主人公なのに存在薄しの長谷部ターン
さあ。ここからが勝負だ。
僕、長谷部優生のターンが刻々と近づいている。
いきなり主役級な僕のおススメを発表して、みんなは引かないだろうか? 神々は許したもうか?
たもう! 大丈夫だ! 僕の人生において、本のおススメはそこまでの重要事項ではない!
はああ〜。なーんてこんな大口叩いちゃってるけど、本当は心臓バクバク、手や足はブルブル、脂汗はベトベト、トイレは近くなるし、喉は乾くし、そんでお茶をがぶ飲みして、腹を下しトイレへ
ってことを延々と繰り返しちゃってる。緊張しいなんだよ、文句あるかっっ!
本を持つ手に汗がべっとりだ。なんだって? 本がベトベトンになるって?
いや、大丈夫だ。この本は完全なる他人(図書館)の本だから。←だいじょばない
「よし! 次は長谷部! おまえだ!」
キタッ。
「ごごごごg 5番、違う、ににににnnn2番っっ、はうせぇべひゅうせぃ(長谷部優生)です。ぼぼぼぼ僕のおししめの本の題名は……
『植物図鑑』(著:有川浩 出版社:幻冬舎)
はい。ここで、え? みたいな面々。
え? まさかの恋愛もの? 女子高生が読みたい恋愛作品のランキングにもぐいぐいとくる、この作品?
いやいや待ちたまえ。確かにこの本は、読者がキュンときたりギュッとなったりする作品で間違いない。←認識レベルの低さ
ちゅっちゅもするし、ちゅっちゅの先の先まで(キャー)いっちゃうやつだけどね。
羨ましーーーーーーって気持ちも認めるし、僕だって弓月さんと、この主人公の男女のような良い感じの仲になりたいと強く強く強く思うよ。
いや。待ってくれ。この本はただ、恋人たちがイチャイチャするだけの話では、断じてない!
断じて、軟弱ふよふよな話ではない!
この本の題名を見て欲しい。
『植物図鑑』
そう。この本を読めば、そこここに生えてる草花や野草にも詳しくなるって話さ。知ってるかい? タンポポって、食べれるんだぜ?
これはもう今流行りのソロキャンプだったり、グランピング(これはちょっとなんなのかがいまいちわかってないけど)、ハイキングだったりBBQのお供に最適な本なんだ。
とまあ、こんな風に紹介してきたわけだが、どうだろう、僕の話を聞いてキミも読みたくなってきたのではないかな?
それではそろそろこれでおw
「よし。長谷部。沈黙はもう十分だ。ではなぜ、この本がおまえのおススメなのか、具体的に紹介しろ」(神田川先輩)
「長谷部くん、頑張って!」(弓月さん)
「長谷部氏、君の説明いかんによっては僕も選書の参考にはさせていただくが、その本の表紙を見る限りでは、こここ恋人同士がいいいイチャイチャする本という認識で間違いはないか?」(すみっこパイセンの認識レベルの低さは同じだが、空耳でスルー)
「ご飯、炊けましたヨ。ホカホカデス」(チャイくん可愛うぃ)
え? あれ? 皆さん?
僕が今まさに一生懸命ご説明差し上げたの、聞いてませんでしたか?
って
はーい。僕の脳内説明でしたあー。やってしまった。よくあるんですよ。この読サーほにゃらりの物語を語るとき(+すみっこパイセンを目の前にしたとき)、僕はよく心の中にひとり、閉じこもってしまう。
『脳で語る』というスタイル。略して『脳内におけるひとり語り』。さらに略して『脳の語り』とでも名付けるか。(←略し下手)
『脳の語り』だと、いろいろ本音でツッコミやすいし、(ここら辺からラップ調で)YoYoとんでもねえクソな愚痴とかもかませるしぃYo! 弓月さんへの熱い想いも語れるしぃYo! あとは健全な男子なら誰でも考えるようなこともな、まあYoYo! ずぅ〜ん。
僕は時計を見た。やはり。時計の針は進んでいる。
先ほど、僕は本の題名を公表しただけで、どうやらその後、沈黙が15分ほど続いていたらしい。
『脳の語り』には恐ろしい一面もある。しかもこれほどの恐怖はない。
僕は認知症だったり記憶障害だったりするのだろうか? とか。
それとも、語りの神さまに身体ごと乗っ取られて、別人格みたいな感じになっちゃっているのだろうか? とか。
多重人格だなんて、考えただけで震えがくるぜ。←『脳の語り』による弊害
いかんいかん! 色々語り過ぎちゃって、また沈黙に……
……いやあ、僕は呆れちゃったね。これがこの読サーほにゃらりの現実だよ。
「……ってか、皆さん。僕のターンで、各自思い思いのことするのやめてもらえませんかねえ」
よくよく見てみると、神田川先輩はノラロウと昼寝&筋トレしてるし、弓月さんは新聞紙折り紙(今は兜を作っているようだ)に夢中だし、すみっこパイセンなんかは、サークル室のすみっこでブックカバーをつけた雑誌をニヤニヤしながら読んでいる。いや、読んではいない。どうやら雑誌の袋とじの部分から目が離せないようだ。
チャイくんは、海苔の佃煮ゴハンダヨ(小分け包装)で、白飯にニコちゃんマークを書いている。
誰も僕の話を聞いちゃいねーーーーー。
僕のターンはかなりの比率で無視されていた。みんなが僕の沈黙時間が苦にならなかったのは、こうして各々がやりたいことやってるからで。
どんだけ自由きままな校風やねん。
今度こそ終わり(・∀・)