タイからの留学生 チャイくんのおススメ
ずいぶんと久しぶりにということになろうと思う。知っている方も知らない方も寄ってらっしゃい見てらっしゃい。←古
読書サークル研究会「ほにゃらり」について、まずはご説明さしあげよう。
僕、長谷部優生率いる読サーほにゃらりは某T大に所属する、ひたすら本を読み続けるサークルである。終わり。
ただ、この回から読んでくださる読者の方もいらっしゃると思うので、ここに登場人物を列挙したい。物忘れの激しい作者に向けて、という意味合いもある。あまりその点は気にしないで欲しい。
✳︎✳︎(^ω^)✳︎✳︎ 登場人物紹介
読書サークル研究会の面々
長谷部 優生 ★ 大学1年生。読サーのマドンナ弓月さんが好き。
弓月 花音 ★ 大学1年生。新聞紙に絶大なる信頼を置く。
神田川 素意成 ★ 大学3年生。読サーの長。スポーツ万能、筋肉バキバキ。
林 先輩 ★ 大学2年生。サークル室のすみっこが好きで、すみっこパイセンと呼ばれている。
ノラロウ ★ サークル室に無断で入ってくる野良猫。弓月チャンLOVE。好物は学食の唐揚げ。
以上。まだ隠れサークル部員はいるけど、今後も出てこないから読み進めるに支障なし。
『読書サークル研究会ほにゃらり プレゼンツ サークル員によるおススメ本おススメ交流会』開催!
はい! こんにちは。この物語の主人公、長谷部優生でございます。
本日は、お日柄もよく。
今回。なんと。新入部員が入りました! ジャジャーン!
ご紹介します。
タイからの留学生、トンチャイくん。トンチャイくんは理学部の人だが、非常に頭のよろしい人で、日本語もペラペラだし、スラスラ読めるし論文だって書ける。
日本語でだよ? 信じられる? 日本在住19年の僕でさえ、日本語がまだおぼつ、……おぼぼ、……おもつかないというのに。(←正 おぼつかない:たよりない。上手くいくかどうか不安にさせる。ぼんやりしている)
とにかく名前が呼びにくくてならんという、サークル長の神田川先輩のひと言で、我らがアイドル、僕だけの心の女神、弓月さんがあだ名をつけてくれた。
「じゃあ、チャイくんでいいんじゃない? 可愛いよね? チャイくん」
うん。可愛い。
「チャイくんはなんで読サーに入ったの?」
するとチャイくんは頬を赤らめて、「本のことがスキダカラー」と言った。
こりゃまた個性的人物だ。こんな人しかおらんのか、このサークルは。
「ちなみにどんな本を読んでるの? 好きなジャンルは?」
あまり人見知りをしない僕が、積極的に話しかける。すみっこパイセン(登場人物紹介を参照)なんかはいつもながらサークル室のすみっこで、こちらの様子をチラチラと窺っている。
まあ、その気持ちもわからんでもない。
弓月さん狙いの男がひとり増える計算だからな。
ってか、めっっっっっっっっっちゃイケメンだもんな。タイの人ってこんなにもイケメンなのか。
めっっっっっっっっっちゃイケメンだもんだから、チョイイケな神田川先輩の、あの戦々恐々とした表情。
いつものウエメセも鳴りをひそめてしまっている。メンタルは豆腐。
「ボクが好きなジャンルは、エッセイ系小説デース」
「エッセイ⁉︎ ……へえ。いまどき珍しいね。普通、ファンタジーとか異世界とかいくけどね」←評論家気取り
「そういうのも読みますが、ボクのおススメは……」
そして、側にあったボストンバッグをゴソゴソと探り出した。それにしてもでかいバッグだなあ。なにが入っているんだろう。いまどき、ボストンバッグを持ち歩いている大学生も、珍しいと思うのだが。
「はいこれデス」
『姑の遺品整理は、迷惑です』(著:垣谷美雨 出版社:双葉社)
はい了解です。
グーグル先生に教えていただいたところ、姑が突然亡くなって、その遺品を整理するのがすごく大変だった、という題名通りの話だ。しかしこれはエッセイではない。れっきとした小説だがな。
待て。ここで。驚くことに意外な人が手を挙げたのだ!
