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不思議な目覚めから数ヶ月…


右を向いても左を向いても、寝直しても念じてみても、自分のアパートには戻れなかった私は、一先ずこちらでの自分の情報を得ることを最優先にすることにした。


名前 ステラ・アルト・キャンベル

年齢 8歳

職業 侯爵家令嬢

家族構成 父、母、姉

住所 シャルトア国

性格 大人しく内気で人前にもあまり出ない


…と言うのがステラの情報。


最後の性格だけ、私がステラになってから変わって、一人で出歩くわ誰にでも話しかけるわで皆お医者様を呼ぶだの神父様が先だだの暫くは騒がしかったけれど、最近は、


「ステラももう小さな子では無いのよ。前とは違う所もあるけれど、私の可愛いステラには変わり無いわ。ねぇ?ステラ」


というソフィアの一言で段々と両親や邸の人々は落ち着きだした。


「…()()()()…ね」


そうぽつりと呟くと、ぱたんと読んでいた本を閉じた。


そして次の本に手を伸ばす。


(…これで粗方マナー関係は抑えたかしら?…次は貴族名鑑…こんなものがあるのね…)


とページを捲り始めた…






*** *** ***






――こちらに来て先ず私が確かめたのはこちらの世界の文字だった。


文字が読めるのと読めないのでは情報量に差があると思ったし、それに…


(活字が読めないのは辛い…)


と私は屋敷の中を探索し、ある部屋で本棚を見つけ、かぶり付くように本の背表紙を見て、そして安堵した。


(…読める…!…見たこともない文字だけど、理解出来る!)


目で認識出来る文字は筆記体に似た形だが英語とも他の国の言語とも違い、全く見たこともない文字だったが、それが頭の中では日本語として理解できるという何とも不思議な感覚に少し混乱しかけながらも、私はこの世界の事を知るためにその場に座り込み

、ジャンルを問わず片っ端から本を読み始める。


そして何冊目かの本でこの国の歴史書を見つけ、


(…ふむ…恋愛ゲームの世界でも国の歴史やら他国との軋轢やら…現実世界の様な事があるのね…)


情報収集という名の久しぶりの読書に幸せを噛み締めながら、私はパラパラとその本を読み進めていく。


そんな幸せな時間の中――ふと背後に気配を感じ私は顔を上げ振り返る。


すると、


「ステラ嬢?何をそんなに熱心に読んでいるんだい?」


と、明るい茶色の髪に碧の瞳をした、如何にも育ちの良さそうな可愛らしい男の子が立っていた。


今の今まで本の世界に飛んでいた私は、


(ステラより…少し年上かしら?背も少し高い位みたいだし)


なんてぼんやりと考えていると、


「―――シャルトア(この国)の歴史書?」


驚いたように本の題名と私の顔を見比べたその子は、突然にっこりと笑い、


「…ステラ嬢、読書をするのならば背伸びをせず、自分の楽しめる本から読むと良いよ?…例えば…」


背表紙を指差しながらその子は少し移動すると、1冊の本を手に取り私に渡してきた。


「……エルン童話短編集…」


表紙の文字を読んだ私に、その子はうん、と頷くと、


「貴女が前に良く読んでいた本だよね?」


そう言って私が手にしていた歴史書の上に童話集を乗せる。


(―――()()()が良く読んでいた…)


私は歴史書よりも薄く軽いその本と目の前の男の子を交互に見つめ、


(―――誰?)


と今更ながら、突然現れた彼の素性が気になり始めた。


だがこれまでの会話から推測するに、彼とステラは面識があるようだし、もう一度名乗ってもらうのは貴族の間(こういう世界)では失礼にあたるかもしれない…と私が内心冷や汗をかいていると、


「ライオネル様?ステラ様は見つかりましたか?」


と言う声と共に、腰に剣を差した20代位の男性が部屋に入って来た。


そして私と()()()()()を見つめ礼をすると、


「失礼致しました」


と壁に控えた。


(()()()()()……ん?)


その名前に心当たりがあるような気がした私はどこで聞いたか思い出そうとした――が、


(ここまで出てるんだけど……あ~…!)


