少女目線
これは「少女目線」です。
私は今日もこの石の上に足をプラプラしながら座る。
今日は彼が来てくれる日だからいつもより上機嫌で待つ。
少ししたら彼の姿が見えてきた。
ちゃんと来てくれたんだ。
ちゃんと……覚えてくれているんだ。
1か月ぶりに合う彼。
とても嬉しい。
彼はいつも通り私の前に来ると「また来たよ」と声をかけてくれる。
私は彼に聞こえないと分かっていても「今日も来てくれたんだ」と返す。
そして、彼はこれもいつも通り
「今回もお前の好きなもんを持ってきたよ」
と言いながら、手に持っていたビニール袋から私の大好物のいちご大福を出して、目の前に置く。
やったー いちご大福だ!
本当に大好きなんだよね。
でも、この姿だともう食べることが出来ない。
彼もそれが分かっているから、いつも帰る時に持って帰る。
それから彼は私のこの座っている石の掃除を始める。
一応彼はこちらに
「ちょっと今からお前を綺麗にしてやるからな」
と声をかけてから掃除を始める。
うーん……でも
「前もきれいにしてくれたからそんなに汚れてないと思うんだけどな」
と呟く。
本当にいつも綺麗にしてくれるからそんなに汚れていないと思うんだけどな。
そう思っていたら彼は「うーん、いつも綺麗にしているけど意外と汚れているもんだな」と言う。
私は少しショックを受けた。
一応「……もう、女の子にそんなデリカシーの無いこと言っちゃダメだと思うんだけど!」と力強く忠告しておく。
聞こえないと思うけど。
そんなこんなしていたら彼は掃除を終わらせる。
「よっし、綺麗になった。やっぱりお前はこうじゃなくっちゃ」
彼はいつも掃除を終わらせた後はこう言ってくれる。
私は少し頬を染めながら「毎回毎回、ホントありがとう。おかげですっきりしたよ」といつも通り返す。
そして掃除の後はいつも彼は近況報告と言うか他愛の無い話を始める。
「そういえば来月から俺、高校生になるんだよ」
……そうか、もうそんな季節か。
時の流れは速いな。
少しだけ私の胸がズキンと痛む。
痛む胸はないはずなのに。
私はその気持ちをごまかすかのように彼を茶化す。
「あんなに馬鹿だった君でも高校生になれるんだ」
すると彼はこう返してきた。
「……絶対今バカにしてんな」
「ギクッ」
まさか聞こえている……?
……いや、そんなことはあり得ない。
彼はたぶんそう頭の中で予想していたのだろう。
これは流石だとしか言いようがない。
私がそう思っていたら彼は話を続ける。
「まぁいいや。それでな……不安しかないんだよ」
「どうして?」
私はまるで会話をしているかのように彼に聞き返す。
「同じ中学校からその高校に行くやつがいなくなったから俺一人なんだよね。知っている奴がいないから結構不安」
彼が悩みを吐露するなんて珍しい。
こういう時は本当に参っている。
まぁ、一緒に行く予定だった私もいなくなっちゃったし、仕方が無いのかもしれない。
でも、彼には持ち前のコミュニケーション能力があるから何とかなりそうだと思うのだが。
そう思った私は「でも、君だったらその持ち前のコミュ力で何とかなりそうな気がするんだけど」と返す。
彼も同じこと思っていたみたいで「俺には確かにコミュ力があるけれどそれでも、やっぱりな~……何とかなるのかな」と言う。
こればかりは……彼次第だろう。
まだ中学生の時は私が間に立ったりして手助けをしていたが私はもうその悩みに干渉することが出来ない。
自分自身の力で頑張ってもらうしかないのだ。
そう考えた私は楽観的に言うのではなく、冷静に返す。
「そればかりは君次第だよね」
と言っても、彼も分かっているらしく
「まぁ、これは自分の力で頑張るしかないか」
と決心した声で呟く。
「うんうん、その意気だよ!」
私はそう後押しをする。
聞こえていないと思うけど、想いは伝わってほしいな。
そう思っていたら彼は今度こっちの心配をしてくれる。
「ところでお前こそ平気か?寂しくないか?」
……君は本当に優しい。
でも……大丈夫だよ。
なんてったって君が会いに来てくれるからね。
私は「全然平気だよ。君が来てくれるからね」と口に出して伝える。
本当に伝えたいこの想い。
そう思っていたら彼はこう静かに呟いた。
「……と言ってもお前が寂しくなくても、俺が寂しいんだがな」
とても静かで、小さな声で呟いていたから多分聞こえないだろうと思っているだろうけど、私は地獄耳だから聞こえているんだな~
「おっ、それはなんだか嬉しいな!」
おっと、ついつい本音が。
聞こえてないと思うけど口に出すと少し照れる。
「……これ、俺が普段言ってなかったから絶対喜んでいるな」
おりょ!?
まさか聞こえた?
……いや、そんなわけないか。
これも多分彼の頭の中の私がそう言っていたからそう返しただけだろう。
にしても想像力豊かだね~。
「よく私の気持ちわかるな。流石だね」
ほめて遣わす(笑)
「ずっと今まで一緒に過ごしてきたからいなくても分かるようになっちまった」
なるほど。
そういうことね。
「流石、幼馴染なのは伊達じゃないね」
本当に称賛ものだよ。
幼馴染だからって普通分かるかね。
いや、私も人のこと言えないか……
そうこうしていたら彼はこう切り出した。
「おっと……そろそろ時間が来ちゃったな……」
「えぇー、もう帰っちゃうの?寂しいよ」
……本当に寂しい。
また、1か月待たないといけないのか。
そう思ってたら彼は覚悟を決めたような顔で物を片付ける。
そして、こちらを見ていつも通りのセリフを吐いてくれる。
「来月また来るから」
「……うん、楽しみにしているね」
私は本心からそう言う。
そして、去る君の背中を見ながら余韻に浸っていると彼はため息と共に呟いた。
「はぁー、会いたいな」
「…………私も」
それはもう叶うことのない願いだと分かっていても、私はそう願わずにはいられない。
こんなことになるんだったら……こんなことになるんだったら!
……ちゃんと「好きだ」って伝えておけば良かった。
私はそんな何回抱えたか分からない後悔を胸に、彼が見えなくなるまでじっと見続けるのだった。
皆さんこんにちわ 御厨カイトです
今回は「届く想い、届かない声」をお読みいただきありがとうございます
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