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天の川は見えないけれど

作者: 茶谷紅哉

「先輩、天の川見えませんね」


二人きりで歩く道。見上げてみれば、空は今にも雲に埋め尽くさんとしていた。


「七夕の日に晴れが少ないのってなんでなんでしょうね」

「そんなの偶然じゃないのか?」

「いや、織姫と彦星が喜びで涙を流しているから雨が降ってる、みたいなロマンチックな考え方もあるとは思いませんか?」

「雨が降ったら川が増水して二人は会えないって説も見た気がするけど」


ネットで調べた話だから、あくまで説には過ぎないだろうけど。


「わかりませんよ、人目を忍んで会うために雲に隠れてるのかもしれないですし」

「そうかもなー」


綺麗に隠れた天の川を見ると、それもあり得そうだな、なんて気分になる。

実際のところはいろいろとか考えられることもあるけれど、隣の後輩が七夕ロマンスに浸っているのを見ると余計なことは言うまいと思えてくる。


「ところで先輩、学校にあった短冊には何か書きましたか?」


七夕の恒例行事なのか、学校には笹と短冊が設置されていた。

後輩と二人で七夕気分に浮かれ、帰る前に短冊に願い事を書いてきたのだが、

「あとで聞きますから、お互い願い事見ないようにしましょう!」

などと後輩が言うものだから、お互いに書いたことを知らない。

今がその「あとで」なのだろう。


「後輩は何を書いたんだ?」

「そうですね……これからも先輩と一緒にいられますように、ですかね」

「叶うといいな、それ」


少し照れくさくなって、早歩きになる。

距離が離れた後輩から声が聞こえる。


「ひどくないですか!?っていうかおいてかないでください!あと書いたこと教えてくださいよー」


同じこと書いたなんて言えるわけないだろ。


「秘密だ」「えぇーずるいですよ」なんてやりとりしながら二人で歩いていく。

その空には、雲がぎっしりと詰め込まれ、わずかな隙間から半月がその存在を主張していた。

天の川は見えないまま。



これから先も、きっと後輩と一緒に日々を刻んでいくことになるだろう。

それでも、短冊に書かれた言葉を後輩が直接知る機会は訪れないはずだ。

「後輩とずっと一緒に過ごせますように」なんて書かれた恥ずかしい短冊は、明日には片づけられているだろうから。

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