船の香り①
海沿いには屋台が点在し、日曜日の昼の賑わいで活気付いています。
「ヒナ。船を見に行きましょう。」
鎖霧ちゃんは近い道があるにも関わらず、海から離れない道で港を案内してくれました。
「やっぱり。潮の香りは気持ち良いわね。」
潮の香りを感じることは当たり前だった生活にしてみれば、四日ぶりに感じる海の香りはより一層、幸せに感じる一時なのかも知れない、と私は、恋しそうに海を眺める鎖霧ちゃんを見て感じました。
私は懐かしく感じていた鎖霧ちゃんの邪魔にならないように静かに着いていきます。
「ヒナ。あれって。私たちが乗ることになる船じゃないかしら。」
鎖霧ちゃんは陸の先を見つめると、大きな船を嬉しそうに眺めていました。
「比叡、土佐、武蔵に、筑波、生駒、鞍馬と伊吹、それと青葉が止まっているわよ」
船の数八隻。戦艦が三隻、巡洋戦艦が四隻、重巡洋艦の一隻が止まっています。
「青葉って、重巡洋艦ですね。」
「ええ。」
鎖霧ちゃんは重巡洋艦の青葉を見ると、不思議に思ったようで話を続けました。
「明日の航海実習の連絡が何か学校から来ていたかしら?」
鎖霧ちゃんは重巡洋艦が気になったようで、携帯を見ました。
「これ…見て。」
鎖霧ちゃんは携帯のメールアプリを開くと、学校からの連絡を私にも見せてくれました。
「これは。班ですか?」
携帯に映されていたのはパソコンソフトで作れた表のようで、多くの人の名前とともに艦船名が書かれているものが出ていました。
「学生艦…青葉。艦長 湊 ヒナ…。え?」
書かれていたのは、艦船の乗組員の班分けだったようで、それぞれの艦船の横に乗組員の役割が書かれていました。
「鎖霧ちゃんはどこですか?」
「私も艦長。比叡の」
鎖霧ちゃんはとても驚いた様子で私の質問に答えて下さりました。
「おめでとうございます。鎖霧ちゃん。」
「ありがとう。」
私も艦長になりましたが、重巡洋艦。選ばれた艦船の中では、最も劣っている船に当たります。
「凄いです。鎖霧ちゃんは。私は、青葉なので。」
「でも…これも立派な艦船の乗組員になるために必要な仕事よ。」
「はい。そうですね。頑張ります。」
私はそう言うとどこからかやる気が溢れてきてしまい、思い切って艦船が止まっている海の方へと駆け出しました。
「鎖霧ちゃん。船まで走って向かいましょう。」
「ちょっと。ヒナ。」
鎖霧ちゃんは港へと走って行く私を注意しながら追いかけて来て下さりました。
距離としては二〇〇メートル程あり、走って三〇秒ほどかけて向かいました。
「急に走ったら危ないって言っているのに…」
鎖霧ちゃんは汗を掻いて私を追って来て下さりました。
「ごめんなさい。急いでしまいました。」
「着いたことだし。船を見ましょう。」
鎖霧ちゃんは私に何も言わず、艦船の方へと向きました。




