義組織の“聖教会”が確認していない魔術師のことである。

 普通は、生まれてすぐに子供が魔術を使えるとわかると、親はその子を教会に連れて行く。

 魔術師は世間から“悪魔の子”と呼ばれているからだ。

 そんな魔術師を保護、育成し自らの兵器とするのが聖教会である。

 大人になれば、聖教会を出ることも認められているが、出て行く者達を“異端魔術師”や“魔女”と呼び、聖教会は見捨てる。

 そんな仕組み(システム)のため、“異端魔術師”は少ない。

 反対に、発展していない北大陸や東大陸には教会そのものが少ないために、“フリー”の魔術師が多かったりする。

 そんな大陸に、“異端魔術師”達は駆け込んで来るので、世間様は北と東を“無法地帯”だの“田舎”だのと呼んでいるわけだ。


 ウラウネは、“異端魔術師”である。

 その能力は〈読心(テレパス)〉だ。

 相手の心を読み取り、秘密や感情を知ることができる。

 そんな能力のために聖教会からは期待されていたが、嫌気が差して逃げて来たとか。


「“大天災”は、“大賢者”オーリィ・マクスウェルが封印した千年前の厄災だよ。まさか、少女の形をしていたなんてな」


 いや、少女の形っていうか、この少女が何らかの理由で“大天災”と呼ばれていただけなのでは?


 俺は少女の眠っているベッドに腰をかけた。


「剣はしまえ。ここは俺の家だ」

「…………」


 ウラウネはゆっくりと短剣をしまう。

 少女は依然、眠ったままだ。


「その“神の涙”は、なんで盗んだ? “捨て猫”」

「とある筋からの依頼だ。持って来たのは」

風月(ふうげつ)、だろ」


 俺は頷く。

 “北の情報屋”としても名高い彼女だが、俺達シャンカラ地下街の魔術師は“近所のおかしなお姉さん”という印象しかない。

 ことあるごとに絡んで来ては、フラフラっとどこかへ消えて数日は顔を見なくなる。

 地下街でやつの餌食になった人間は数え切れない程いることだろう。


「でも、あの女、電話機持ってないだろ」

「そーだな。情報屋のくせに」


 電話機は、発明王カーディーが生み出した便利道具の一つである。

 この世界のゴミに違いはないが、便利だしそこら中にあるので、処分を後回しにしているものの一つだ。

 そんな俺でさえ便利と思っているものを、あの風月とかいう女は持っていないのだ。


「ちなみに、“神の涙”はどうなってんの?」


 俺は黙って、少女の足元に落ちていたものをウラウネに渡す。

 ただの宝石だ。

 魔力も何も感じない。それは元からか………。

 つまり、盗んだ時と何も変わっていないのだ。


「ふぅ。良かったな。これ、上で売っていいか?」

「シャンカラでか? リスクが高い。隣街の港に向かう行商人にでも売っておけ」

「わかった。金は山分けってことで」

「ああ。交渉成立だ」


 俺達は握手し合う。

 依頼は破棄だ。成功した場合にしか報酬は貰わないので、風月には後で頑張ってもらおう。

 今は金だ。この綺麗な宝石はきっと高値で売れる。

 ウラウネの交渉術にも期待だ。なんせこの女は口八丁だけで北大陸まで来たんだからな。

 まあ、〈読心(テレパス)〉なら当然ではあるが。


「そんで? その子はどうするんだ?」

「何も聞かずに放り出すのはどうかと。神から祝福を受けているなら見捨てる道理はない」

「そうか」


 ウラウネは少女を見る。


「私はもう行くわ。じゃあまた、“捨て猫”」


   ○○○


 少女は目を開けた。

 久しぶりに感じる光に、音に、少女の心は躍った。


「ここ、は?」


 掠れた声が喉から出てくる。

 ゆっくりと起き上がって、辺りを見回した。


 見たことない物が多い。

 石、だろうか。灰色の壁の部屋だ。天井も同じ色なので、洞窟の中にいるのかもしれない。

 ベッドはふかふかで、少女が使っていた高級な獣の毛皮よりも質が良かった。

 ここに住んでいるのは貴族か何かだろうか?


「……そういえば、私、封印されて……」


 オーリィという魔術師に封印されたのではなかったか。

 死ぬことも、生きることも許されずに。


 誰が助けてくれたのだろう?

 オーリィの魔術を解ける者がそうそういるとは思えない。


 そして、少女はとある事実に気がつく。

 自分は今、裸であった。


「…………!!」


 すぐに枕元の布に気がつく。

 綺麗な衣服だ。女ものなので、自分が着てもいいのだろうか?

