彼女は
お待たせしました。
昨日投稿したつもりがされてませんでした。
ベルは貧民街の孤児だった。
なのでこのようなお貴族様特有の尻尾切りに対しては非常に沸点が低い。
プチンときた彼女は間髪入れずにこう答えた。
「はっ! そっちが何もさせなかったくせによく言うわね!」
もちろんこれはウォルターも織り込み済みだったことだろう。彼は彼女の目をしっかりと見て、扉の方へと視線を飛ばす。
彼女は育ちが良い。
なのでその目配せでハッと我に返りはっきりと認識したのだろう。一度扉に目を向けてウォルターの方に向き直ると、冷静に頷いた。
「成人だと言うのに表に出せないほど無能な聖女を教会としても抱えておくわけにはいかないのだ」
ウォルターは普段見せる冷徹な教皇らしくただ粛々と結論を告げる。
「…そろそろお夕食の時間だったかしら」
彼女は名だけでも聖女だ。
だから、少しの沈黙と怒りを孕んだキッパリともうあなたと話すことはない、そんな意思がはっきりと伝わる拒絶も、席をたちわざとヒールの音を立てながら扉へと向かうこんな演技だって完璧にこなしてみせた。
そしてその音は扉の近くにいるお客さんにもハッキリと聞こえた。
この演技でお帰りの時間と気がついていただけたようだ。扉からの気配が薄くなる少しる。恐らく、いつでも聖女に気が付かれないように消えることができるように。
「君には」
そしてお客さんは今にもこの部屋を去ろうとしている聖女を追うようにゆっくり、重々しく教皇が伝えるのを聞く。
「巡礼の旅に出てもらう」
それで満足したお客さんはニヤリとほくそ笑み、揚々と主の下へと帰っていった。
巡礼の旅とは聖女への死刑宣告のようなものだ。歴代の処分された聖女にも伝えられた言葉である。
この世界のこの時代にも、幸い巡礼をするための「道」はある。
しかし、か弱いシスターとついても一人しかいない教会ごときの半端な騎士にはこの「道」はとても厳しい。
手を出せるかはともかく、野盗や魔物からしたら人が確実に通る「道」は獲物があちらから勝手にやってくるベルトコンベアだ。それに彼女は名だけでも聖女。 狙う価値は非常に高い極上の獲物。彼らからしたらたまらない、垂涎もののごちそうだ。そう思うだろう?
事故は起きるものさ。
「私は聖女だから」
油断してるその時に。
しかし忘れてはいけない。彼女はとても強い。
闘技大会で宮仕えをあっさりとのしてみせる異色だ。驕りがあったとしてもそこらの雑魚に負けるほど中途半端な実力ではないのだ。
「っ…!」
まだいるかもしれないという警戒のために絶句をしている彼女がウォルターに振り返ってみせた顔は満面の笑みだった。
それはもう鳥籠に入れられた鳥が大空へと羽ばたく希望を見出した晴れやかな青空のような笑顔。
貧民街に生まれ孤児となり、教会に拾われて聖女として育てられるも軟禁され、その代わりに教会一の騎士に訓練を受け続けていたとても強くなり、今解き放たれようとしている彼女こそは
――聖女ベル。
もう少しだけベル編の導入が続きます。
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