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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

双子の兄はシスコンで溺愛が過ぎる最強(狂)の奴隷の魔法剣士です

作者: ほむら

バレンタインだし、甘々なお話は如何でしょうか


吐き出した砂糖は自己処理でお願いますww

その美しい少女は今日も一人で冒険者ギルドへやって来た。

依頼書が貼り出されたボードの前で一つ一つをしっかりと吟味している。

他の冒険者の邪魔にならない様に周りに気を遣いながら移動して、少し高い場所にある赤い印のついた依頼書に手を伸ばした。

赤い印は王国からの依頼であり危険度が高いのだが、とても戦闘など出来そうにも無い美少女はそれを選ぼうとしていた。

少々背の低い彼女は一生懸命手を伸ばすが届かない。

つま先立ちであと少しという所で、背後から誰かが()()を剥がした。


「あっ!」


少女が驚いた顔で依頼書を奪われた、と少し責めるような表情で振り返ると背の高い無表情で恐ろしく顔の整った男が剥がした依頼書を少女に手渡した。


「これでいいのか?」

「お兄様っ!」


その男は少女の兄だった。


二人は同じ白に近いプラチナブロンドの髪と、左右非対称の紫と翠の瞳で、とにかく綺麗でよく似た顔立ちをしている。


妹の少女はスラリと細い体でその白い肌もとても冒険者とは思えず、もしもドレスなんて着ていたらまるでどこぞの貴族のご令嬢と言ってもまかり通るだろう。


対して兄も細身ではあるが剥き出しの使い込まれた大剣を軽々と背にベルトで抱えたチグハグな姿は異様に映る。

フード付きのマントで多少隠れてはいるがその首には、奴隷の証である【隷属の首輪】が嵌められておりその色は黒であった。

奴隷となった者が必ず付けられるそれは、奴隷になった理由により色で判別出来るようになっており、黒は重犯罪者の証であった。


「何で此処にいるんですか!」

「可愛い妹が危険な場所に一人で行くからだよ」

「冒険者ギルドに来ただけです」

「危ない奴らの巣窟じゃないか」

「皆さん良い人ばかりですよ」

「それはレイティア、お前が美しくて聡明な美少女だから優しいのだよ」


兄はレイティアと呼んだ妹の髪を愛でながら笑みを浮かべた。

レイティアは少し照れながらそれを受け入れるが、腰に手を当てて怒った風にする。

しかし美少女のレイティアがそんなポーズをすれば可愛らしいが過ぎる。

案の定、今かの冒険者ギルドにいる職員も冒険者達も美少女レイティアの姿に癒されている。

レイティアが毎日この時間に来るのを知っている冒険者は態々この時間だけ待機している者もいるくらいである。


「でもみんな本当に優しい人ばかりだわ。此処には意地悪する人なんていないわ」


上目遣いで訴えるレイティアの破壊力。

ハッとして兄はマントで隠すようにして優しくレイティアを抱き寄せた。

そして此方をチラチラと覗き見る連中へレイティアに「妹を見るな」と言わんばかりの凍てつく冷気を浴びせた。レイティアには決して気付かれぬ様に防御魔法を彼女にかけた上で、物質的に。


