第28話「テストが終わって」
「……はい、終了。全員鉛筆を置いて、1番後ろの席から答案用紙まわせ。」
「終わった〜。」
先生のテスト終了の合図とともに、1人の男子生徒が大きく伸びをした。
先生もチラッとそっちを見たけれど、注意はせずに大目に見てくれるみたいだった。
「…よしっ。これで中間は終わりだ。来週には順位が貼り出されるのと、テストの返却があるだろうが、ちゃんと復習しておけよ。」
答案用紙の枚数を確認し、『じゃあ、解散。』と先生の号令が掛かると、皆一様に力の抜けたため息を吐いた。
「お疲れ様、武庫くん。」
「洲崎さんも、お疲れ様。」
先生が出て行ってすぐに、洲崎さんが僕の元に寄ってきた。
その顔には少なからずテスト勉強の疲れが出ていたが、表情は明るく見えた。
「……その感じだと、手応えあった?」
僕の質問に彼女は照れ臭そうに笑う。
「えへへ、わかる?武庫くんのおかげで、これまでで1番自信あるの。ありがとう。」
小さくピースサインする彼女に、最初の印象から随分変わったなぁと思う。
といっても、勉強が絡まなければこれが本来の洲崎さんなのだろう。
「おーい、武庫!」
洲崎さんと話していると、後ろから誰かに抱き付かれた。
……うん。声でわかってたけど、この硬い感触は由里ちゃんではないね。
「やったぜ!お前のおかげで俺は、俺は……!」
「…痛いよ、住吉くん。」
感極まった様子で、僕を締め付ける住吉くん。
「まだ結果が出てないのに、早すぎない?」
「そんなのバッチリに決まってるだろ!」
僕は離れない住吉くんに、鬱陶しさを込めて溜息を吐いた。
その様子を、洲崎さんが笑う。
「ふふっ、すっかり仲良くなったね。」
「おうよ!武庫は俺の心の友だ!」
「……あんまり、嬉しくないなぁ。」
『なんだとぉ!』と、さらに力を込めてくる住吉くんの腕をタップしていると、他の面々も集まりだす。
「あー!こらっ、圭太!深月くんをいじめる奴は私が許さないよ!」
「なにっ!?よーし、俺に任せろ!」
「いででででっ!り、律人!誤解だ!」
園田さんと律人もやって来て、さらに騒がしくなる。
ちなみに、律人が住吉くんにヘッドロックをかましたおかげで、僕は解放された。
「…ふぅ、酷い目にあった。」
「だ、大丈夫?」
まだじゃれている3人を尻目に一息つくと、最初は笑っていた洲崎さんも心配してくれる。
「うん、まぁ大丈夫だ…よ?」
そう洲崎さんに答えている最中、今度は背中にふにゅんっとした柔らかい感触が押し当てられる。
「……。」
「……わぁっ。」
「…由里ちゃん?」
そのまま、僕の首に腕が回され優しく包まれた。
大胆な由里ちゃんの行動に、洲崎さんは両手を口に当てて驚いている。
「由里ちゃん、どうしたの?」
正面に回された由里ちゃんの手に触れながら僕が聞くと、キュッと回した腕の力を強めた。
……住吉くんと違って、可愛いものだけど。
「……深月は、私の。」
「…僕にそっちの気はないから、大丈夫だよ。」
どうやら、住吉くんに嫉妬したみたいだ。
こういう所も可愛いと思うけど、相手が相手なのでやめてもらいたい。
ポンポンと由里ちゃんの腕を軽く叩くと、由里ちゃんはすんなり腕を解いた。
「……武庫くん、もうすっかり久寿川さんを受け入れてるね。」
慌てた反応をしなかった僕に、洲崎さんは意外そうに言った。
「うーん、もう慣れたのもあるけど……。出来る範囲でなら、由里ちゃんを受け入れてあげたいし。」
「そ、そっか……。」
僕の返答に、なぜか洲崎さんは顔を赤くし、由里ちゃんは満足そうに微笑んだ。
「梢恵ー!どうだった?」
「わっ!もう、夏代。びっくりするじゃない。……おかげさまで、出来たと思う。」
「ホント!?やったじゃん!」
テスト明けで普段の2割増しでハイテンションな園田さんに、今度は洲崎さんが絡まれた。
僕はとりあえずそっちは置いておいて、由里ちゃんに話かける。
「由里ちゃん、お疲れ様。出来はどう?」
「……大丈夫。」
「そっか…。僕もそれなりに出来たよ。」
「……褒めていい?」
「今はダメ。また今度、2人の時にね。」
「……ん。」
淡々と交わす会話はどこか甘くて、以前よりも通じ合っているように感じる。
「そういえば、陽葵さんは?」
