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マリンガールズ〜思いを乗せた方舟〜  作者: ハナビ
海の学校
29/70

暗く荒ぶる過去

「この表彰楯は、何ですか?」

「さあ?でもこれ一〇年くらい前の物よ」

表彰楯を前にして見ると、文字が書かれていました。

「海洋女子?」

「救助隊?」

私には賞状に書かれていることを読んでみましたが、はっきりとはわかりませんでしたが、香里さんが驚いた顔をしてひとこと言いました。

「アクアマーメイド」

「アクアマーメイドって、一〇年は違う呼ばれ方されていたの?」

「以前の呼ばれ方は知りませんでしたが、活動は現在と同じようです。」

アクアマーメイドとは一〇年ほど前に起きたで出来事を下に海洋生活が始まった日本で作られた海洋救助団体であり、現在でも海上で起きる事故や事件に関する被害から人々を守る人たちです。

「私。実はとても憧れていて、将来はここに入りたいなって。」

「海洋学校に入ったからには目指すでしょ?」

「東雲さんもそうだのですね。」

香里さんと鎖霧ちゃん、東雲さんは、表彰楯を眺めながら目を輝かせていました。

「ヒナは?」

「私は…」


私は続きを言いかけて幼い頃の出来事を思い出していました。

強い風が吹き、荒波でうねる海。私はポンチョを着て立っていました。

『お母さん。お父さん。行かないで!』

慌てている大人。その姿は私のお父さんとお母さんの姿でした。

『ヒナ。あなたは〇〇ちゃんのお父さんとお母さんの言うことを聞いて一緒に避難をして大丈夫だから。それに必ず帰ってくるから』

お母さんの必死な表情が私を見つめ、お父さんも抱きついてくれた。

「行こう。」

「ええ。」

『お父さん…お母さん…お父さん…お母さ…』

「後のことはお願いします」

『行かないで…』

私の過去の記憶思い出したくないけど、お母さんとお父さんの最後の記憶。その後の記憶には目の前に傾いた船。そしてそばには誰もおらず、荒波に流されながらポツリと残っていました。


「ヒナ?大丈夫?」

「平気です。」

私が何もしないで立っていたのが心配だったようで、鎖霧ちゃんが声をかけてくれました。

「昔の思い出。お父さんとお母さんのことを考えていました」

「思い出?どんな?」

私はお父さんとお母さんの最後の記憶を思い出して話してみることにしました。

「太平洋沖転覆事故。あの時の思い出です」

「そうですか。あの事故の時、あなたは…」

太平洋沖転覆事故とは一〇年前に太平洋を航行していた定住船赤城が東京で補給物資の補充や人の乗り降りのため、陸側へと向かう予定でしたが、夜の悪天候であったために転覆してしまった事故です。定住船が誕生してから初となる大きな事故になってしまい、死者。行方不明者が多数出たその事故はいまだに例にないほどの海洋事故となりました。その時にもアクアマーメイドが来ており、人名救助で活躍して私も助けていただいたのです。

「えっと。」

皆さんは私の方を心配そうな眼差しで見つめており、反応に困っているようでした。

「私は平気…とは言えませんが、私のような人が出てほしくないので、学校に通うことにしたんです」

「そうだったのね。」

空気がいまだに重たいため話すことができない中で話題を変えようと考えていると突然。思い出したかのように『ぐぅ』とお腹の音が聞こえてきました。

「また私です。ごめんなさい。」

香里さんは申し訳なさそうな顔をして言いました。

「お昼ご飯を食べましょうか」

「本当にあなたのお腹は。何かいるんじゃないかしら」

「ごめんなさい」

鎖霧ちゃんはため息を吐くと、仕方なさそうに頷きました。

「ごめんなさい。湊さん…」

香里さんは申し訳なそうに頭を下げてくれました。

「ヒナ。私はこの辺で別れるわ」

鎖霧ちゃんは何を思ったのか一人でどこかへ行きました。

「鎖霧ちゃん?」

時間をかけて一階に降りたつもりはないのですが、鎖霧ちゃんの姿は見えませんでした。

「鎖霧ちゃんはどこに行ったのでしょうか…」

「今さっき、二階から走って外に出たのあんたたちのお友達でしょ」

一階に降りると、いきなり声をかけられました。

「潮原さん。先程はどうも。実は鎖霧ちゃん…走って出た子なのですが知りませんか?」

「その子だったら外へ行ったわよ。室内では走らないように言っておきなさい!」

潮原さんは呆れた顔に右手を横腹に当てながら言いました。

「そうだ!潮原さん。もしお昼がまだでしたらご一緒にどうですか?」

「私は食べたから遠慮させて貰うわ」

潮原さんは興味なさそうに断られてしまいました。

「湊さん、急いで行かないと碇さんが居なくなってしまいますよ」

東雲さんは私の手を取り、研究室の外へと向かいました。

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