「ひえっ」

「さっ寒い!」

「足が凍る!」


兄から発せられた冷気がギルド内を包み込み、パキパキと音を立てながら凍りついてゆく。

冒険者ギルドは冷気と恐怖で阿鼻叫喚に包まれた。


「たっ助けてくれ」

「誰か炎魔法を!」

「し、死にたくない」

「お母ちゃ〜ん!」


勿論、レイティアに醜い連中の声など届かぬ様に兄は先程レイティアにかけた防御魔法に防音機能まで付与している。


「もーお兄様は心配し過ぎです」

「世界一可憐な美しい妹を持てばお前も分かるよ」

「世界一だなんて、お兄様は私を誉めすぎですよ」

「本当の事だから仕方ないさ」

「もう!でもありがとうお兄様」

「私こそお礼を言わせてくれ。素直で聡明で美しいレイティア。私の妹として生まれてきてくれてありがとう。愛しているよ、私のレイティア」


まるで恋人に向ける様な甘い言葉に、レイティアはうっとりとして兄を抱き締めた。


「私も愛しているわ、ジークお兄様」


その言葉に兄ジークの身も心もレイティアの暖かさに包まれると、ギルド内を覆う冷気がパァーっと晴れていった。



「た、助かった...」


誰かの呟きは二人には届くことは無かった。





お互いの成分をたっぷりと充たした美しい兄妹は、依頼書をカウンターに渡してギルドを後にした。


依頼書の内容はアースドラゴン討伐。

翼を持たず飛べないドラゴンの亜種である。

亜種とはいえ、ドラゴンの討伐は高ランクの冒険者パーティーが複数で挑むのが普通なのだがこの兄妹は決して他人と組むことは無かった。



ギルドを出てから、恋人繋ぎで手を繋いだまま歩く二人はまるで恋人同士。

しかし、二人は本当の双子の兄妹である。


「お兄様、私出る時にちゃんと『お願い(命令)』しましたよね。私が戻るまでお部屋で待っていて下さい、と」

「ああ」

「ではまた隷属の首輪を壊したんですね」

「こ、壊したんじゃない。壊れたんだ」

「もう!またお兄様の刑期が延びてしまいます!」

「お前が心配で、力を込めたらつい、、」


しゅんとする兄ジーク。

そんな姿に妹レイティアは母性本能をくすぐれて、いつも許してしまう。


「いいの、お兄様。だっていつも私を思っての事ですもの」

「ああ、やはりレイティアは優しいな。私をお前の奴隷として、兄としてずっと横に居ることを許しておくれ」

「許すも何も私がずっとお兄様と離れません」

「私の身も心もレイティア、生まれた時からお前のものだよ」


見つめ合い頬を染めて甘い言葉を交わす二人はれっきとした同じ腹から生まれた双子の兄妹である。

お互いを慈しみ無償の愛を捧げ合うが、あくまでもふたり的には兄妹として、であった。





数時間後、ジークの魔法を帯びた剣でさくっとアースドラゴンの首を落として依頼を達成しギルドで高額の報酬を受け取った二人は役所に向かった。


「こんにちわ」

「レイティアちゃん、こんにちわ」


レイティアに応えたのは役所で顔馴染みの妙齢の女性職員室だ。

カウンターの上に今日の報酬が入った袋を置いた。


「今日も支払いでいいのかい?」

「はい、お願いします」


職員は袋を開けて中の金額をしっかりと確認する。


「全部で金貨300枚だね。間違いないかい?」

「はい!」

「今日は全額?」

「えっとー、今日はお肉を食べたいので五枚だけ貰っていいですか?」


職員は金貨を五枚数えてレイティアに手渡した。


「ありがとうございます!」

「はい、じゃー今日は295枚。お兄さんの罰金の支払いにまわしておくわね」

「お願いします」

「それじゃここにサインを」

「はい」


カウンターに用意されていた羊皮紙に手馴れた様子でサインするレイティア。

それには兄ジークの名前と罪の内容、罰金の金額と刑期が記載されていた。





ジークフリート・フォス・グラムエンドール


・セイラオン王国第二王子監禁拉致

・セイラオン王国第二王子殺害未遂

・セイラオン王国王家侮辱罪

・セイラオン王国王城の破壊

・セイラオン王国魔法学園の破壊

・ユランエンドール侯爵令息殺害

・ウルグ伯爵令息殺害

・バラン子爵令息殺害

・カルディオ男爵令嬢殺害

etc.


死刑不可能のため、刑期1000年の犯罪奴隷と処す

金貨1000枚の支払いに付き刑期を1年減額とする

王家依頼達成はひと月減額とする

王命により所有者をレイティア・フォス・グラムエンドールとする


支払い金額 295枚


総支払い額 15715枚

王家依頼数 128

刑 期 989年(+5)






レイティアがサインをして指先に針を指して血判を押して職員に手渡した。

職員が金額受取の文字を記入すると羊皮紙は眩い光を放つ。

光が消えると羊皮紙の数字が変わって、先程のサインと血判がきえた。




支払い金額


総支払い額 16010枚

王家依頼数 129

刑 期 988年(+5)





「お兄様!1年減ったわ!」

「ああ」


嬉しそうに見つめ合うレイティアとジーク。

職員はその様子を微笑ましく思うが、それがまた恐ろしくもある。

罪状に書かれた罪の内容も、その刑期も扱いも何もかもが異常だからだ。


この見目美しい双子の兄妹が犯した罪(正確には兄のみ)とは思えない程の重犯罪の数々。

(死刑不可能って何?

