すみっこパイセンの登場でーーす。たったらー。
「まずもって、なんなんだ! このやる気のないタイトルは!なにが、たったらー……だ!」
唾を飛ばしながら、すみっこパイセンこと林先輩が怒鳴り散らしている。
サークル室に貼られたグラドルのビキニポスターを神田川先輩に横取りされてから、少しキレやすくなっているような気がする。(読サーよもやまをご覧あれ)
「落ち着いてください、すみ……林先輩。それより今日は林先輩が主役ですから。あんまりキレないようにしてくださいよ!」
僕の言葉を聞いてまんざらでもなかったのだろうか。
「しゅ主役? お、おう。わかってる。キレてないキレてない。ではまずはご挨拶から……」
だが、ここからが勝負だ。
以前、よもやまでも語ったが、僕はすみっこパイセンを前にすると、自分の世界に閉じこもってしまう(すみっこパイセンを受け入れられない)キライがあるのだ。いつのまにか、意識を飛ばしてしまい、内なる自分語りに突入してしまうのだ。
…………
くそっ、すでに意識が朦朧としてきた。
だがしかし。僕は今回、司会進行という大役を任されている。しかも、目の前には弓月さんもいる。
弓月さんの存在。
それは地球のくくりでいくとエベレスト、いやモンブラン。(スイーツにもあるとおり可愛らしい響きがある)
それはJAPANのくくりでいくとフジヤマ、テンプーラ、スシー、いやスキヤキだ。(年に一度しか食べられない貴重さ)
それはスイーツのくくりでいくと苺パフェ、シュークリーム、いやマリトッツォ! 美味しいよね!(生クリーム好きにはたまらない要素だが生クリームのような白い肌とか言っちゃうと完全にセクハラのくくり)
などなどレベチ揃いな、ワンランク上の女性。弓月姫。
僕は弓月さんと初めて出会った時、一目で恋に落ちた。告白する勇気はないけれど、誰にも渡したくない。(ゆっちゃったテレッ)
だが、弓月さんはめっちゃめっちゃモテる。
そりゃ当たり前だ。
あの、象をもひっくり返す美貌、というか可愛らしさ。そしてライオンをも手なずける、性格の良さというか優しさ。えっと……キリンがその長い首をかしげてしまうほどの新聞に対する情熱とか、えっと……カバがスイカを丸のみするくらいの……笑顔……とか、(←例え下手)
まあとにかく神だ。(からの、まとめ上手)
《空白という名の妄想。しばしお待ちを》
すみっこパイセンの声が薄っすら聞こえてきた……よし! 自力で意識を取り戻したぞ!
「……では、僕の挨拶はこの辺にしておいて、オススメの本について紹介に入りたい。長谷部くん、先に進んでも良いかね?」
「はいどうぞ。待ってました! ヨッッ林先輩っ!」(白目)
「では、発表させていただこう。僕の愛読書はこれだ!」
すみっこパイセンは、一冊の雑誌を大きく掲げた。ちょいちょいちょいちょい。
「林先輩、ちょっと待ってください。確かにその本は、いつも林先輩が部屋のすみっこで読んでいる本でしょうけど……」
僕は少しだけオロオロとしながらも、そっと横に座っている弓月さんを見た。
その雑誌を見た弓月さん。さすがに表情を硬くしてしまっている。唇をぐっと結び、眉をハの字に歪め、頬を若干、赤らめているようだ。
うーん。これは、完全なるコンプライアンス違反では?
こうなると、神田川先輩もサークル長の立場として黙っているわけにはいかんだろうと、口火を切った。
「おい林。いい加減にしないか。俺たちは確かに、普段からおまえの愛読書の存在を黙認しているフシはある。しかし、女子である弓月の前で、それをオススメの一冊にするにはどうかと思う。そういえばその雑誌の付録であったビキニのポスター。サークル室の壁に無許可で貼っていたことがあったな。あれもサークルの風紀を乱すものだった。嫌々ながら、俺が渋々回収し、嫌々ではあったが、皆の目につかないよう天井に貼り直したがな。嫌々渋々な」
神田川先輩はジャージをふあさぁっと羽織りながら、立ち上がった。
「兎にも角にもこの読サーほにゃらりの風紀を、1ミリたりとも乱してはイカンという話だ! そこをすっ飛ばすオススメ本の紹介だなんて林、おまえ、どうかしているぞ! 林ッッッ! ここは、読書サークル研究会であって、ビキニ研究会では断じてないッッッ!」
そこまで言われて、すみっこパイセンは、やっとこさ自分の持っている雑誌を見た。
「え? あれ? や? ええええ? ナニコレ?」
すると、しまった間違えた! はわわわわ〜〜ってなって、「コレジャナイコレジャナイ!」 って言いながら、手に持っていた雑誌を慌てて窓から投げ捨てた。(慌てすぎww)
その拍子に袋とじ部分(大切な部分)が、ぴゅーんと飛んでいった。アーメン。
「間違えたあああぁぁあああ!」
でしょうね。
神田川先輩がさらに突っ込む。
「林。俺だって漢の中の漢、いや、ただの漢だ。ビキニが好きなおまえの気持ちもわからんでもない。だがな林。これだけは言っておく。このサークルは、表向きはグラビア禁止だ!」
表向き……は?
「例えばマガジンを例に出そう。マガジンは本来、素晴らしいマンガが多数掲載されている、最上級の週刊マンガ雑誌だ。だがな! マガジンの表紙と表紙から数ページは基本、……禁止だ」
「あぁぁぃぃ……うぎぎぎ」(弓月さんにエロ本が見つかったり袋とじが飛んでってしまったりと色んな意味で踏んだり蹴ったりなすみっこパイセンの唸り声)
涙目だ。気持ちは痛いほどわかる。が。
「唯一の女子部員である弓月の目のやり場にも困るだろうし(いや、あんたの水泳ビキニの方がよっぽどだがな!)チャイやノラロウが、うひひひゃなどと真似してもいかん。また、長谷部がひゃっほいとなって鼻血を吹いてもいかんからな。悪いが林。全ての雑誌をここに出せ」
促されたすみっこパイセンは、その場に膝からガクリと崩れ落ち、うなだれた。そしてトートバッグの中から数冊の袋とじを大人しく出していった。
一冊。一冊。大切そうに、指で撫でながら愛でながら。くっ。涙目になりながら。
そして、神田川先輩がそれをまとめて小脇に挟んで立ち上がる。
その様子を目で追ってから、心を決めたような表情で、すみっこパイセンもすっと立ち上がり、そして襟を正して手を額に当てた。
「敬礼っ」
「国旗掲揚っ」
「君が代斉唱っ」
そして、神田川先輩はその敬礼に応えるように、「うむ」と頷くと、君が代が高らかに歌われる中、そのままサークル室を後にし当分の間、帰ってこなかった。
Fin
ってなことで残念ながらすみっこパイセンの愛読書はすべて没収された。
そして、トートバックの中に残された本。
それが真のオススメの本。
『おらおらでひとりいぐも』(著:若竹千佐子 出版社:河出書房新社)
映画にもなってる作品だ。「ひとり」の寂しさにみまわれたとき、この本を読むとひとりでも大丈夫、この先も生きていけれる、と思える本。
うん。今のすみっこパイセンにぴったりフィットだな。
いいんじゃね?
終わり