表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鳥人間襲来

作者: N(えぬ)

1、

 タカオは30才で独身。一般的なサラリーマンだ。

 彼の家族は今のところマットという猫が一匹。オスのキジトラで、推定年齢は……もうよく分からない。実はマットは生体コピーで長年生きている猫だ。今から百年近く前になるが、生物のほぼ完全なコピーを作る技術が確立された。それは生物の構造だけで無く、記憶などもすべてコピーできる技術だ。

 ただ、この技術は一般的に人間には行うことが許されていない。主にペットや絶滅し掛かっている動物にだけ行うことが許可されている。

 マットは、そのコピー技術が一般に解禁されて数年後に寿命を迎えつつあったマットを惜しんでタカオの祖父がマットをコピーしたのだ。だから詳しくは分からないが、恐らくもうすぐ百才を迎えるのではないかと云うことだけは分かっている。


 タカオが夜、マットを抱いてテレビを見ていると、外で轟音がした。タカオはマットを抱いたままカーテンを開けて窓の外を見た。遠くに火柱が見えた。

「大変だ。隕石でも落ちたのか?!」

 だがその轟音は一度では済まなかった。後から後から幾つもの火球が空から降ってきた。

 これを見てタカオは、どこかへ逃げなくてはと思ったが、あんなすごいものが落ちてくるのを避けられる場所は思いつかなかった。

 幸い、火球は尾を引いて落ちてくるので、多少は避けられる可能性があるけれど、それも結局は賭けだった。

 家々から人が飛び出してきて、車で逃げ出す姿が見えた。街はあっという間にパニックになっていた。


 火球が落ちるのは30分ほど続いて、そして止んだ。

 タカオはホッと胸をなで下ろした。

「止んだか。あれはなにか、流星群のようなものだったのだろうか」

 方々で火災が起きているのが見えた。けれどタカオの家の周りには火球は落ちなかったので難を逃れた。

 テレビをつけてみるとまだ情報がまとまっておらず、ただこの地域に相当数の火球が落ちたという事実を伝えているだけだった。恐らくこれから政府の機関などから人が来て調べることで、謎が明らかになっていくのだろう。


2、

 火球は隕石などではなかった。宇宙船だった。火球の中には宇宙人が乗っていたのだ。

 火球は金属の玉のようなものだった。その中からドアを開けて宇宙人が出て来た。

 宇宙人は地球人から見ると「鳥人間」という感じの風貌をしていた。くちばしのある顔で羽に覆われ、目の部分に黒いゴーグルをして、胴体は銀色の宇宙服を着ていた。腕は独立していて、羽は背中から直接生えていた。

 彼ら鳥人間は武装していた。手に手に光線を放つ銃を持っていた。彼らは歩兵なのだ。あの火球は相手を急襲するための乗り物だったのだろう。

「それでは、二本足で歩く生物を片っ端から殲滅しろ。そして、そいつらに成り代わって我々が支配者になる」

「おー!」

 鳥人間たちは人間を手当たり次第に攻撃し始めた。彼らの武装は手持ちの小さな銃に見えたが地球人類が行使する武器より遙かに高度で威力のあるものだった。それに地球の警官が銃を発砲しても彼らはすべて跳ね返してしまう見えないバリアを張っていた。そして翼で空を飛べたから機動力も申し分なかった。人類は最初から勝ち目がないように圧倒されていった。

 鳥人間の攻撃目標は人間だけだった。

「倒すのは二本足のあの生物だけだぞ。ほかの生物、環境にはあまり損害を与えるな」

「奴らの反撃は、予想通りたいしたことはありませんね。我々は今のところほぼ無傷です」

「うむ。事前に密かに探った効果が出ているな。これなら数ヶ月で、あの二本足の生物は全滅だ」


3、

 人々は鳥人間に見つかると光線銃で撃たれた。光線を浴びた人は一瞬で炭のように真っ黒になり、その場にボロボロと崩れ落ちた。そうで無ければ鳥人間のくちばしの一撃で命を落とす者、くちばしに挟まれて砕かれてしまう者もあった。

 地球人はこんな攻撃に遭ったことがなかったので、全面的な反撃に転じるのに時間が掛かった。鳥人間が圧倒的に強かったので、人間の兵士は恐れをなして、命令に背いて逃げ出す者も相次いだ。その間にも人々は鳥人間にやられていった。テレビではアナウンサーが、繰り返し繰り返し視聴者に訴え続けていた。

