94節 活路に手を伸ばして
あぁ、投稿時間寝過ごしたぁ
2022/12/01
誤字を修正。
一部ルビ振りを追加。
あれからちょくちょく兵士からの襲撃があったが無事に乗り越えていった俺達。
途中にはほぼ全裸の男たちの死体があるゾーンが有ったりもした。持ち物を持っている人間は少ないが、財布にあったブラックカードから金持ちスポンサーであり、マリアが言っていた処分は行われていたのは状況からして明らかだ。
不気味さを多大に感じながら階段を踏みしめ視線を上げれば、重厚な扉が飛び込んでくる。
どうやら目的地のようだ。
礼とゆずきに目配せをしたあと、礼は鋼鉄で出来たドアをたたきった。
バンっと吹っ飛ぶ扉の影から右左中央と言う順番で突入していく。出入り口近くは問題ない。
ただ……。
「なんだこりゃ……」
HMDを集光モードで切り替えてみれば、眼前に広がるシリンダーに数々であった。
透明な筒の中に液体と何か入れられている……これは、寄生体だろうか?ホルマリン付けのようなものが一定間隔で設置されているのだ。
上から少しだけライトが照らされているのか、ほかにも浮いているものは多々あるのはわかるのだが寄生体だけではない。
その中には少女も格納されていた。
口には呼吸用だろうか……少し太い管が繋がれていて、体にはデータを取るためなのかそれとも薬剤を投入するためなのか、コードが繋がれている。
「ホムンクルスでも作ろうってのか?」
「見てマスター。あの管、隣にある寄生体に繋がれてる……。確実に機械生命体の体細胞は入ってるね」
「いじったり触ったりしたら中に入ってる人がどうなるかわからんからな。触らぬ神に祟りなしって事で……まさか、この中に楔がいるって可能性があるのか?」
「その通りです。いらっしゃいませ御子さま」
「!?」
と、部屋に声が響き渡る。どこから?そう思い周りを見渡してみれば、一人の白衣を着た男性が近づいてきたのだ。
ロングコートように白い布をはためかせる少年。
多少くせっけある白い髪、黄金のような瞳。身長は目測で俺と同じくらいだろうか……?手には伸縮性のゴム手袋をしている。
そんな、何処からともなく表れた子供に対して俺は反射的に銃を向ければおっとと言いながら両手を上げた。
「改めましてこんにちは、いやこんばんはかな?僕の名前はタナトスっていきなり銃を向けるのはやめてください。本来私達は貴方の仲間です」
「信用ならねぇな。そもそも俺達は二週間ほど前からすでに交戦状態だぜ?」
「あれは不幸な行き違いです。取引の帰りに彼女が妨害してきたからですよ」
「嘘ですね。私ぃ聞きましたよぉ……知性がある寄生体って言いサンプルになるって。そりゃ欲しいですよねぇ……この惨状を見れば貴方達がやりたい事は所謂人工的な寄生体をつくる事。ですが、自然発生した寄生体のスペックには足りない」
「知性がない物は対処は出来ると思う。魔法障壁もあるから銃にも十分に耐えられる……けど、僕たちみたいな完全に適合した寄生体は稀だし、捕獲やデータがとりたいんでしょ?それに人間と言う生き物は一度味わってしまった物よりも上の物を手に入れたいと欲をかく生物さ」
なるほど、確かにそうだ。
彼らは一度も寄生体と言っていなかった。それが誤魔化すための隠語と言う意味もあるかもしれないが、そもそも完璧なものを作れていなかったと言う事か。
そして、彼らの中途半端品……天使と呼ばれるものは寄生体を材料としている。
大方、制御できなかったのか或いは知性を手に入れられなくて獣になったのかは知らんが、コアを半分にしたりと無茶をやらかしているのは一目同然だ。
研究に行き詰っている。けど、材料の寄生体……特にフェイズ1の寄生前を捕獲するのには多大なコネと時間と運が最低限必要だし、もし同化している場合は切り離すと言う作業も必要で。
