皆さま注目! 残念イケメン神田川先輩がお話したもうぞ
ついにこの日が来てしまったか。
本来ならもっともっともーーーーーっと先で良かったんだけどな。
普通にいけば4番目だというのに、4という数字がなんか嫌だ、不吉だと言って駄々をこねる(いつの時代の話だっ)神田川先輩のターン。
めんどくさいから、4とは書かずに、「No.four」と英語表記にしたらまさかのオッケーが出た。単細胞め。
これはもう、「No.あfour」(発音:ナンバーアフォー 訳:アホ)としか言いようがないな。
アフォーでもアホでもとりあえず先を進めよう。ってか、様子を見よう。
「んんん〝(←喉の調子)
皆のもの、準備は整っているか? ついにサークル長であり速読の貴公子、水泳部の星、神田川 素意成の出番がやってきた。まあ皆も知っての通り、常に俺はナンバーワンの座に居座っているが、今回はチャイ、長谷部、弓月に前説を譲り、ナンバーフォーながらにしてナンバーワンという偉業をやってのけるべく、こうして参上したというわけだ。耳をかっぽじってよく聞け! 刮目せよ!」
と。
ってか、やめて〜〜、その水泳スタイル。ビキニの水着って、今要るうぅ〜〜↑?
どんなスタイルで来とんねん!
確かに神田川先輩の筋肉は、アミダクジが書けるくらい、キレてるし仕上がってる。一見の価値ありだけど、別に本の紹介ってだけの今日は、普通のジャージで良くないぃい↑?
ほらあ、弓月さんが目のやり場に困ってるよ。正座してるとちょうど目線がそこだもんな……。
これさあ。もうさあ。セクハラなんじゃなあぁい? (坂上さん風に)
「んんん〝(←喉の調子)
では、始めるぞ! 皆のもの、よく見るがいい。これが俺のオススメの本だっっっっ!」
『月のうさぎ』(著:瀬戸内寂聴 出版社:講談社)
ん?
筋肉バキバキなわりに、可愛らしい白うさぎちゃんが月を見上げているイラストの表紙。
まさかの絵本きた。この本を選ぶなどと、神田川先輩は……。
この絵本は、仏教の教えをもとにして描かれたお話で……。
森に仲の良いうさぎときつねとさるがいました。道に倒れていたおじいさんを助けようと、三匹はそれぞれ一生懸命食べものを探してくるのですが、うさぎだけがその非力さゆえ、なかなか食べ物を取ってくることができません。ある日、やはり食べ物を用意することができなかったうさぎが……ぐす、ぐす、
自ら焚き火の中へと飛び込み……その身を犠牲にして、
うぐ、えぐ……おじいさんをお腹いっぱいにしようと
うわああああぁぁぁぁんんnnn
なにこれめっちゃ泣ける話! 悲しいけど、おじいさんを助けようとする、うさぎのその気持ちがめっちゃ尊い!
家族のように一緒に育った、さるもきつねもうさぎを失った悲しみで大泣きし……う、う、うわあぁぁぁん
おじいさんは実は天の神さまで、哀れなうさぎを月へと送ったのでした。
神さまああ嗚呼ぁぁぁああ! だったら、火に飛び込む前に助けてやれよおおおぉぉ!
なんつー悲しい話なのこれえ。
これさあ! もうさあ! ビキニの水泳パンツいっちょうで紹介する本じゃないでしょこれえ!(坂上さんをマネするチョコプラの松尾さん風に)
っっっっと、涙でぐしょぐしょになりながらも、僕は司会を続けねばなるまい。この壊れた心臓を抱えながらも、頑張るしかない。
「では神田川先輩、えぐっ、こ、この本のオススメポイントを教えてください、ぐすっ」
「わかった。だが、この本の言いたいこと伝えたいこと、そして俺が言わんとしていること……もう皆んなの胸に届いているように思う」
うん。届いてる。弓月さんも泣いているし、すみっこパイセンも鼻水をだらだらと流し続けている。
はいティッシュ。ぴゅーん。←箱ごと投げた
そんな中、弓月さんが口火を切った。
「うさちゃん、可哀想すぎますよね。こんなことってあるんですか? 自分の身を犠牲にして、人を助けるだなんて。あとがきにも犠牲奉仕と忘己利他の精神がうんぬん、慈愛だの魂だのと書いてあるけれど、あまりにも可哀想過ぎますよおぉぉぉ」
弓月さんは泣きながら、およよとその場に伏せてしまった。
なるほど。弓月さんは、確かに目のやり場に困ってはいた。これは良いフォームだ。納得。
けれど、神田川先輩は腕を組みながら、頷いているのみ。仁王立ちのスタイルを解く気はないようだ。
「弓月。よく言った。その気持ち、わかる。だが悲しいかな、これが現実だ。俺たちが好んで食っている食堂の唐揚げ定食だって、元はと言えばチキンだ。そしてそれは誰が作っていると思う? そう。言わずもがな、食堂のおばちゃんだ」
ちょっと待ってえ! 食堂のおばちゃんが悪者みたいになってる! 黒幕みたいになってる!
「そしてその唐揚げを喰らうノラロウもまた……なんと罪深い! ノラロウっっ! ユーチューブなんかでコソコソ小銭を稼いている場合じゃないっっ。おまえも生きとし生けるものとして、自らの役割を全うしなければならんぞっっっ」
窓際で日向ぼっこしていたノラロウに向かって、びしっと指さす。ノラロウは、目を開けてジロッと神田川先輩を一瞥すると、また深い眠りについてしまったが。
いやいやいや。とんでもないところから説教を被せられたなあ。せっかく神田川先輩の動画チャンネルへの出演を快諾してやっているってのにな。ま、ノラロウは気にしてないみたいだけど。
「そんなわけで皆のもの、月のうさぎを読んでみろっ。俺はこの絵本でおまえらの魂を浄化してやるっっ、卍解っっ」
なんか凄い感動する絵本なのに、神田川先輩が紹介すると、ぐっとレベルと品位が落ちちゃうな。なんなのもう!
あーあ。ほんと残念なサークル長だね。ちなみに神田川先輩は速読王だから、月のうさぎを4.5秒で読んだとほざいている。そんなんで感動できるんかね? この本の良さ、ほんとにわかってんのかね?
座禅して肩でもバチンと叩いてもらいたいくらいだよ。
と思ったら。
「浄化っっっバンカぃぃぇぇぇ、へえ、へ、へ、へあっくしょい!」
いいからもう、いーかげん服着よ?
終わり