僕の質問に由里ちゃんが答える前に、律人が入ってきた。
「塚口なら、駿と話してたぞ。もうちょっとしたら一緒に来るだろ。」
僕は律人に顔を向けて、聞いた。
「そう……。もう、問題なさそう?」
「あぁ。今も駿から塚口に、お礼を言いに行ったんだ。」
「御影くんの方から…?」
仲直りしたとはいえ、ちょっと意外だった。
「最近じゃ珍しくないぜ?テスト前も、わからない所は駿から聞きに行ってたしな。」
「それは…、仲睦まじいね。」
「お前もだろ。」
そう言って、律人は由里ちゃんの方を見た。
「……つうか俺、久寿川に何かしたか?」
「……。」
別に睨んでいるわけではないけど、無感情な瞳で律人を見る由里ちゃん。
僕と話していた後だから余計にそう見えるし、今も律人の質問に答えない。
「……由里ちゃん。律人が何かしたなら、教えて?僕が許さないから。」
「おい、何もしてねぇって!」
容疑者の言葉には耳を貸さず、由里ちゃんの言葉を待つ。
僕が聞いたからか、由里ちゃんは素直に答えた。
「……ライバルだから。」
「何のだよ?」
もう由里ちゃんが答えることは諦めたのか、僕に聞いてくる律人。
「……あぁ、そういうことか。」
「おい、わかったんなら教えろよ。」
「ははっ、由里ちゃんに教えてもらったら?」
「なっ!?答えてくれねぇじゃねぇか!」
意味のわかった僕は、笑いながら律人の質問をはぐらかした。
「悪い、遅くなった。」
「由里ったら先に行っちゃうなんて…。」
しばらくして、ようやく御影くんと陽葵さんが教室にやって来た。
すでに帰った生徒も多く、残っているのは僕達の他は数人だけだった。
「もうっ!遅いよ2人とも!」
園田さんがわざとらしく怒った様子で、2人にそう声をかける。
「そんな急ぐことねぇだろ。…それに、何で武庫のクラスに集まってんだよ?」
「確かに…。私たちのクラスの人数の方が多いのにね。」
御影くんの指摘に、可笑しそうに陽葵さんが同意した。
「いいじゃんか!俺は1番に武庫にお礼を言いたかったんだよ!」
おそらくその原因となった住吉くんが反論したが、洲崎さんが言いづらそうに発言する。
「……ごめん、私が先に言っちゃった。」
「なにっ!?」
『圭太、無駄足じゃーん。』と園田さんが突っ込み、みんなで笑う。
由里ちゃんも、陽葵さんも、御影くんもいて、このメンバーで他愛もない話で盛り上がれるのが、本当に楽しくて嬉しかった。
それから、僕達は打ち上げと称してファミレスで昼食をとり、カラオケに行った。
僕もみんなも、半日思いっきり遊んで、テストの鬱憤はどこかに行ってしまったようだ。
「じゃあ、またなー!」
「お疲れー!」
楽しい時間はあっという間に過ぎて、みんなと分かれる。
「…行こっか、由里ちゃん。」
「……うん。」
僕と由里ちゃんが、1番最初に違う帰り道だったので、まだ楽しそうに去って行くみんなの声を聞きながら、2人で歩き出した。
「…楽しかったね。」
「……うん。」
ポツリポツリと、短い会話を繰り返す。
「カラオケ、付き合ってくれてありがとう。」
「……いい。」
由里ちゃんにカラオケでの打ち上げを聞いてみると『深月が行くなら。』と了承してくれた。
けれど、やっぱり歌うのは苦手みたいで由里ちゃんは1曲も1人では歌わなかった。
そこから、しばらく無言で歩く。
由里ちゃんとの、お互い何も喋らないのに気まずくならないこの空気を、僕はちょっと好きになってきていた。
「……深月。」
「…なに?」
いつも由里ちゃんと分かれる道が近づくと、由里ちゃんが僕を呼んで、沈黙は破られた。
「……私の事、わかってきた?」
「……。」
『お互いのことを、もっと知った方がいい。』
由里ちゃんが僕に告白してくれた時に、僕が彼女に言った言葉だ。
なので僕は由里ちゃんのその問い掛けを、返事の催促のように感じた。
けれども僕はそれにはちゃんと答えたくて、今は流した。
「……由里ちゃん、今度埋め合わせしていい?」
「……埋め合わせ?」
「うん。2人で勉強するって約束、守れなかったからその埋め合わせ。」
僕は立ち止まって、由里ちゃんを見た。
由里ちゃんも僕を見上げる。
「月曜日の放課後、僕とデートしてくれない?」




