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新聞紙の号外がオススメしてると思ったら騙された! な件。


はい! 注目〜〜〜皆さん、ひれ伏したまえ〜〜


神田川先輩のお通りだい!


「皆のものおぉ、これを見て欲しい。なんとなんと。大学内で月に一度の号外が、久しぶりに出た」←1ヶ月ぶり年12回発行。まあまあな頻度


神田川先輩が重々しく続けていく。手には一枚の新聞。その1面をよく読めば、でかでかと『水泳部内恋愛禁止』とある。


「おぬしら、これについてどう思う?」


新聞を持つ手を振って、パシンと一度、鳴らした。神田川先輩は、今までになく真剣な表情だ。


「水泳部内恋愛禁止だってっっっ?」


僕は叫んだ。叫んだ拍子に唾が飛んだが、飛んだ唾はノビをしているノラロウの腹の上に着地したから、まあいいだろう。(←お互いに気づいてはいないがノラロウが腹の辺りも毛づくろいするので、実質は間接キッス)


「どう見てもこれは重大事件だろう」


神田川先輩は、僕の方へと新聞紙を掲げて言った。


「水泳部内恋愛禁止。だが心配するな、大丈夫だ。皆のもの、これをよく読んで欲しい。ここに注目。『水泳部内』とある」


「おおぉぉぉお」


なにがおおおぉぉおなのかわからないが、早く次をくれ。


「ってことはだよ。俺と弓月はギリセーフってことだな」


はあ⁉︎


なに言ってんのコイツ? (←コイツ呼ばわり) 頭おかしくない?


自分のことならどうでもいいけど、そこになんで弓月さんの名前を出すわけ?


しかもそれが今日、招集をかけた理由?


ケンカ売ってんのか、ごるあ!


「ちょ待てよ!(無駄にキムタク風)神田川先輩って、水泳部所属してるんでしょ? だったらアウトでしょ。アウトに決まってる! アウトアウトアウト! アウッッツーーーーー!!!」


やば。興奮してきて自分でもなに言ってるのか、わかんなくなっちゃった。


「なにを言ってるんだ、長谷部。俺は読書サークルほにゃらり所属、読書家であり速読の優勝者であり、シックスパック(あみだくじ)の貴公子、海のトビウオとの異名(異名が異常に長い)で呼ばれている男だぞ。だから水泳部でもなんでもないっっ! 無関係だ!」


えええぇ〜。ズルくなーい? それに自分でトビウオとか言ってる時点で、水泳部認定でしょ!


しかし、神田川先輩は水泳部のスの字も出してはおらぬ、海はプールと一線を画しておる、などとああ言えばこう言う。


「だから、恋愛でも結婚でもおKなんだ! 心配するな弓月。俺は二重国籍でもなんでもないからな!」


くっそがあぁ! すでにそれプロポーズじゃねえか! だんだんと大胆になってきやがる。調子に乗ってきやがる。


僕は慌てて弓月さんに向かって言った。


「弓月さん、心配しないで。ああ見えて神田川先輩は水泳大会でも優勝するほど水泳部に貢献してて、そうは言っても準部員くらいの位置に所属しちゃってるけど、僕はこの映えある読サーほにゃらりの正社員だからね。僕にとっては水泳部なんかどーでもいいから! 関係ないから!」←こちらもさりげなくプロポーズ


「なんだと長谷部。それは聞き捨てならんな。俺は確かに水泳大会において優秀な成績を収めているが、だからと言って水泳部なぞに魂は売ってはいない!」


神田川先輩は、自分の心臓にどんっと拳を打ち付けて握り、高らかに叫んだ。


「この俺が心臓を捧げるのは、ただ読サーほにゃらりのみッッ!」


それ。オリンピックとかワールドカップでよく見るやつ。ムカつくけど、カッコイイのは否めない。くっそー。

ただ、今日もまた上半身裸の水泳ビキニいっちょうでこれやられるとなあ。さらにキレそうになるのは仕方がない。


「水泳ビキニで、せせせせ説得力なしっ」


すみっこパイセンがビクビクしながら、小声で言った。僕の耳には届いたが、神田川先輩の股間には届かない。ららら〜♪


「待ってください、神田川先輩。異議ありです」


可愛らしい声が上がった。弓月さ〜〜ん♡

弓月さんから異議あり! だ! 逆転裁判だ、ふはははははは、これで終わりだな神田川めがっ!


