明日への準備
私は高校を一通り見ると、家へ向かうことにしました。一度大通りに戻ると、右へ曲がり、二〇〇メートル先にあるアパートに着きました。
「ここが私の家になる所。鍵ももうもらっているから入ることができますね。」
大きな家具や荷物はないものの。数日分の服と布団がなくても寝ることができるように寝袋を用意しています。
「もう夕方になりましたし。また外へ出て食べに向かいますか。」
私は家から出て近くのファストフードへ向かうことにしました。
「えっと。買わないといけないのは、数日分の着替えとタオル、食料は学校支給で何冊かあった教科書、あとシャンプーとリンス、ボディソープ。それともしものための物と…。あ。」
「碇さん。こんばんは。」
私の家の隣人は先程、街を案内してくれた碇さんでした。
「あなたもここに住むのね。」
碇さんは以外にも思っていない様子で話しかけて下さりました。
「どうして驚かないのですか?」
碇さんは不思議にも思わない理由を丁寧に教えて下さりました。
「良い?このアパートは、第一海洋高校の女子寮なの。まあ。いくつかに分かれているんだけど。同じ時期に住むことになったから被っただけよ。」
私は納得したため、碇さんが独り言を言っていた内容について聞いてみることにしました。
「あなた。学校の行事を見ていないの?」
碇さんはため息を吐き、続きを話しました。
「入学式の翌日。つまり。今年は、六日からいくつかの班に分かれて、三週間で航海実習が行われるの。そのために、私たちが持って行かないといけない物のチェックをしているの。」
「それって、明後日から四週間ではないのですか?」
「え?」
碇さんは学校からメールで送られてきた航海実習のしおりを開き、見直し始めました。
「本当だ。明後日っていうことは。早く用意しないと。」
碇さんは忙しそうに買い物袋を持って、現れました。
「私もお手伝いします。今日のお礼です。」
「別に。あなたにお礼される事なんてしていないわよ。」
「良いですから行きましょう。碇さん。ショッピングセンターが閉まってしまいます。」
私は碇さんの手を掴み、町の方へ向かうことにしました。
「私も買う物がありますので、ご心配なく。」
私と碇さんはショッピングセンターで、明後日の実習に必要となる物を探すことにしました。
「酔い止めと…胃薬と。あと何か要りますか?」
私は碇さんに必要な物が他にないのか確認のため、尋ねました。
「そうね…。消毒液と絆創膏、ガーゼとテーピングが必要になるのではないかな。」
碇さんに言われながら、必要そうなものを買うと、今日の夜ご飯と明日のご飯を購入しに食品売り場に向かいました。
「あなたは今日、何を食べるの?」
碇さんは今までよりもトーンを低くして質問を頂いたため、私も碇さんの声に合わせて答えました。
「えっと。私のお引っ越しの荷物は、明日に来るようなので、軽い食べ物…お惣菜などを…」
「だったら。私の家に来て一緒に食べない?まあ。寂しいわけではないけど、話し相手がいるのは人にとって良い事ですし…。」
碇さんは照れくさそうに顔を私の方を向いてくれませんでしたが、提案して頂きました。
「そうですね。では私がお料理を振舞いますよ。」
私は碇さんに世話をしてもらう訳にはいかないと思い、率先してお料理をすることを提案しました。
「あなたはお客さんでしょ。私がやるから。任せて。」
碇さんは食材をいくつか買い物籠に入れていきます。
「肉ジャガだけど良い?」
肉ジャガに入るのは、豚肉、ジャガイモ、人参と玉葱。
「味は醤油と酒、みりんを少し入れる普通の奴だから。」
私は他の肉ジャガがあるのかも分からないまま、『はい』と返事をします。
碇さんは、籠をレジのボックスに入れて蓋をすると、会計を行います。
「薬って本当に高いよね。」
碇さんは財布を覗き込みながら、私にちょっとした声をこぼして支払いを行いました。
「そうですね。まあ。私たちには必要ですから消耗品として諦めてしまいますが。」
私も財布の中身を見て小銭が入っていないことに気づき、携帯のキャッシュ決済アプリを開いてタッチ。支払いを一括で計算しました。
私と碇さんはマイバッグに商品を入れて籠を指定の場所へと置き、外へと出ました。
「帰ろう。湊さん。」
「はい。碇さん。」
二人で少し照れながら、家へと戻ります。
「ヒナで良いですよ。碇さん」
「わ…私も碇でも鎖霧でも構わないわ。」
鎖霧ちゃんは私の方を見て嬉しそうに名前を呼んでくれるようになりました。
「ヒナ。家に帰るわよ。」
「うん。鎖霧ちゃん。」