95節 思考を凝らして
ゼノブレイド3遊んでた。
「これは……機器が反応している。寄生体につながる魔力路に多大なエネルギーが流れ込んでいるのがわかる」
「……」
確かに俺は二人に魔力を回すために魔視の魔眼を起動させた。もちろん、目の前にいる翡翠を行動不能にさせるためでもあるのだが。
ここまではいつも通り。しかし、今までの最大の利点が無い事が問題だ。
最大の利点、それは奇襲性能の高さである。
本来、生物には必ずと言っていいほど限界点が存在する。特に人間は様々なシチュエーションに対応するべく進化してきたことから、性能的には知性以外が凡庸的だ。
その伸び幅の中で誤差が生じ、個性が生まれる。
魔視の魔眼は、それらの性能を引き上げることができる副次的効果を持つ。
もっとも、限界突破ではない。最近の小説見たくおいしい話はなく、そんなことをすればナイフを振った際に筋肉繊維が千切れリアルロケットパンチをすることになるだろう。まぁ、代償なしで強化とか……そう言うのは人間の皮をかぶった肉体も精神も化け物だから置いといて。
つまりだな。一〇〇メートル二六秒のやつが挑んできて、楽勝だぜと舐めプをしていたらいきなりボルト並みの速力をぶっ放してくる。
これが、高い奇襲性能だ。
――舐めプ、油断、慢心。
この、一つを突くために俺は奮戦しているのだ。
海斗は身の上をわかっている。自身が絶対的な強者であるなんて思ってもないし、自身がチート最強物の小説主人公であるとも思っていない。
だからこそ、ふいうち上等。勝てば官軍。勝てばよかろうなのだの精神でやってきた。
(だが、今回は相手が警戒態勢に入ってしまった。こっちには注意を向けている可能性が低いが、相手は準備体操を終えたと思っていいだろ)
「さぁ、貴方達がどんな事をやってくるのか楽しみですね。とはいっても舐めてかかるのは痛いですから……ね」
俺は、獣の如く低い姿勢から翡翠に向かって飛び出した。左手にあるハンドガンを彼女に向けないで、ナイフの少女とこん棒の少女に向け射撃をし、成果を確認しないで走る。
この、アイゼンヴォルフなら……特殊な材料を使うこのナイフなら、寄生体相手にも十分にダメージを与えられる。
「ごめんなさい。私は接近戦をしないように言われてるの」
「っ!?」
突如、今まで黙っていた彼女が桜色の唇を動かす。
そして、距離があるのに拳を構えたのだ。海斗の目に魔力が腕に流れ収束してくるのが見える。
何か仕掛けてくる。けど、明らかな予備動作がある……これなら放たれた魔法を切り伏せることも容易だろう。
拳を突き出した動作を人目に焼き付け、多分来るであろう飛び道具を迎撃しようとナイフを振るい。
「ぐっ、はぁぁ!?」
瞬間俺は吹き飛ばされていた。俺の視界に映るのは、衝撃で手を放し空に舞うナイフ。
そう、それだけしか見えなかったのだ。
確かに予想通りの飛び道具であった。間合いではない構え、飛び道具か次点で突撃を読んでいた俺の予想は当たっていたのだ。
けど、魔法の流れを写す俺の目には、世界を書き換える魔法の力を写さなかったのだ。
何か、魔法以外で攻撃された。自分の理解の範疇にある攻撃。
幸いと言っていいのか……いや、どちらかと言えば生け捕り目的か。吹き飛んだものの威力としてみれば腹に剛速球でバレーボールを当てられたぐらいだ。
蹲りはするが、動けないほどじゃない。
「く」
嗚咽でゆがむ視界の中、左手で腹部を抑えながら立ち上がる。腕で乱雑に涙を拭うとそこにはもう一度構える翡翠の姿が。
瞬時に拳が突き出た瞬間に、側転。回転しながら右手でナイフを拾いなおす。
バコンと吹き飛んだ台車を視界の端に見ながら必死に酸素を取り込もうと意識的呼吸をする。
「どうです。恐怖にゆがんだ顔は……相手が嫌がることをするのは摂理ですのでね……。貴方と私が違う所は頭ですよ。道具を使うのは動物だってできます……けれど、人が人たるゆえんはその知性と科学力故。そして目の前にいるのは我が科学の試作品。突破できますかな?」
「はぁ……。随分と、口調が安定しない、男だ。お前が、丁寧語をしゃべって、いるときは……こちらを見下してる時だ。逆に乱暴な時は、余裕がない時だ」
「余裕、えぇ大事です。ですが、私の問いの答えになっていないではありませんか」
「ぁあ、回答が欲しいのか……。だったら言ってやる……吠えずらを掻かせてやるぜ!」
「ふっ」
あぁ、そうだ。確かに余裕はない。
礼たちは戦闘中で貸せない。こちらも、適格な援護射撃をさせてくれるほどの暇は与えてはくれないだろう。
一人じゃ何もできないのは、わかってる。
「……ごめんね」