「――こっちが下手に出てればごちゃごちゃうるさいんだよ!僕は天才だ、天使を作れたのは僕の頭脳あってこそだ。それなのにアイツが現れてから全部パーになった!!」
「アイツ?」
「そうさ!ポットでのあいつが五年前に適合者として教会のメシアとして祀り上げられてしまった。あいつがいたから方向性ががらりと変わったから、私達の純粋の派閥は今や極東にしかなくなった。」
こちらが怪しんでいると急に研究員は叫び出した。
今までの姿勢から一転し怒鳴り散らす彼の姿は激情化故の性格なのだろうが、彼は仕切りにアイツと呼ぶ相手を憎んでいる。
やはり、それなりに大きな組織だから派閥などがあるのだろう。そして、ここまでの推測で彼の思惑は推測できる。
「つまりお前は俺達を捕らえて実験し、その成果で敵対派閥を崩壊させることか」
「そうです。彼らは何も見えていない!現在はこの程度で済んでいますが、これからは世界が滅びるような事が起こるのです。俺のような天才は死んでしまっては社会の損失だ!そもそも、守銭奴の」
「知るか、生徒会長を返してもらうぞ」
「そうですか。仕方がありません、パスがつながる二人目の人間なのですが……来なさい」
そうして彼は指を鳴らすと、五人の人影が背後から浮かび上がってきたのだ。
見たことがある。槍を持つ薄花色の少女と雄黄色のメイスを持った少女は、霧の中で襲ってきた奴だな。ほかのやつは町で派手な花火を起こした時にいたピンクのナイフ使いと、初見の杖を持ったオレンジ色の少女。
「……」
しかもおまけでもう一人……楔の妹、翡翠。
彼女が構える。右手には大型の籠手を左には手甲を装備したスタイル。左でジャブと受け流し、右で決めると言う見たことのある戦法。
問題なのはこれが競技ではなく実戦と言う事だろうか。膝蹴りやボクシングで禁止されている背後攻撃なぞなんのその。
相手の方が数が多く、こちらは数的不利を持ちながら最大戦闘可能時間が五分と来た。
しっかり考えろ。この状況を打開するんだ。
「翡翠は我々の中で優秀な作品です、と言っても未完成ですが。本来であれば姉妹で運用して補い合うのを想定していたのですが、まだ調整に時間がかかっているんでね。妹だけだと寂しいのでゲストをお呼びしておきました」
「ゲスト?周りにいる奴らの事か。そう言うのはいらないお節介って言うんだぜ」
「さぁてもう一度痛い目を見せてやりましょうかねぇ」
「僕の剣を受けてみたいのは誰かな?」
「そもそもさ……もうすでにこの件に関する返答は俺はしているはずだ。論外だ。誰が犯罪者の味方をするか道徳学びなおしてから来い!!」
各々が武器を構え、何かが有ればすぐに戦闘が出来る体制へと変わる。
「はぁ……研究資料として生け捕りにしようとしてるけどさ。お前らちょっと天才を舐めすぎだよね」
「来るぞ!」
タナトスの言葉が引き金となって一斉に戦闘の火ぶたが切られた。五人の内ツーマンセルで礼たち寄生体を抑え、中央の翡翠がこちらにゆっくりと近づいてくる。
そのまま、俺は構えたアサルトライフルトリガーを引いた。
パパンと二発の弾丸が回転しながら翡翠の方向に向かっていく。一つは頭部へもう一つは少しずれた所に。
だが、彼女は左手の手甲ではなく右手の籠手を使用し両方とも撃ち落とした。左手を使わなかったのは単純に頭部に当たる銃弾を防げたとしても、運動エネルギーを鑑みて腕が跳ねるためもう一つの弾丸を防ぐことができないと判断したのだろう。
「おっと、いきなりこっちにブッパですか。貴方ゲームとかやる際に先に攻略法を見るタイプですね。それは前回で予習済みです」
「くそ」