「落ち着いて対処してください。鳥人間に見つからないよう身を隠してください。銃などでの反撃は無意味です。とにかく隠れてください。軍隊が反撃のため進行中です。人類の反撃を待ちましょう」

 そんな風に人を励ますことくらいしか出来なかった。何しろ近づいて行けば鳥人間に発見されしだい抹殺されてしまうのだから、テレビでは超望遠レンズで映した映像しか流せなかった。

 地球の政府高官や軍隊の指揮官は呻く以外にほとんど何もすることができなかった。

「いきなり飛来して、有無を云わさず攻撃を始めるとは……市街地では大きな攻撃は出来ない。歩兵同士のゲリラ戦のようなものだ。しかも、こちらの攻撃がほとんど効果が無い」

「大臣。これはもう最後の手段に出るしか……」

「核攻撃か?あれは、長年、脅しに使うものであって……。それに、自国の市街で使うなんて考えられん。国民に大きな被害が出たのでは本末転倒だ。銃での攻撃が効かない相手を倒せるかどうかも未知数だ」

「ですがこのまま指をくわえてみているだけでは……」

「国民を守るためには、もう、降伏するしかないか」

「ですが、あの鳥人間どもは何の話し合いも持ちかけてきません。来るなり、ただただ人間を攻撃しているだけです。もしかすると、人間を排除するのが目的で、我々の降伏など受け入れるつもりはないのかも知れません」

「そうすると、とにかく最後まで戦うだけということか」

「はあ。今のところ、ほかに有効な手段がありません」

「うぬぬ」


 テレビ放送は人々に希望を訴えたが、繰り出される軍隊は次々、鳥人間の放つ光線を浴びて燃え上がり後退していった。間近に軍隊のそんな姿を見ると、人も落胆して、とにかく身を隠す以外に自衛手段がなかった。


4、

 鳥人間たちは、人間たちの敗走の様子を地球の空に浮かぶ母船に逐一報告していた。

「もう、我々の勝利は決まったも同然です将軍」

「油断はするな。上空からの観測では、一部の地域で自国内でも構わず大量破壊兵器を躊躇無く使っている。あんなものを使った地域は、占領しても住むことが出来ない。一番大きな被害を受けているのはこの星の人間だというのに、バカな奴らだ。あの国の軍を早急に無力化しろ」

「はい。了解いたしました!」


 鳥人間軍と破れかぶれになっている地球の軍隊との全面対決が繰り広げられた。

「まあ、やるかやられるかの二つに一つだからな、あんな反撃もやむを得ないさ」

 鳥人間の戦闘員も地球の軍隊の暴走に匙を投げていた。


5、

 タカオも着の身着のままで逃げ出していた。森の中などへんぴな場所なら鳥人間もわざわざ追ってこないだろうというのが考えだったが。同じようなことを考えるのが人間だった。森の中には、けっこう多くの人が集まっていた。

 タカオは猫のマットを抱きかかえて森にやって来たが、

「そのうちにここも見つかって、私もあの鳥人間に焼かれてしまうのだろう……マット、おまえともお別れだな。おまえは長生きしてしてくれ。もう100年くらい生きただろうけれど、それでももっと、俺の分まで生きてくれよ」

 タカオは腕の中のマットをいつもより強く抱きしめていた。マットは飼い主のそういう異変に気づいたのだろう、激しく鳴いた。

 森の中には、タカオ同様に家族とともにペットを連れている人が多かった。みんな、いつ来るか分からない最期のために別れを惜しんだ。

 タカオはマットに餌をやった。

「これが最後かも知れない」

 マットはおいしそうに彼の手から餌を食べた。


 深夜。午前3時に近くなった。夜明けはまだ遠い。新しい夜明けを見ることはできないかも知れなかった。森のそばでも火の手が上がり始めた。鳥人間が近づいてきたのだ。木の陰に隠れて息を潜めていたタカオや周囲の人たちにも緊張が高まっていた。

 その時だった。タカオの腕の中で眠っていたマットが目を開けた。そしてタカオの腕を這い出た。

「どうした、マット」

 タカオがマットに囁くと、マットはタカオの肩に乗って彼の頬を一つ嘗めた。そして、

「あ!」

マットはタカオの腕をするりと抜け出すと声を背中に一散にどこかへ向かって走り出した。すると、森の中の方々で小さな声が上がった。人々が連れてきた猫の中で何匹かがマットと同じように突然どこかへ走り去ったのだ。