刑期1000年って長命種のエルフでも生きてないわ!

金貨1000枚で1年減額って、一般家庭の10年分よ!

それに重犯罪奴隷の所有者は普通は国家でしょう!

何で王命で血の繋がった妹が所有者になる事を許されてんのよ!

何もかも有り得なすぎるわ!)

と心の中で叫びまくるが、彼女はプロなので一切顔には出さずポーカーフェイスを崩さない。



「あ、でも首輪壊しちゃったのよね」

「すまない、レイティア」


しゅんとする妹に、悲しませてしまった事を後悔する兄。

首輪を壊して自身の刑期が延びる事には一切後悔はなかった。


「え?またですか?」


ジークは3ヶ月で既に5回も首輪を壊している。

今回ジークは特別な契約で首輪を破壊すると刑期が1年追加される事になっていた。

常人では壊せない筈の『隷属の首輪』は無理矢理に破壊しようとしたり、主人の命令に逆らうと全身に激痛と麻痺を起こす使用になっている。

特にジークの付けている重犯罪者用の黒い首輪は効果も強く、精神に異常をきたしたり挙句に死に至る場合もあるのだ。

それを既に5回も壊してなお、ジークは滅茶苦茶健康体である。

異常な程双子の美しい妹を愛しているが、それは昔からの常時運転であり、隷属の首輪によって精神に異常をきたした訳ではなかった。


ジークは首に装着した首輪に手を掛けると力任せに引きちぎった。

バチィン

「痛っ」

大きな音の後ジークの体からプスプスと煙が上がった。


突然の行動に目を丸くして固まる職員。


「えっ!?壊れてなかったんじゃない?」

「ん?そうかも?」

「えぇ〜、むう!お兄様ったら」

「すまないレイティア」


二人の会話に着いて行けない職員は

(間違えちゃた、てへ!的な感じで言ってるけど、これでまた1年追加で今日の分無駄になったよ?おかしいでしょ!そのやり取り!)

とあくまで心の中でツッコミを入れながらも、コホンと体面を取り繕いながら新しい首輪を用意する。


壊れた(今目の前で壊した)首輪を受け取り、首輪に刻まれた奴隷紋を羊皮紙に当てると刑期の年数の後ろのカッコの中の数字が+5から+6に変わったのを確認して、新しい首輪をレイティアに渡した。


新しい首輪を付けるため「お兄様」と少し悲しげに呼びかけるとジークは素直に首輪が付けやすいように首を差し出すように屈んだ。

カチャリとつけ終えると首輪の奴隷紋が鈍い光を放った。


愛する兄に隷属の首輪を付けた事を悲しみ傷付く心優しい妹に、ジークはそっと手を妹の頬に当てて優しく撫でながら、美しい瞳から零れ落ちそうな涙を指で拭った。


「またお前に辛い思いをさせてしまったな」

「ううん、お兄様はいつも私を思ってくれているわ」

「当たり前だ。こんなにも美しく優しい妹を思わない兄などこの世にはいない」

「お兄様」

「レイティア」


見詰め合った二人はお互いに体を寄せて抱き合う。

その様子を役所職員は砂糖を吐き出しそうになりながら必死に仮面を被り続けた。



職員に咳払いされるまでイチャついた二人は「また来ます」と声を掛けて役所を後にした。


二人は義理の兄妹ではない。

同じ両親を持つ双子の兄妹で、決して恋人同士でもない。

ただ、お互いの親愛が過ぎるだけだ。

安宿では同じベッドで向き合い抱き合って眠る。

親愛の証におでこや髪にキスを落とすことも日常茶飯事だ。

しかし、体を求めあったり唇を合わせる様な事は決して無い。

二人はあくまで兄と妹で、異常なくらい妹を愛しており、異常なくらい兄を愛しているだけなのだ。


双子として生まれた二人にはそれが当たり前だった。

しかし、大人達の言う常識や建前に阻まれ、汚い思惑で離れ離れになった期間を経て、余計にお互いへの愛が強くなったのは必然だったのかもしれない。



そうして眠りについた二人は次の日の朝一緒に起きて、また冒険者ギルドで依頼を受けるのだろう。



心から幸せそうに笑い合いながらーーー





おわり



お読みいただきありがとうございました♪

糖度が足りなかったらごめんなさいです(⑅˘͈ ᵕ ˘͈ )


よろしかったら連載作品もございますのでよろしくお願いします♪



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