いくらなんでも猫すぎる
いくらなんでも猫すぎる猫が発見された。
詳しくは知らないが結構新しい地層からだ。
「いくらなんでもこれは猫すぎるでしょう」生物学者が言った。
「猫にも程がある」哲学者が言った。
「名前をつけなければなりませんね」地層学者が言った。
考古学者が言った。「そのまんま名付けましょう。命名『いくらなんでも猫すぎる猫』で」
ただのサラリーマン猫杉好太郎は、寝ころんでテレビのニュースを見つめていたが、こんなことをしてる場合じゃないと立ち上がった。
世界一の猫好きを自認する自分がそれを見に行かなくてどうするというのか。世界一の猫好きを自認する自分が。あくまで自認だが。
しかし『いくらなんでも猫すぎる猫』は、一般にはその姿を公開されていなかった。
理由は『グロいから』というものであった。
どこがどうグロくて、それでも何がいくらなんでも猫すぎるというのか、確かめなければ明日を生きられない気分になった好太郎は、その日の夜、厳しいセキュリティを猫のように潜り抜けて、大学の研究室に忍び込んだ。
「ここにいくらなんでも猫すぎる猫が……」
好太郎がキョロキョロすると、それらしきものがすぐに見つかった。
イグアナが飼育できるぐらいのガラスケースが部屋の奥に置いてあり、ヒーターとサーモスタットで保温されている。弱い光の照明が、暗い部屋の中で目立っていた。
その中で何かが動いている。
近づいてみると、ガラスケースにかわいい紫色の付箋が貼ってある。好太郎はその文字を読んだ。
『いくらなんでも猫すぎる猫』と書いてある。
「これだ!」
一体何がいくらなんでも猫すぎるというのか、一体何がどうグロいというのか。好太郎は生唾を飲み、その中を覗いた。そして呟いた。
「は? グロっ」
DNAだった。
成猫大の猫のDNAが、ガラスケースの中でぐるぐると回っていた。たくさんのピンクや赤や青や緑のぶよぶよした丸いたまごみたいなのが納豆のネバネバみたいな鎖で繋がれて、ガラスケースの中でぐるぐると回っていた。
「確かにこれはいくらなんでも猫すぎる……」
好太郎は呟いた。
「帰ろ」
「誰だ! 何をしてる!」
警備員に見つかった好太郎は警察に突き出され、国の重要機密を知った罪で、執行猶予なしの懲役20年を食らってしまった。
刑務所に猫はいない。