『列車の旅の光と影』
『列車の旅の光と影』
㈠
俺は、列車の旅というものが、幼い頃、余り好きではなかった。あと何分で次の駅につくのか、そればかり気になって、目的の駅までの時間ばかりを考えていた。駅名も、方向も、分からなかった。脳内が乱数だらけの、列車の乗車だったのである。
㈡
しかし、今になって、ようやく、列車の旅の面白さを知った気がする。何も考えずに、ただ列車に揺られるのは、何とも心地の良いものだ。外の風景を、窓側の席から眺めて、ほんの空想に浸ることもまた、楽しいことだと、気付いたのである。
㈢
この、何も考えない、が光、あの、時間ばかり気になる、が影、ということなのだ。列車の旅は、自己に新しい世界と空間を齎してくれる。最高の上の最上である。俺は、こんな列車の旅の光と影について、書くまでに、列車のことを、知ったということだろうか。