もう一度、翡翠が構える。先ほどよりか、魔力の流れが大きくうねっているのがわかる。
どうやら、生意気な口を閉じさせようと威力を高めるように指示したらしい。
けど、今回はそれが好都合だ。
俺は、もう一度姿勢を下げる。今度はナイフを構えるのではなく、回避に専念するためだ。
そのまま、放たれた飛び道具を避け……いや、わざと腹部の前で腕をクロスさせるように前に出しガードを心がけた。
ぐっ、と骨が軋む感覚が神経を伝わり震える。本来であれば骨が折れる一撃……その攻撃を彼は受け止めたのだ。
俺の腕にはプロテクターが装備されている。これは、石竹民間警備会社が誇る武器における技術職の達人……ノヴァラティア・アイヒヘルヒェンが制作した防具なのだ。
彼女の専門は武器の製造と整備。本来であればこれが結びつかないだろう。
だが、武器を知ってる彼女だからこそ、どのくらいの防御力が有れば致命傷を防げるかを知っている。
(この軽量でありながら頑丈なプロテクターなら、痛みがあるが受けきれる。もちろん、吹っ飛ばされるのは承知だ)
そのまま、腕を突き出したことによりやや左にずれながら後方に吹っ飛ばされた。
このタイミングでしかない。この、彼女に一番近くになるタイミングでしかこの状況は打開できない。
(お前、自分のものに絶対的な自信を持つのはいいけどさぁ……。大切なものはちゃんとしまっとこうぜ?じゃないと、見つかるからな)
――眠り姫。
空中にいる海斗が見ている後方視線の先には髪が緑色に変色した、けれど最近見慣れた少女が試験管の中で全裸で浮かんでいた。
……見つけたのは偶然だった。相手が踏み込んでくる前に隠れた障害物。それの中に楔がぷかぷかと浮かんでいたのだ。
相手の攻撃に対応するために正面を向く関係上、ゲーミングの様に少し青く照らされた彼女の全裸姿は否応なく目に付く。少し反応が遅れてアサルトライフルが粉砕されたのは内緒だぞ。
タナトスがここまでほっぽてたのには大した理由はないかもしれない。天才と馬鹿は紙一重とも言うし、自身の作成した耐久性を信じているからか……或いは、テレビのリモコンをそこら辺に置くように重要なものだからこそ、置いておいたのかもしれない……。
彼は白衣をはためかせこう言った。そのカプセルには機械生命体の細胞を練りこんだ強化プラスチックを使われていると。
確かにそれなら納得だ。魔法を使って耐久性を上げてるんだろうから。大方、機械生命体の細胞をうまく使ってるんだろ?
つまり魔力を使ってるわけだ。
「なら、壊せる……」
確信をもって言える。獲物はある。準備もできてる。やり方もわかる。
――あとは、切るだけだ。
目的地に向かって飛翔する。着地などしない、そもそも人間は空を駆けることができない……出来るのはただ墜落するだけ。
そのまま、追突する瞬間に俺は魔力の流れに沿ってナイフを走らせた。
さて、ここでホースの中に残った水を素早く取り除きたい場合はどうやってホースを壊す?
対角線上にして輪切りにする?違うちがう。一番のやり方はホースに沿って切る事だ。そうすれば、すべてが出口になるのだから。
パリンか?それともドギャか?集中して音は聞こえなかったが確かに割れた。
「グぅっ――!!」
と、頭に衝撃。ちかちかと切れかけの蛍光灯のような視界と意識の中……俺は楔に追突しながら地面へと倒れこんだ。
グワングワン揺れ吐き気をも要しながら、下敷きになった彼女の肩を力弱く揺らした。
「ぉい、何時まで寝てるんだ。お前、あんな事しておいて一人だけ二度寝してんな」
「……」
ポタポタと赤い雫が彼女の肌を伝い地面に流れていく。
違う、出血しているのは俺の方だ。先ほどの切った破片が頭に当たったのか……眼にも入ったから右の眼が痛い。視界が赤い。
「割れた!?そんな馬鹿なっ」
「ふざけんな!色々引っかけまわしといて、勝手に人体実験させられて!それでも優秀な生徒会長なのかよ!」
彼女の腹部に馬乗りになりながら俺は叫ぶ。
楔の瞼は閉じられたままで。
「あれだけ啖呵切ったんだったら、きちんと仕事しろよ!」
「致し方ありません、退かしなさい」
「わかりました」
「肉盾でもなんでもいい!とにかく速く目覚めろ……っ」
ガクンと腕の力が抜ける。血が流れ過ぎたのだろうか?気が付けば楔の胸に埋めるように倒れこんでいる。
「……っ!このっ!とっとと起きろよ!!シスコン女ァ!!」
叫ぶと同時に頭から垂れた赤い雫が……ポタと彼女の胸に根ずく半分に割られた宝石の元に沈みこんだ気がした。
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