「私、その本読みました!」
弓月氏だ。その言葉に反応して、ようやくサークル長である神田川先輩の重い口が開いた。
「えっっ? 弓月が? エッセイ(小説です)だぞ? それに嫁姑に関しては弓月にとってはまだまだ先の話だ。ちなみに俺のオカンは優しくて力持ちで料理もうまい。そんな嫁姑の本なんて渋いとこいくなあ」
さらっと自分のオカン紹介、挟んできた〜〜〜。
「はい。そうなんです(無視)。遺品整理といえば新聞紙。きっと新聞紙の使い方に、なにかヒントのようなものがあるんじゃないかって思って」
すげえ。そこまでの労力と時間を新聞紙にかけるとは。知ってはいたが、弓月さんの新聞紙愛には、計り知れないものがある。
「チャイくんはその本を読んでどう思った?」
新人を前に、弓月ちゃんもノリノリだ。まあイケメンだしな。
顔は中のなかの中からの、1ミリ、いや1センチ上な僕には、逆立ちしたって勝てっこない。
後ろ向きで内向的な僕は、それだけでもスタートラインから出遅れている。
「ボクはね、この本を読んで、あゝ日本では不用品を処分するのもタイヘンなんだなーって思ったんデス」
チャイくんが気持ちを込めて言う。今「あゝ」って言った?
それにさも同意というていで、神田川先輩がしみじみと言う。
「まあ、粗大ゴミなんかは自治体によっては回収してくれないところもあるからなあ」
「でしょ? だから、ボクはなるべく物を買わないようにしているのデス」
「なるほど。今、必要でも必然的にいつかは不要になるもんね。よく考えて買わないといけないっていう教訓だね」
僕が感心したように言うと、チャイくんはそうだそうだと頷き、そして笑った。
「〝物も人も大切に″がボクのモットーになりました。この本のおかげデス」
ああ、めっっっっっっっちゃイケメンの満面の笑みのこの破壊力。白い歯がキラリと光っている。僕は弓月さんを見た。すると、驚いたことに驚いた顔をしている。なぜだ!
断言しよう。今のくだりに驚くべき場所はない!
「……そ、そっか。はは、そうだね、その通りだね」
え。弓月氏?
もしかして動揺してる? もしかして……灰になろうとしている?
「その通りだよ。確かに、物を処分するって大変だもんね……そっか、」
「どうした弓月?」
「ゆゆゆ弓月くん、キミ大丈夫か? ぼぼぼ僕になにかできることがあったら、言ってくれください」←ここでようやくすみっこパイセンが入ってきたがすみっこパイセンもなぜか動揺気味
すみっこパイセンはほっておいて。僕はその弓月さんの悲しみの理由にピンときた。わかったんだ。僕はいつだって弓月さんを見つめている。ヒュー。
「弓月さん、」
僕は優しく問いかけた。
「弓月さんは、使わなくなった不用品を新聞紙にくるみたかったんだね?」
「は、長谷部くん……」
「わかるよ、君の気持ち。僕だって、古くなったスニーカーや使わなくなったかき氷機なんかを新聞紙に包んでいるくらいだからね」(スニーカーは臭いが新聞紙には臭いや湿気を吸収してくれる役目もある:弓月さんの新聞紙における豆知識100選より抜粋)
「……うん」
弓月さんは、うるうると少し涙目になっている。悲しそうな顔も美しいけど、やっぱり弓月さんには新聞愛を存分に語ってもらっている方が、生き生きとしているし、それに何と言っても笑顔が眩しいし可愛いのだ。
「どんなに物を買わないようにしても、どうしたって不用品は出るよ。リサイクルショップに持ち込みするんでも、僕たち学生は忙しい毎日を送っているから、なかなか行けないだろうしね。部屋のすみに置いておくと、やっぱり邪魔になっちゃうし、その時には新聞紙でくるんで押入れに入れる。これが一番なんじゃないかな」
決まった! カッコイイ! 僕!
弓月さんには笑っていて欲しい。そんな想いが強かったんだ。なんだこの茶番は? と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、これでいい。これで。
「長谷部くん、ありがとう」
「どういたしまして」
ふ。
今回のお話はこれで終了だ。
あれ? なんか忘れているような気もするが……チャイくんのことだ! 新入部員なのに、忘れ去られるというひどい仕打ち。ごめん!
僕は慌てて、フォローした。
「それにしてもチャイくん、その大きなボストンバッグにはなにが入っているの?」
「ああ、これですか? これはさっきリサイクルショップで購入してきた、中古の炊飯器デス」
ボストンバッグのチャックを開けると、中から炊飯器が出てきた。
「お願いがありマス! ボク白米大好きなんデスけど、アパートの電気代を滞納してたら電気止められちゃってー。サークル室の電気、貸してくだサーイ」
はーい。白米大好きっ子のサークル員としては合格だが、人としては不合格!
「おい待て。サークル長である俺の充電器を勝手に抜くな!」
……ここにもいたよ、神田川先輩という残念なイケメンが。ちなみになんの充電器かって?
3DS、シェーバー、iPhone、IH調理器、etc……
あれ? ここに住んでない?
終わり