新しい出会いと曖昧な思い
「何これ?死んでいるの?」
私が温かい日差しにあたりながら、転寝してしまっていると、近くから声が聞こえてきました。誰が見ているのか。気になり、目を開けると、私と同い年くらいの女の子が私の顔の前で立っていました。
「あ。起きた。」
女の子は私が目を開いたことに驚いたようで、体を止めて話しかけてきました。
「なんだ…。ただ、寝ていただけだったのか。こんな都会の公園で寝る人なんていないよ。」
女の子は町の公園で寝ている人を見るのは初めてのようで、心配で私のことを見ていたそうです。
「陸に慣れていない感じを見るに、今日、海から来た人?」
私は女の子の的確な質問に頷いて返事をして答えました。
「もしかして、あなたも国立海洋学院第一高校の新入生なの?」
「はい。」
女の子は一度考えていたようですが、私の顔を再び見て、話しかけて下さりました。
「私は碇鎖霧。よろしく。もし、良かったら、町の案内をするけど。」
女の子の名前は、碇鎖霧さん。定住船金剛で住んでいたようで、三日前に陸の横須賀に上陸した私と同じ新入生だそうです。
「それにしても、変な話。三〇年前までは、一般的に陸で生活してきた人が陸から追い出されて海に出ることになるなんて。それに四〇年前の人にすれば、日本が空母を持つことになるなんて思いもしないでしょうね。」
碇さんが言っている話を説明すると、一〇〇年以上前。日本は、世界に対して国を賭けた戦争をしていました。人が戦艦や戦車に乗り、他国へ強引に侵略、領土を奪い合い、それによって、多くの人が亡くなってしまった残虐な争いに参加していました。しかし、一九四五年。八月に天皇さまの終戦放送において、日本が戦争に参加することも他国への軍事攻撃も、非核三原則の下、『核』にも関わらないことを誓った歴史があります。
しかし、二〇五〇年。現在では日本にも空母や戦艦をモチーフにした船を生活拠点とし、戦艦を動かすための学びまでもが復活してしまっているのです。
「まあ。戦闘行為をしないことを固く決めて、旧来の戦争時に救護していた女性を中心に動かすことを徹底しているからって、今までの国家間の決まりを破っているようで、気が引けてしまうわね。」
「碇さんは戦艦操作教育には反対なのですか。」
「反対ってわけではないけど。」
戦艦操作教育が始まる前、日本では偉い人たちによって、念入りに話し合いが行われてきました。『戦争を再び起こすのではないのか』や『終戦後に決めた取り決めを破っているのではないか』と反対派の人たちが立ち上がりました。それは偉い人だけではなく、国民も例外なく、話す話題として取り上げられた歴史があります。しかし、戦争を知らない人、若者を中心に戦争ではないと言う考え方にのる人や他の政策に賛同している人によって、反対派の意見が通じることも減り、強制とも言える政府による戦艦操作教育が実施されることとなりました。
「けど?」
「昔にしてみれば、考えられない考えだからさ。」
当然、過去に日本と戦い敗戦した国にしてみれば、遺憾な事態となっているのには、変わりないのが現状なのでしょうか。
私と碇さんはここで話しても生産性がないことを思い出し、話題を変えることにしました。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったね。教えてよ。」
「そうでした。不覚でした。自己紹介をしていませんでしたね。“私の名前は、湊ヒナと申します。今年、国立海洋学院第一高校横須賀基地に入学する。高校一年生です。”よろしくお願いします。」