自然の障壁
「何だか私たちって、島を急いで出港することが多いわね」
「緊急を要することが多いですし、これでも進む速度が他の班よりゆっくりだからね」
八丈島に着いて三〇分ほど経ち、早くも出港準備が整う箇所も出ていました。
「マチちゃん、今回はとても早いけど何か変えたの?」
「艦長の鼓舞と言いたいけど、到着前から学校側が揃えていたからあとは載せるだけらしいわ」
マチちゃんも半信半疑な状況だったのか疑いつつも辺りの積荷を確認していました。
「美岬ちゃん、状況の報告をお願い」
「はい!西之島は噴火警戒レベルを引き上げており、周囲の海域にも火山灰が降っていることが確認されています」
美岬ちゃんは分かっている情報を端的に伝えてくれましたが、刻々と様子が変化している現状は計画が定まりそうもありませんでした。
「もっと情報が欲しいね」
「はい。なので西之島の状況をはっきりと知るためにも電測員、水測員、通信員の長から話を聞こうかと」
美岬ちゃんはマチちゃんの反応を知っていたかのように準備を整えていました。
「あなた、早いわね」
「皆さんも既に集まって話し合いを始めているので」
「考えることは皆、同じ」
マチちゃんと美岬ちゃん、みんながお互いのことを知り、大きな問題を解決しようと頑張っているのが艦長の立場からも見えました。
「久方さん、あなたも行くわよ」
「え?私も?」
「当然、航海長だから当たり前よ」
千沙ちゃんはマチちゃんの誘いに耳を疑っていましたが、手を掴んで引っ張りながらマチちゃんは連れて行きました。
「漆、噴火直後に何かしらの音波で残っていたの?」
「ええ。怒号のようなうねりが航行中に確認したよ」
「見張りの人たちは『波の様子も変わらなかった』って言っていた。つまり怒号は音だけだから多少の震えはあったとしても航行の問題はないはず」
話し合いの場には、既に電測員の清水雫ちゃんが水測員の幸島漆ちゃんと通信員の佐倉美智子ちゃんの話を聞いて、知り得た情報をまとめていました。
「雫ちゃん、まとめてもらってごめんなさい」
「艦長、これは私の仕事だから、当然のこと」
雫ちゃんはこちらを見ずにただ黙々と聞き得た情報を集めて気になるところがあると再度聞いて確認していました。
「美智子は学校からの指令以外に通信員として何を拾った?」
「私は三つの通信を拾いました。一つ目は気象庁の噴火したと言う情報。二つ目は比叡が発信している通信。三つ目はノイズと悲鳴が混じったマリンガールズからの要請です」
「要請の内容は?」
「負傷者増加中。民家の被害甚大、マリンガールズだけでは難しく避難救援を求むと」
美智子ちゃんは言葉を噛み締めて言い、事の深刻さを物語っていました。
「負傷者が増えているってことは火山灰は既に到達しているはず。噴火で隆起した情報はある?」
「はい。比叡からの情報になりますが、西之島から東に姿を変えているそうです」
「隆起なんてそう簡単に起きるものではないはずなのにどうして」
災害で地形が大きく変わることは稀に思えて、そんなこともありません。こと日本において、火山噴火で海岸線を変化することや震災で海岸線が隆起してしまうこともありました。
「今は事象の有無よりも解決方法」
「西之島と父島の位置関係からして風向きは南東方向に吹いているかと」
雫ちゃんは無数に印を描いた地図に風向きと方角を書き加えてくれました。
「艦長が来る前にまとめておいたから説明をする」
「はい。お願いします」
雫ちゃんは三人で話し合って分かっている内容を教えてくれました。
「つまり、マリンガールズが避難をしているけど、避難する手段が少なくて私たちも人命救助すると…島に向かい方法は風上から風下に行くことになるから火山灰を避けながら島の東側に旋回しながら向かうんだね」
「ただ、島は混乱していると思うから、比叡の人たちとの連携は重視した方が良い」
「ノイズだらけでろくに連絡が取れないから大変だけど何とか連絡しないと…」
一人一人ができることを考えていきました。
「古式だけど、正確な連絡を取るならモールス信号で伝えるのが良いわね」
「マチちゃんってモールス信号を使えるの?」
マチちゃんは私の質問にため息を吐いて呆れ顔を見せました。
「満智子はできても比叡に理解できる人が居ないと思う…」
「名前呼びに若干違和感を感じるけど。安心しなさい比叡には超弩級の船ヲタクがいるのよ」
マチちゃんは不安な顔をしている雫ちゃんに迷いもない顔で言い切りました。
「そうでしょ。艦長」
私の方を見て、マチちゃんは返事を求める姿に思わず笑顔になり、会ったばかりなのに懐かしく感じる顔を思い浮かべた。
「うん。香里ちゃんなら安心だよ」
「香里って、いつも船を見ていた…比叡の副長沖野香里さんですか?」
美智子ちゃんも面識があったようで名前を聞いてきました。
「そうよ」
「でしたら安心です」
マチちゃんと美智子ちゃんは頷き合っていました。
「じゃあ。出港の準備もあと少しのことだし、私はモールス信号で比叡に通信を図ってみるわね」
「お願い」
各々の役割を決めて出港までの時間を無駄にしないように動き始めた。




