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第2話「質問攻め」

短編から時間が空いたので、違和感あったらごめんなさい。


「それじゃ…、教えて。」



由里ちゃんから告白された次の日の昼休み。

今日も来るのではと怯えと期待を半々に食事を済ませた頃、予想通り彼女はやって来た。


周囲もそれを予想していたようで、食事中からこちらを気にしていた様子だったクラスメート達は、一気に静かになって聞き耳を立てている。



しかしそんな注目など全く意に介さない態度で僕の席の前まで来た由里ちゃんは、いきなりさっきの言葉を投げかけた。



「えっと……、なんのこと?できれば、もう少し詳しく説明してほしいな。」



彼女の登場と突然の質問に戸惑いを隠せない僕は、そう問い返す。




「……お互いのこと、もっと知った方がいい。」


「確かに昨日、僕はそんな感じのことを言ったね…。」



首を傾げながら答えてくれた由里ちゃんの言葉は、昨日僕が彼女に言ったものだった。

告白後の会話から僕の名前すら知らなかった事が判明し、由里ちゃんに本当にそれでいいのか、よくわからない説得を試みた時にそんな言葉を言った記憶がある。



『……何にせよ、やっぱり付き合うのはもう少し慎重になった方がいいと思うんだ。お互いの事をもっと知ってから、それから決めても遅くないはずだよ。』



由里ちゃんの貞操観念の低さに危機感を覚えて恋人を見極める大切さを説いたものの、『あなたなら、大丈夫。』の一点張りだった彼女にそう言ってなんとか納得してもらったのだ。



……その時の由里ちゃんの表情は、なんとも言えない不満さを醸し出してはいたけれど。

ひとまず僕が彼女を思って言っている事だけは伝わったようで、渋々頷いてくれてホッとした所で昨日は予鈴が鳴り別れた。




「それで、僕の事を聞きに来たの?」


「うん…。」



相変わらず表情の変化は乏しいが、気合いの入った目をして頷く由里ちゃん。

今気付いたけど、手には可愛らしい猫が描かれたメモ帳とペンが握られている。



『そんなに気負わなくていいのに』と思いながらも、素直すぎてどこかズレている由里ちゃんが可愛くて僕の表情が綻んだ。



「……?」


「あっ、ごめん。何でもないよ。」



不意に笑った僕を不思議そうに見つめる由里ちゃんに、一言謝って席を立つ。



「ここじゃゆっくり話せないし、移動しよう。」


「……わかった。」



正直、周囲の目を気にしながら由里ちゃんの相手をするのは骨が折れる。

さりげなく周りの視線から逃げられるように由里ちゃんを誘導して、出来るだけ穏便にさっさとこの場を離れたかった。



——そんな思惑をこの子は無自覚に、そして無慈悲にぶち壊す。



「由里ちゃん……?」


「……。」


着いて来ている気配がなかったので振り向くと、案の定由里ちゃんは僕の席の前で身体の向きを変えただけで、歩き出さずにいる。



そして無言のまま、スッと差し出される手。

僕はその手に、強烈に嫌な予感がよぎった。



「ゆ、由里ちゃん。休み時間終わっちゃうよ?早く行こう。」



冷や汗が背中を伝うのをやけにハッキリと感じながらも、僕は努めて笑顔でそう声を掛けた。

うまく頬筋が働いてくれずに、引き攣っている自覚はある。


そんな僕の言葉に由里ちゃんは微かに眉を寄せ、ムッとした雰囲気を漂わせて言った。



「……昨日は、引いてくれた。」


「うぇっ!?」



その言葉に、ザワつき出すクラスメート達。

昨日とは違い、あの久寿川由里が自ら手を繋ぎたがっているような言動をしているのだから、無理もない。



(いやいや、なんて言うかもう、この子に羞恥心は無いのだろうか?)


それが当然かのような態度の由里ちゃんに対して、そんな疑いを持ってしまうほど焦りまくる僕。



「……えっとね、まずは昨日は急に引っ張っちゃってごめん。あれは僕が軽率だったよ。だから、毎回手を繋ぐ必要はないんじゃないかな?」



どこか常識外れな彼女に、精一杯わかってもらえるように言ったつもりだった。



「……。」



しかし彼女は何も言わずに視線を落とし、握られない差し出した自分の手を寂しそうに見つめたまま動かない。




——あぁっ!もうっ!!そんな目をされたら、放って置けないじゃないか!!




