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マリンガールズ〜思いを乗せた方舟〜  作者: ハナビ
海の学校
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新鮮な潮風と汽笛

集合時間まで私たちは広場を中心に集まった屋台を回って楽しんでいると、周囲にも生徒たちが集まり出しました。

「戦艦比叡…大きいわね」

鎖霧ちゃんは比叡の姿を見てこの後、動かす事になる船に恐怖を感じているのか震えました。

「私たちが動かすのが比叡とは…」

沖野さんは鎖霧ちゃんとは違い、驚いた顔で浮いている船を見ていました。

「沖野さん!楽しみね」

「うん」

鎖霧ちゃんは沖野さんの共感を求める返事にも元気よく答えました。恐怖があったわけではなく、楽しみで震えていたようで嬉しそうな顔で比叡を見つめているように感じました。

「あれが戦艦。私が乗れないなんて…」

私たちが広場で時間を潰していると、先程まで話していた潮原さんが憧れや怒りの念を込めた眼差しで戦艦の三隻を見ていました。

「あの人は確か。潮原さんだったかしら。」

「何よ。また、あんたたち。」

潮原さんは顔の表情を変える事なく、私たちの方を見て睨んでいました。

「何よ。その顔。怖いわよ」

鎖霧ちゃんは潮原さんの表情が一段と険しくなったのが見えたようで潮原さんを心配そうに見つめた。

「突然、学校から飛び出したあなたには、心配されたくないわよ」

「それは…。」

潮原さんは鎖霧ちゃんにもツンとした態度で言い返しました。

「私のことは別に良いでしょ」

鎖霧ちゃんの頬が一瞬、赤く見え、恥ずかしさを持っていたのだと感じました。

「ヒナ。見に行こう」

鎖霧ちゃんは私の手を掴み、潮原さんから離れるように艦船の側へと向かいました。

「待ってください。湊さん、碇さん。」

東雲さんは慌てて私たちに着いて来ました。

「沖野さんは見ないのかしら」

「あなたこそ。見たいのではありませんか?」

「私は昨日見ましたので」

私たちは比叡のそばに行き、改めて大きさに驚きました。

「やっぱり定住船とは違って、主砲や副砲があると大きく見えるわね」

「こんなに大きい船を動かすのですね」

私は定住船として使われていた艦船を基準にしていたのですが、戦艦としての役割がある比叡を見て驚きました。

「昔の人は基本的に手動で動かしていたって言うから私たちが動かせるくらい簡易的なシステムになっていると驚くわね」

鎖霧ちゃんは昔の艦船について私たちに話題を振りました。

「確かに。人類が今まで注ぎ込んできた技術の進歩って感じて良いですね」

東雲さんは鎖霧ちゃんの話に勢いよく食らいついて話がますます広がっていきました。

「ですが、このシステムが重巡洋艦に付いていないのが悲しいです」

私は艦船に技術に関してはあまり詳しくはなく、何を話すべきなのか考える。

「私たちには関係ない話をされても落ち込むだけでしょ」

私が思っていたことを潮原さんが代わりに言ってくれました。

「それは配慮がなかったわ。ごめんなさい」

鎖霧ちゃんは反省しているようで目を瞑り、頭を下げてきました。

「そこまでのことではないわよ。ただ、私たちにも欲しかっただけよ」

簡易システムは四〇年ほど前から作られたシステムとされており、巡洋艦にも試験搭載もされていたこともあり、現在は通常完備されているようですが、重巡洋艦には装甲と艦砲の面でバランスが悪くなっているため、搭載が難しいとのことでした。