弓月さんが神田川先輩の新聞を手に取り、そして広げて言った。


中面に注目しろと。


「こちらをご覧ください」


みんなして新聞記事を覗き込む。


『今日のトピック サークル活動報告 ⑩


こんにちは。今回、筆を任されたのは、我が「読書サークル研究会ほにゃらり」である。そして我が読サーが普段どんな活動をしているか、少し紹介したいと思う。現在、我が読サーにおいて、『読書サークル研究会ほにゃらり プレゼンツ サークル員によるおススメ本おススメ交流会 』が催されている。そこで筆者は、この号外の読者向けに、この本をオススメしたいと思う』


とある。


筆者? って誰? 記事を指で辿っていく。


「by 神田川素意成」


あんたかーい!


「え、ちょ、弓月。待て、待ってくれ。それはだな、えっと、」


明らかに神田川先輩が震えだした。目も泳ぎ始め(さすが水泳部)、そして冷や汗いや脂汗までかきはじめたぞ。

浮気がバレた彼氏みたいな恐れおののき方だ。


いったいこれはどういうことなのか?


弓月さんが神田川先輩の震えを無視しつつ、朗々と新聞記事を読み上げ始めた。


『今回、僕がおススメしたい愛読書は、



『52ヘルツのクジラたち』(著:町田そのこ 出版社:中央公論新社)



だ。この本は題名に見られるように『クジラ』を物語の重要なキーワードに用いており、泳ぎが得意で海のトビウオと呼ばれている僕はとかく、その点に共感した次第。そう、どちらも『海の生き物』だという点にだ』



…………



なにこれ? この紹介文! だからぜひ読んでください、だと⁉︎

ダサい、内容もない、紹介文としては駄文もいいとこだ!


この本は、本屋さん大賞にもなったすごい本なんだよ!



『「わたしは、あんたの誰にも届かない52ヘルツの声を聴くよ」

自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。

孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会う時、新たな魂の物語が生まれる。 amazonより抜粋』



的なすごい感動する本なんだよ!

ネタバレになっちゃうから詳しくは言えないけど、社会の縮図がこれでもかと描かれているんだよ!


なんだよ、この紹介文は! 読サーほにゃらりの最後の良識人と呼ばれている僕が、こんな紹介の仕方は絶対に許さないからなっっっ!


しかし、ここで愚かな神田川先輩に、鉄槌を落としたのは、なにを隠そう弓月さんだった。


「ええっと、ここにもこうありますように、神田川先輩はクジラとトビウオの共通点は海の生き物と断言しています。これは水泳部のエンブレム、『カツオ』にも共通するものがあります」


水泳部のエンブレムがカツオ……? ……へえ、そうなんだ。知らなかったけど……カツオ? 水泳部よ、本当にカツオでいいのか?


「ゆ、弓月……そ、それ以上は……」


神田川先輩が力なくジャージに袖を通し始めたっっ。弱ってきている証拠だ。


「よって、海の生き物シリーズなる共通点から、イコール神田川先輩は水泳部に属していると言っても過言ではないのではないでしょうか」


キッツーーー。愛する弓月さんから、後頭部をピコピコハンマーで殴られたような衝撃だろうな。キッツーーー。


でも、ライバルがひとり減ったわけだから、これでよし。もっと迎撃してくれ。


「よって神田川先輩は、水泳部と認定します!」


はい。しゅーりょー。僕は高らかに宣言した。


「んんーではこれにて閉廷!」


神田川先輩はショックすぎたのか、ジャージのチャックを上まであげている。しかも下にもちゃんとジャージのズボンを履いている。よほどのことだ。いつもビキニ丸出しだからな。


これまで、所属は読サーであって水泳部ではない、よって恋愛禁止ではないとアピールしてきたのに、今はもう抜け殻のようにノラロウと同じ腹だしスタイルで横たわっている。


「そういうわけなので」


弓月さんが冷たく言い放って、持っていた新聞紙を神田川先輩の腹の上に投げ捨てた。


え?


弓月さん?


めちゃくちゃ怒ってる。新聞紙を投げつけるなんて、相当ご立腹だぞ。弓月さんに一体なにがあったんだ?


「神田川先輩。今後も読サーで水泳ビキニを履き続けるのであれば、水泳部に移籍していただきますからね? いいですか!」


なーるほど。そういうことね。


神田川先輩のビキニが相当、嫌だったんだなーーー。



納得。



終わり





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― 新着の感想 ―
[一言] どうしよう。 水泳ビキニしか、頭に入ってこない……。
[一言] まぁ、ビキニは衝撃過ぎるよね( ̄▽ ̄;)
[一言] 神田川先輩、今回はいつもに増してフリーダムでしたが、弓月さんは結構まともでしたね。
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