半ばヤケクソに由里ちゃんの手を取ると、彼女がパッと顔を上げる。

それに合わせて、教室内に一際大きなどよめきが起こった。



「今は時間がもったいないから…、行こう?」



自分の顔が真っ赤になっているのがわかるし、恥ずかしすぎて由里ちゃんの方を見れない。

頭に血が昇って、緊張のせいでまるで自分を俯瞰して見ているような奇妙な感覚に落ち入りながらも、なんとか言葉を絞り出した。



いっぱいいっぱいな僕に、由里ちゃんは一歩距離を詰めてから軽く僕を見上げ、『うん。』と満足そうに答える。

チラッと見た彼女の表情はやっぱり変化は乏しいが、微かに目尻が下がっているのがわかってさらに鼓動が早くなった。



なんだかんだ由里ちゃんには敵わない、と若干諦めつつも『後から人前で手は繋げない、とお願いしておかなければ』と心に決めた僕だった。








「はぁ…、ここでいいかな。」



各学年の教室があるA棟から離れ、専門科目用の教室があるB棟まで来た。

移動中、突き刺さる視線に僕の精神がゴリゴリ削られ、かなり疲れた…。



音楽準備室のドアを開いて誰もいない事を確認し、由里ちゃんと一緒に入る。

目的地に着いたので手を離すと、由里ちゃんは一瞬またあの寂しそうな目をして自分の手を眺めたけど、今回は何も言わなかった。


気を取り直したように無表情に戻った顔を上げ、聞いてくる。



「……いいの?」


「ん?あぁ、大丈夫だよ。」



追求が無かったことに安堵して、たぶん勝手に入っていいのか確認してきた由里ちゃんに答える。

ここの主である音楽教師とは懇意にしているので、楽器に触らなければ見つかっても問題ないだろう。



「ちょっと狭いけど、ここならゆっくり話せると思ったんだ。座って。」


「うん…。」



机はないが教室の隅に積まれた椅子を取り出して勧めると、そこに由里ちゃんがちょこんと座る。



——なんというか、その動作だけで可愛いと思ってしまうのが悔しい。



あんまり眺めているとずっと目を奪われかねないので、極力意識しないようにさっと視線を外し、自分の分の椅子を由里ちゃんの向かいに置いて座った。



「……同じ種類のはずなのに、いつもと違う椅子って座り心地が違うよね。」


「……。」



改まって彼女と話をする事に、どうしても緊張してしまいそんな他愛もない話題を振るが、反応はない。


『はは…。』と、僕の愛想笑いが虚しく響いた後、教室内が静寂に包まれる。



「……。」


「いや、今のは書かなくていいと思うよ。」



無言のまま、メモ帳に何かを書き留めようとした由里ちゃんを止めた。



「うーん、どういうことを話せばいいかな……。」



「…何でもいい。」



いざ自分の事を話すとなると、何を言えばいいのかわからない。

由里ちゃんも特に聞きたい事を考えていた訳ではなさそうなので、ひとつ提案をした。



「それなら簡単に自己紹介して、その後聞きたい事をお互いに質問するのはどう?」


「……それで、いい。」



僕の提案に少し考える素振りを見せたものの、由里ちゃんは了承してくれた。







「それじゃ、自己紹介するね。昨日も言ったけど、僕は武庫(むこ) 深月(みつき)。中学の時は陸上部だったけど、今は部活には入ってないよ。家族は姉がいるけど、歳が離れててもう結婚しちゃったから、今は一人暮らしなんだ。趣味は…、走るのが好きで強いて言えば読書。あぁ、あと姪と遊ぶことかな。」


