表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拝啓、神様。  作者: しぐ
お転婆聖女
5/6

父、ウォルター

大変お待たせしました。生きております。

 さて、語り部としてはこのような素晴らしいところで次のページに進めていきたいところではあるが何分そうは問屋が卸さないのである。なぜならこんな中途半端な状況で引き継ぎを行おうものなら後任者がひたすらに苦労を強いられるからだ。

 閑話旧題。

 満面の笑みを返されたウォルターが返したのは同じく満面の笑みと、お客さん(・・・・)が立ち退いたのをお互いが了承した上での皮肉だった。そして、この時には教皇の顔は見事に剥がれ、そこにいたのは1人の父親だった。

「ああ、後のことは心配しないでくれたまえ。幸いにも無能の代理なんていくらでもいる」

 ベルは今、ウォルターという人間は非常に面倒くさい父なのだなと自覚をしたようだ。

 素直に娘を送り出してやりたいのにこんな言葉しか出てこないのだ。

 あるいは出来の良い娘に対する甘えなのかもしれないが。

 もちろん彼女は皮肉に皮肉を返すことができる立派な女性だ。こうなったのは100%父親の影響と言って過言ではないだろう。まともに会話をしてこなかったとしても子はある程度親に似るらしい。

「あら、代理が必要なのね?」

 一般的に聖女様が3年間消息不明になると『殉死』扱いとなり次代の聖女様が立てられる。

 もちろん彼女は『巡礼の旅』で死ぬつもりなどさらさらないし、彼もそのつもりであるというのは共通の認識。

 つまり生還を信じているのに代理を要していると。

 彼は1本取られたというように両の腕をあげた。

「僕のわがままで俗世には9年ほど希望がなかったからね」

 こんなまどろっこしいことを経ないと素直に慣れないのだからウォルターはやはり面倒くさい。

「…もしかしたらあなたの方が無能なんじゃない?」

(これはベルからしたら聖女という希望がなければ信仰もままならない宗教なんて馬鹿らしい、という意味だ)

「そうだな。そうかもしれない。でも僕はこれでも教会で一番偉いからね。これくらい些細なことだ」

「それで、噂には聞いてたけど具体的に私はどうなるの?」

「そうだね、それを話そう。まず君は公には行方不明になったことになる。もちろん死んではいないから除籍はされない。だがお披露目を9年も待たされた挙句いつ戻るかもわからない聖女を待てるほどこの国は豊かじゃない。だから次の聖女候補が代理で聖女の仕事を行う。適当な年月が経ったら候補の1人が聖女に落ち着くという感じだよ」

ベルは目を細めた冷ややかな顔でふぅん、と声を漏らす。

「帰って来なければ、ね」

 メンヘラなのか本心なのかは分からないが男親が思春期の娘に抱く感情というのは複雑らしい。

「帰ってくる必要はないよ?」

「帰って来るわよ」

「そうか。君は本当によくできた娘だ」

「誰の子だったかしら?」

「…僕のだ」

「自画自賛、ね」

「ああ、そうだとも」

 気まずい空気が流れる。なんとも言えない、暖まるはずなのに埋まらない距離感。生暖かいと言うやつだ。しばしの沈黙を破るのはベルの方だった。

「期待通りのいいプレゼントね。ありがとうお義父さん」

「…最初で最後のプレゼントがこのようなものになってすまない」

「何を勘違いしてるのかしら? 帰ってきたらもっとたくさんいただくわよ」

「そう、だな。そうなったら嬉しい」

 それでもなお気を重そうにしているウォルターにベルは発破をかける。

「いいのよ! 私からしたら最高のプレゼントなのだから!」

「そう、そうか。それなら良かった」

 ようやくウォルターの顔が明るくなり、ベルは内心溜息をつきながら旅の計画についての話を進めた。

「出立は何時?お供は誰か連れて行けるの?」

「1週間後、レイモンドを付ける。路銀も名目に恥じない額はつけられる」

「パーフェクトよ!お義父さん(ウォルター)

 そうしたやり取りに、少しずつウォルターの顔から強ばりがなくなりつつあった。

「ありがとう。君は、旅に出たらどうしたい?」

「そうね、主神を1発殴ってやりたいわ!」

 ベルは握り拳を作って前に突き出す。

 ウォルターはそれが、冗談で言っているはずなのにどこか目が笑って内容にも見えて、それが実に彼女らしい、と思った。

「君らしいね。君らしくていいと思うよ。…頭は痛いがね」

 頭を抱える彼を、ベルはにこやかに、穏やかに、いつもの皮肉で場を和ませる。

「あら、負い目を感じて板挟みなんて今更でしょう?それなら私が笑って過ごすことが親孝行ってもんでしょう」

「はぁ…10年間娘とのコミュニケーションを怠ったツケはデカイな」

 ウォルターが笑う。とても珍しいことに。

「あら、格安よ?」

「ああ、そうかい」

「ええ、そうよ」

「ちなみにさっきのは植物の名前だよ。亜阿相界(ああそうかい)

 この期に及んで照れ隠しか、やれやれと溜息をついた彼女にウォルターはもはや一点の曇りのない心持ちでしばしの別れを告げた。

「それじゃあ、いってらっしゃい」

「ええ、そうね。いってきます」

これにて聖女ベルの導入が終わりました。続いてはレイモンドの導入になるかと思います。


よろしければブックマーク、評価、感想をお待ちしております。

いただいたものがモチベーションに繋がります。

ありがとうございます。


それでは次回投稿まで気長にお待ちください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