6、

 マットを始め、この地域周辺の猫がとある公園に集結した。

 古来より、特に長く生きた猫は変化へんげするという。

 彼らは皆すべて、今から100年前に生体コピー手術を受けた猫たちだった。彼らはつまり、100年を生きて来た。そして、100年目の丑三つ時が今来たのだ。

 公園の滑り台の上にマットが立ち上がった。

「我々はついにこのときを迎え、猫又になった。だが今、人間は絶滅の危機に瀕している。我々は人間がいてこその猫だ。人間を救おうではないか!」

「おぉー!」

 いろいろな毛並みの猫又たちが前足を突き上げて歓呼した。

 猫又の一斉蜂起だ。

 これは、時間と供に世界に拡大した。西洋の猫もまた、「魔の時間」の訪れに従い魔力を持った猫たちが立ち上がった。

 かくして、世界の猫妖怪VS宇宙からの鳥人間の戦いが幕を開けた。


 猫又たちは街に散開し鳥人間との戦いが始まった。

 突然の猫の襲来に鳥人間はうろたえた。

「なんだこの生物は。猫という生物に似ているが、猫にしてはものすごく大きいし、二本足で歩いているし人間どもと同じような服を着ていたりする、中には妙な楽器を奏でているものまでいる。バカにしやがって……とにかくこいつらも殺してしまえ!」

 鳥人間は猫又に光線銃を向け発射した。だが、

「なに!光線が効かない。体を貫通しているのに。それにこいつらは我々のバリアを通り抜けて攻撃してくるぞ」

 そうなのだ。猫又はいわゆる生物ではない。彼らの体に鳥人間の物理攻撃は全く効果が無かった。

「鳥人間は、怯えているぞ!我々に恐れるものは無い。トリ野郎を喰って喰って、喰いまくれ!ニャォォー!」

「ニャォォォ!」

 毛を逆立て、爪を尖らせて彼らは雄叫びを上げる。

 猫又たちは物陰から鳥人間に飛びかかり爪で押さえつけあるいは首根っこにかじりついて切り裂いた。人間など及びも付かない跳躍力を持ち、ときには姿を煙のごとく消して見せたりした。人間を圧倒していた鳥人間も猫又にはまるで歯が立たなかった。

 このことには地球の軍隊も困惑した。

「猫と鳥が戦っている……」

「猫のほうが圧倒的に優勢なようです」

「猫が我々の味方であることを祈ろう」

 猫が上げる「ギャィィ!」っと威嚇の鳴き声、そして鳥人間の「ピキィィ」という断末魔の叫びは夜が明けるまで続いた。鳥人間のほとんどは猫又の爪牙に掛かり、そこら中に鳥人間の羽が散乱した。


 鳥人間は混乱した。

「この星に、こんな得体の知れない不死身の生物が生息していたとは。そんな事前調査の報告は無いぞ。なんと云うことだ」

「将軍。これでは勝ち目がありません。撤退しましょう」

「うむ。しかたがない。この星の占領はあきらめよう。……しかし、この星は人類が頂点に立って支配していると思ったのだが……なぜ猫と呼ばれる、あんなに強い生物が支配権を持っていないのか不思議でならない」

 鳥人間は戦闘員を撤収し、宇宙船でそそくさと逃げ出した。人類は救われたのだ。


 世界中の猫又は、その後、夜明けと供にまた元の猫に戻った。

 マットもタカオの元へ帰って来た。

「どこへ行っていたんだい、マット。なんだか傷ついているけど。でも、無事に帰ってきて嬉しいよ」

「にゃぁぁ」

 タカオはマットの体を摩りながらそう云い、マットは甘えた声で鳴いた。

 タカオとマットは、元の関係に戻ったのだ。

 マットはタカオの腕の中で眠りについた。この先、生き続け、またいつの日か変化へんげする日が来るのかも知れない。

猫又で人類を支配しないのかですって?

いえ、すでに遙か昔から人は猫のしもべですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] SFかと思いきや、ファンタジーや妖怪アニメの要素も取り入れられてすごかったです! [気になる点] 自然や動物達を傷つけないためとはいえ、罪のない人間達を殺す鳥人間達はひどいですね!人間も地…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