「……。」



僕から自己紹介をはじめると、由里ちゃんがメモ帳にペンを走らせる。

僕はそれを待ってから、順番を譲る。



「…それじゃ、由里ちゃんもお願い。」


「……。」



しかし、由里ちゃんはメモ帳に視線を落としたまま動かない。



「由里ちゃん?」


メモを取る手は止まっていたので、促すように呼びかけるとゆっくり顔を上げた。



「先に質問……、いい?」


「え?…うん、もちろん大丈夫だよ。」



少し驚いてしまったが、ちゃんと手順を決めた訳でもない。

もしかしたら由里ちゃんは最初からそのつもりだったのかも知れないと思い、すぐに了承する。




すると、由里ちゃんが表情を変えずに僕をジッと見つめた。

僕の反応を窺っているかのような妙な間が出来て、『質問を考えてるのかな』なんて思っていると、彼女からとんでもない質問が飛んできた。



「……胸は大きいのと小さいの、どっちがいい?」


「はぁっ!?」


いきなりアレな質問をされて、僕は素っ頓狂な声をあげる。

えっ、質問ってこういうの!?



「……?」



対面に座る由里ちゃんは、慌てた僕を不思議そうに見て首を傾げている。

あっ、由里ちゃんのこの仕草はよく見るし、クセなのかな…。




じゃなくてっ!!



「ゆ、由里ちゃん?なんでそんな質問を……。」



うまく突っ込めない僕の『なんで』に、由里ちゃんが律儀に答える。



「……私はたぶん、大きいのだから。」


「いや、それは…、その……。」



『見ればわかるよ』なんて言えない…。



「ほ、他の質問は?」


「……。」



『質問に答えてもらってない』と主張するように、ジトッとした目つきで僕を見つめる由里ちゃん。




……この子は思春期の男子を弄んで、楽しいのか。



若干、恨みがましく思いながら、それでも答えないと先に進まないことを悟った僕は観念して口を開いた。



「……大きい方。だけど、そこまでこだわらない。」


「……ん。」



恥ずかしくて視線を合わせられないまま、ちょっとぶっきらぼうになってしまったのは許してほしい。

由里ちゃんがメモを書いているタイミングでそっちを覗き見れば、心なしか勝ち誇ったように口角が上がっているように思えた。



「…次、いい?」


「うん…、どうぞ。」



もう怖いものがなくなったと考えればと、気を取り直して次の質問を聞く。



「…好きな、下着の色は?」


「ちょっと待って。絶対にわかっててやってるよね?」


「……。」



『僕が困る事がわかってやってる。』という僕の指摘に、(とぼ)けるようにフイッと視線を逸らす由里ちゃん。


結局この後も、なんだかんだで質問に答えないと次の質問にいかない、からの強烈な質問のコンボに僕は困窮させられっぱなしだった。








「も、もう時間だし終わろっか…。」



まだ予鈴は鳴っていないが、授業のある教室から離れた場所まで来ているので、早めに切り上げようとする。


…実際は際どい質問攻めに遭い、僕の精神が限界だったからだけど。



「……わかった。」



質問中、終始楽し気だった由里ちゃんは素直に頷いた。

彼女の天邪鬼な一面を見てしまった後なだけに、僕は大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。今後この一面を見せるのは、精神衛生上できればご遠慮頂きたい。





「結局、由里ちゃんのことは聞けなかったな…。」



椅子を片付けながら、僕への質問までで終わってしまったことを少し残念に思いつつ、そう呟いた。



「……。」


「…由里ちゃん?」


すると、それが聞こえたのか由里ちゃんが僕のそばに寄ってくる。



「……放課後も会いにいって、いい?」


「えっ?」



手を後ろで組み少し背伸びをして、僕に尋ねる由里ちゃん。


内緒話しをするように顔を近づける彼女だったが、ここには僕達2人しかいないので必要以上に距離が近い気がしてならない。



至近距離にある整った顔立ちに、次第に自分の顔が熱を帯びるのがわかる。

対して見つめ返してくる彼女の表情に変化はないが、ジッと僕を見る瞳には期待と緊張が見てとれた。



「……いいよ。それじゃ、今日は一緒に帰ろっか。」


「……うん。」



ついさっきあんな目にあったのに、彼女のお願いを断ることが出来ない。


ずっと由里ちゃんにペースを握られてるなぁとは感じるものの、少しだけ頬を緩ませた彼女を見ているとそれが嫌ではなかった。

お読みいただき、ありがとうございます。

よければブックマーク、評価などよろしくお願いします。


明日19時に3話投稿します。

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