モヤモヤしただけで思い出せなかった私はふぅ…と息を吐き、そして左手で本を胸元に抱え、右手でドレスを持ち、


「…ごぎげんよう、ライオネル様…」


とこの前ソフィアがお客様にしていた様な礼を彼にしてみた。


(…こ、これで良いのかしら?)


ちらりとライオネルの方を見ると、彼は先程よりも一層微笑みながら、


「ごきげんよう、ステラ嬢。客間にお茶が用意出来たと貴女の侍女が探していたよ?」


と返した。


「そ、そうですか…有難う御座います…」


あまりのキラキラ加減に遠い目をした私はそう言うと、ライオネルと彼の護衛のような青年の前を足早に通り過ぎ、扉を開けようと手を伸ばした。


「!」


すると後ろから手が伸び、ライオネルが扉のノブを掴み、驚いた私が振り返ると、


「私も一緒に行っても良いかな?――ステラ嬢?」


「…えぇ、勿論」


と整った顔の少年に至近距離で覗き込まれながらそう言われ、思わず頷いた私は、口元を本で隠し、少し距離を取りながら部屋を出て、


(…美形怖い…)


と呟く。


ソフィアといいライオネルといい…美形はパーソナルスペースという言葉を知らないらしい…


どうしてかは解らないが、私はステラという美少女になり、美形の仲間入りを果たしたが、中身は平凡な顔で静かに20数年生きていた日本人の為、彼らの無駄にキラキラした容姿や言動にストレスを感じていた…


(…この世界のファンなら毎日天国みたいな話なんだろうけど…)


どうせなら某有名推理小説の世界とか、サスペンスの世界だったら…と考える。


(被害者とかに憑依?しちゃったら嫌だけど、生き残ったりとか出来るのかしら…?こういう世界って本の筋書そのままの歴史になるものなの?)


と、そこまで考え、ふと、あることに気づいた私は立ち止まる。


「――ステラ嬢?」


ライオネルが私を呼び、またまた至近距離で覗き込んできたが、今更ながらに思い出したこの世界の()()に驚愕していてそれどころじゃない。




―――そして悪に染まった侯爵令嬢ソフィアと、ソフィアに()()した()()()()や国から()()され、()()された。




最後のページの数行を頭の中で文字に起こした私は思わず、


「………死罪って」


とぽつりと呟くと、


「斬首だね」

「そうよね~あははははは…」


ライオネルがそうしれっと答えた答えに、私は何故か小首を傾げながら笑ってしまった。


(…………)


急激に下がった血の気に、私は客間とは反対方向にある自分の部屋へと歩き出す。


「ステラ嬢?どこへ行くの?」


追って来たライオネルに、貴族の令嬢の振る舞いなんて考えてる場合じゃない私は、


「気分が悪くなったの!部屋に戻る!じゃあね!ライオネル!」


と足下を見ながら叫ぶように言うとそのまま自室へと駆け出した。


立ち止まったライオネルの顔など、今は知ったこっちゃない。


(思いっきりサスペンス人生じゃない!しかも斬首とか…冗談じゃない!)


自室の扉を閉めると、机の上の紙と羽ペンを手に今思い出せることを直ぐに書き出す。





・ソフィアは17歳の時に学園主催のダンスパーティーの時に断罪される


・主人公は1つ年下


・学園入学は15歳から


・主人公の見た目は茶色の髪に(確か)琥珀色の瞳、名前はマリア





「…これくらいしか…思い出せない…!」


ぐぬぬと歯ぎしりしながら、私は艶やかな金髪をぐしゃぐしゃにかきむしる。


――仕事の疲れとあまり興味の無い本だったせいか、本当に大まかなあらすじ程度しか思い出せなかった。


慣れない羽ペンで書いた文字を眺めながら、


(…ソフィアと私の年齢差は1つ…てことは…)


「私は主人公と同い年になるのか…」


と気づく。


(そして主人公が幸せになる瞬間、私の首は落ちる…そうなると私…ステラの寿命は…あと8年、ということ…)


ソフィア()の色恋沙汰で消える命とは…虚し過ぎるし、斬首なんて普通に日本人人生送ってたらまず出会わない終わり方だ…


あまりのお手上げっぷりに額に手をあて絶望していると、


(―――いや…待てよ?)


私にふとある考えが浮かんだ。


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