「ですが、重巡洋艦にも他の艦船と競える良い所もあるのですよ」

東雲さんはうって変わり、重巡洋艦の良い点を挙げるため必死に話を進めました。

「例えば、軽巡洋艦並みの動きができますし、戦艦並みの砲口だってついているのですよ」

艦船の種類にはいくつもあるのですが、重巡洋艦は軽巡洋艦に戦艦並の砲口をつけたものとなっているのです。

「この船で三週間暮らすんですね」

私たちは他の生徒とは違い、緊張感を出さずに艦船を見ていた。

「あなたが艦長なのだからしっかりしてください」

「あ。ハハハぁぁ」

潮原さんは頼りのない私の姿を見て言い、私は苦笑いしました。

「あんた。さっきから好き放題言ってくれるじゃない」

鎖霧ちゃんは潮原さんとの接し方が変わらないようで好意を持てず、言い争いが始まりました。

「私がこんな人と仲良くなんてできる訳ないでしょ。これまで必死に」

「知らないわよ。だけど最低でも仲良くしようとはするでしょ」

鎖霧ちゃんの言った言葉に思ったことがあったようで潮原さんはこっちを見ていました。

「そうね。悪かったわね」

潮原さんはそういうと私たちから離れました。

「気にしない方が良いよ」

私が遠ざかる潮原さんを見ていると、鎖霧ちゃんがさりげなく励ましてくれました。

「そろそろ集合時間だし。私たちも他の所へ動きましょう」

私は別クラスの鎖霧ちゃんや沖野さんと別れ、教室の生徒たちが集まる場所へと向かいました。

同じクラスの人たちはすでに綺麗に整列しており、出発まで待機していました。

「定刻の時間となりました。艦長はクラスの人たちを点呼してください」

私は広場に響く声に従って、クラスの子たちの点呼を始めました。

「各班。点呼をお願いします」

私は青葉の乗員の点呼をするため決められた管轄(かんかつ)に分かれて行うこととなりました。

「航海員と事務部員は私が点呼をとります」

潮原さんは手を挙げて航海員と事務部員の人たちに合図して集めて名前を呼んでいました。

「艦長。機関科は欠員が無しだぞ」

「こちら通信科も欠員なしです」

「艦長。航海科も欠員がいません」

私はクラス全員の点呼を済ませると、先生へ報告に向かいました。


「巡洋戦艦筑波。艦長角埼あすみ。乗員三五名に欠員なしです」

「同じく巡洋戦艦鞍馬。艦長佐々木芽衣。乗員名に欠員なし」

「巡洋戦艦伊吹。艦長雪宮アサカ。乗員さんじゅう…ごにん?異常なし。」

「アサカ。あなたはそれでも艦長なのよ。しっかりと報告をしなさい。巡洋戦艦生駒。艦長秋月幸恵。乗員三六名に欠員なしです」

鎖霧ちゃんを探す時に手伝ってくれた二人は、巡洋戦艦伊吹と生駒の艦長さんでした。

「戦艦土佐。艦長佐々木双葉。乗員四三名に欠員なし」

私が前に向かうと既に点呼を済ませた船の艦長が先生に報告をしていました。

「戦艦比叡。艦長碇鎖霧。乗員四一名。欠員なし」

「鎖霧ちゃん!」

私は再び見えた鎖霧ちゃんに軽く手を振り、鎖霧ちゃんも軽く手を振ってくれました。

「ヒナだ。」

私が横を見ると武蔵の艦長が見つめていました。

「どうしたのですか?」

「うんん。何もないよ」

女の子は首を横に振り、何もないことを表していました。

「戦艦武蔵。艦長朝比奈七海。乗員四五名。欠員に問題なし」

朝比奈七海さんは記憶の底に出てくる女の子の面影があり、思い出そうと考えましたが、それ以上のことも出ることなく、先生に報告をすることに専念しました。

「重巡洋艦青葉。艦長湊ヒナ。乗員三四名。欠員に問題ありません」

私が報告をすると先生は頷きました。

「よろしい。艦長は戻って良いですよ」


「ヒナ。またね」

朝比奈さんは手を振って離れていき、私は会釈だけに留めて隊列に並びました。

「朝比奈七海さん」

朝比奈さんがどうして私に話しているのか分かりませんが、懐かしさもある面影に嬉しさもありました。


点呼を済ませた私たちは出航式を迎えていました。

「入学式に引き続き、校長の久方沙雪です。あなた方はこれから、実際にこの広い海へと向かいます。過酷な状況になるものとなりますが、船乗りは過酷な状況下でないと育たない。あなた方に襲いかかってくる困難は今後の力となることとなります。再び会う際に良い顔になっていることを願っております」

校長先生の激励を受け、私たちは各々が担当する艦船に乗り込み。私は軽く頬を叩いて気持ちを切り替え、雲がかかった大海原へと向かう。

「船員、乗船」

「不足しているものがないか確認して」

私は司令室から指示を行い、部屋の確認をとりました。

「艦内異常無し」

問題がないことが分かったため出航の指示を出しました。

「碇を上げ!出航します。進路三十五度、面舵!」

「進路三十五度、いただきました。」

私の掛け声で船は動き出した。緊張感を持った初の航海が今、始まりました。

「いってらっしゃい!」

「頑張って!」

港の声は船にも聞こえており、私たちは答えるように汽笛を鳴らした。


船が動き出し、沖へと進む最中。司令室に二人の女の子が駆け込んで来ました。

「艦長!大変です!」

「どうしたの?」

「甲板に。甲板に猫がいます」

「猫なんてどうでも良いでしょ!」

潮原さんは事故でも起きたのかと思い心配していたようで何もないことに怒りました。

「すみません。」

「艦長!大変です!」

「今度は何だ!」

潮原さんは怒っているのをやめて話を聞き始めました。

「食料が…食料がネズミに食べられています」

「はい?」

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