 しばらく迷って、それを着る。

 見たこともない服のデザインだが、少女にはぴったりだった。


 ガチャリ、と扉の鍵が開けられる音がした。

 長年音の無い世界にいた少女の耳は、ウサギよりも鋭くなっていた。

 すぐに、布にくるまる。


「………やっと起きたか。体調は? どこか違和感を感じるところはあるか?」


 男の声だ。

 今まで、少女の世話をしてきたのは母親か村の女達だった。男性との接触は禁忌とされ、会うこともなかった。

 あの時までは。


「………まずは」


 恐る恐るその男の顔を見る。

 おそらく、ここに運んだということは自分の体も見たに違いない。

 もし、この事を村の長老が知れば彼は殺されるだろう。


「助けてくれたこと、感謝します。ありがとう」


 男は驚いたように目を見開いた。


「あの、違いましたか?」

「………いや、助けた……のは、俺だ」


 一瞬、言い淀んだが、確かに男は頷いた。


「その、失礼かもしれませんが……。ここは、どこでしょう?」

「北大陸のシャンカラの地下街………と言ってわかるか?」


 少女は首を傾げる。

 北大陸は、知っている。


 生物の住まない不毛の地とされていた場所だ。

 雪に覆われていることが多く、人間は到底住めたものではない、と。


「そう、なのですか? てっきり、北大陸には人間はいないものだと」

「昔はそうだったらしいな。人間が住み始めたのは、五百年くらい前らしい」

「そんなに、昔から………?」


 男は困った顔をして少女を見た。

 そして、男は言葉を紡ぐ。少女にとって、あまりにも残酷な真実を。


   ○○○


『嘘です……。私が封印されて、千年? 私が“大天災”? 

私は、私は……神様に祝福されただけの、人間です!』


 そう叫んで以来、少女は口をきいてくれない。

 もっと聞きたいことがあるのか、時折俺の方を見てくる。正直、うざい。

 彼女とて、自分が悪いとはわかっているのだろうが、信じられないのだろう。家族も友人も、もういないのだ。憎んでいるであろう、オーリィでさえ。


 俺はソファに座って本を読んでいた。

 上で買ったお気に入りの作家の新刊である。

 どうやら新しいジャンルに挑戦したらしい。恋の物語だ。


「あの」

「どうした?」


 俺は呆れた顔で少女を見る。


 この女は一千年も虚無の中で生きていたわりには幼い。姿は十五歳程だろうか。

 当時なら、結婚して子供がいてもおかしくない年齢だ。

 今だと、ちょっと結婚には早い。が、認められていないわけでもない。

 もしかしたら、“神子”として甘やかされていたのだろうか。


「私は、どうして“大天災”なのですか。貴方も、私を恐れますか、オーリィのように」

「俺の能力は〈能力解除(スキルキャンセル)〉だからな。お前の力については知らないが、怖いとは思わない」


 少女は目を丸くする。

 それから。


 微笑んでいた。頬に涙がつたい、ベッドに落ちる。


「私、私……。畏れられていました。辛くて、悲しくて、寂しくて。貴方が初めてなんです。私を助けてくれたのも、心配してくれたのも、普通の人間みたいに気遣ってくれたのも」

「…………」

「あの、もしよければ、もうしばらく、一緒にいてもいいですか?」


 俺は、本を閉じて少女に近づく。

 彼女は不安そうに、俺を見返した。


「好きなだけ居ろ。俺は別に構わない」

「…………はい!」


 少女は言う。とびきりの笑顔で。


「ありがとう」


 こんな少女が“大天災”などとは正直、信じ難いものだった。


   ○○○


 聖教会から派遣された聖騎士(パラディン)、五名は北大陸最大の都市であるシャンカラを歩いていた。


「田舎だな。電気は通っているが、乗り物がない」

「まだ、馬車だぜ? いつの時代だよ」


 聖騎士達は、ゲラゲラ笑いながら街を歩く。

 彼らは信じていた。

 神の祝福は絶対であり、決して“悪”である“大天災”には負けない、と。


「あら、こんにちは。珍しい服ですね」


 故に、油断した。

 貧弱そうな女。しかし、その身は美しく、清潔な衣装に包まれている。

 髪からはいい匂いが漂い、彼女の品の良さが伺えた。


「北大陸では、外からの客人をもてなすのが礼儀とされています。ただ、貴方方の身につけているものが物騒で、住人は困惑しているようです」


 彼女は遠回しに、鎧は脱ぐか、それができないなら帰れと言ってきた。

 そんなことがわからないほど、聖騎士は馬鹿ではなかった。


「なんだと! 神の祝福も受けぬお前が教会の使者である俺達に命令するな!」


 彼女はふっと微笑む。


(わたくし)が神の祝福を受けた者でないと、いつ言いましたか?」

「っ!?」

「まあ、戦闘向きではありませんが、ね」


 聖騎士達は剣を抜く。


 戦闘向きでない魔術は、多くない。

 そして、それらは決まって厄介極まりない能力だ。


 教会の者ではないなら尚更、ここで捕まえるか殺すかしたかった。


「こらこら。ここで喧嘩はいけませんよ」


 彼女はクスクスと笑って、周りを見た。


「たいへん! 外からの客人が(わたくし)に凶器を! 体を売れとせがんで………!」


 聖騎士達はギョッとする。

 彼女は涙を流していた。


 街の者は、聖騎士達に詰め寄る。

 数が多いし、騒ぎを起こすなと言われていた。

 田舎者とはいえ、一般人だ。教会に怒られるのは目に見えている。


「そこの者、武器を下ろせ!」


 馬に乗った衛兵がやってきた。

 聖騎士達は、誤解を解こうと、女を探した。


 しかし、そこには誰もいなかった。まるで、最初から存在しなかったかのように。

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