いまのセカイ
テレビの放送は五〇年程前まで生放送のみでしたが、現在ではどこの家のテレビでも再生機能が付いており、天気予報やニュースを再確認することができるようになっています。私は朝の七時に放送されていた全国ニュースを再生してみると、台風関連のニュースばかりが続いて、放送されていました。
『今後の台風の予想進路です。台風一三号はフィリピンの東、時速三〇キロの速さで北東に進み、明日の深夜から明後日の早朝にかけて九州に上陸する恐れがあります。気圧は、九五六ヘクトパスカル、最大風速は二〇メートル、最大瞬間風速は三〇メートルで、中心から半径一二〇キロ以内では風速一八メートル以上の強い風が吹いています。低い所での浸水、河川の増水、氾濫に厳重な警戒をしてください。未だに日本列島から離れていますが、九州南部で雨が降っており、午前六時から七時までの一時間あたりに沖縄県那覇市で、三〇ミリ。鹿児島県枕崎市で、二六ミリ。鹿児島県南九州市では、二三ミリと傘をさしても濡れてしまうほど強い雨が降っています。今後の雨量は明日の昼過ぎから明後日の朝にかけて九州南部で二五〇ミリから二〇〇ミリ。四国地方で二〇〇ミリから一五〇ミリ。九州北部、中国地方では、一五〇ミリから一〇〇ミリと非常に激しい雨が降る恐れがあります。早めの避難をした上で、今後の予報に注意してください。
次のニュースです。』
ニュースは台風情報を終えると、外交のニュースを始めました。
『現在、アメリカのニューヨークで行われている各国の首相が一同に集まった国際会合は、今日閉幕する予定となっており、国家間の調整が現在もなされております。』
テレビのニュースは会議の風景を画像として映し、今回の会議の議題について解説するテロップが映され、アナウンサーが隣に座る専門家のような女性と質問を交えながら読み始めました。
現在の国際会合は原則として直接会合となっており、インターネットを使った間接的な会合を行わないことで、各国の考えが固まっています。その理由は二つあり。一つに、国内外から関心が強く、会議を行う中で、信頼関係を築くためとされています。現にメディアは、各国の取り組みについて、毎年のように放送し、国際社会の情報を更新し続けています。特に最近では、自然環境・地球学とも呼ばれる情報に関する放送を多く取り上げ、視聴者に向けて訴え続けているように感じます。
もう一つに、国家間の密約をオンラインで行うと、ハッキングされ、盗み聞きされることや直接会わないことによって起きてしまう、少しの食い違いによって、争いの原因になってしまうことがあってはいけないため、直接会う会議のままとされています。
『続いて。天気予報です。』
アナウンサーは明るい将来を語る声色を変え、真剣な面持ちで天気予報士がいるとされる方へ向き、テレビの画面も変わりました。
『フィリピン沖にある台風の影響により、乾いて温かい空気が広がり、全国的に一日を通して晴れが続き、北海道、札幌で四四度、東京で四四度、名古屋で四五度、大阪で四四度、福岡で四〇度と七月下旬から八月上旬の気温となる予報です。沖縄・九州南部では、台風の影響で、高い波と強い風に見舞われる模様です。続いて海の予報です。フィリピンの東で走行している定住船大和の周囲の波の高さは、最も高い所で、六メートル~七メートルと大時化となる恐れがあります。船内では、非常に揺れますので、近くにある手すりに掴まりながらの移動を心がけてください。日本列島でもフィリピン付近にある台風の影響で九州を中心に広い地域で波が高くなります。海への外出は十分にご注意してください。日本列島への最接近は、明後日の早朝の予報となっており、早くとも明日の深夜には、上陸する恐れがあります。早めの対策を心がけてお過ごしください。』
ニュースが終わり、私はテレビを消して、携帯電話を動かし、インターネットから買い物サイトへ入ってみることにしました。二〇三〇年まで人から人へ行われていた運送業が二〇四〇年頃には殆ど無くなり、機械を活かした運送で人件費負担を目指す企業が増えていき、地上に人型ロボが使われ、空中でもドローンを使い、運送を行っています。そのため技術を持つ企業だけが生き残り、運送業は独占禁止法を物ともしない大企業が独占しています。
私は学校へ向かう前に時間があったため、インターネットで購入したいものにチェックマークを付けると、携帯電話の画面を消し、外の天気を家の窓から再び見ました。
『ゴォーゴォー』と吹き荒れる風、『ザーザー』と強く地面に打つ音がますます大きく聞こえてきました。
「流石にないよね?」
そう言いながら、私は鞄を手に取り、立ち上がりました。