さらりと混ぜていた研究者の頭を狙っていた鉛玉は、警戒されていたのだろう。前回と違って涼しい顔をしやがって。
とにかく、接近戦闘では身体能力に劣るこちらが圧倒的に不利だ。かと言って遠距離戦では銃は牽制的な能力しかない。
「あぁ、貴方の実力を測るテストのような意味もかねていますので……広さは校庭なみ高さは二階ほど。シリンダーは機械生命体の細胞を編み込んだ強化プラスチックで出来ておりますので、遮蔽物として利用してはいかがでしょうか?」
こいつ、遊んでやがる。そう思いながら俺は銃弾を撃ちながら距離を取り、障害物に身を隠した。
完全に縮こまってはだめだ。あくまでど真ん中でぼっ立ちしているよりまし程度。
相手が飛び込んでくる瞬間を見て回避行動をとらなければ、特に右腕の攻撃は絶対直撃をもらわないようにしなければ。
「と言っても、距離が取れるならの話ですが」
ダッと音が。
瞬時に物陰から飛び出そうとした瞬間には、眼前にいる緑髪の少女。右腕のかぎ爪が上に付いたような籠手をこちらに叩きつける所であった。
歯を食いしばりながら構えていたアサルトライフルを前に突き出す。
ガンっと数分間の相棒がまるで台風に巻き込まれた傘の様に散る。その様は、当たった後の末路を否応なしに想像させる。
「っ!」
「いいですね!恐怖で顔を引きつらせる……そう言うのでないと。人形みたいで面白くないですからね」
だが只ではやられない。右手にナイフを持ち相手の首に向かって突きを放つが、左腕の手甲によって逸らされる。
そのまま、彼女は俺に向かってすきっ腹に回し蹴りを叩きこんできた。
肺の空気と一緒に唾液が糸を引いて口の端から漏れだし、俺の体はポーンと近くにあるシリンダーへと叩きつけられる。
「ふむふむ。やはり武装を取り付けられていない分威力は弱めですか……ですが生け捕りにするにはこのくらいがちょうどいいでしょう」
「はぁ……はぁ。っつぅ!!」
効かないとわかっている。けど、その上で俺はレッグホルスターから拳銃を抜き放つが。
弾道が不自然に曲がったのだ。いや、表現としてはおかしいのは理解している。基本的に銃弾は銃口から直線に飛来するのが一般的なはずなのに、彼女から一メートルほど前で肉眼で見えるほどに原則し左に湾曲しながらそれていったのだ。
「あぁ、それと彼女の持つ魔法は空気を操るものでね……力がもっとあればこの部屋一体を一瞬で真空にでもできるんだが。今の我々に出来るのは風をちょっと起こす程度」
「はぁ……っぅ。っく。ちょ、っと?ぁれでぇか?」
「失敗から人は成長するのですよ。貴方の優れている所はきちんと後ろから俯瞰してみている事。射撃の腕が優秀な事。そして、自身の仲間のためなら比較的に引き金が軽い事。特に銃の腕は性格無比で、超絶なタイミングで位置もバランスを崩す絶妙だ。ゲームとかでも基本サポート役してるんだろ?」
「随分と……四字熟語に、詳しいこ……とで」
「でも、君にはそれしかない。つまり、君ができることは隙を作る事だけで結局運だのみ味方だよりだ。したがって、始動技である銃撃を防げば問題ない。君のガールフレンドも結構ばてて来たんじゃないかな?」
「!?」
そう言われて俺は視線を礼たちに向けた。
槍を弾きながら、ナイフによる攻撃を回避する礼。器用に大剣を使っているが押されているのは明らかだった。
「こいつぅ!」
「あ、前回の反省を生かして再調整しておきました。まぁ、誘拐対象は人間だしラリッたまま出しても問題ないと舐めてたのは事実ですが。それでも、同じ轍は踏みません。戦力は足し算ではなく掛け算、運動能力と戦法これでいくらでも増えるのですよ」
「ドコヲミテルノ?」
「ッ、何時の間に」
まず初めに、彼女の武器レーバテインは重量と大きさがほかの武器と比べて圧倒的に多く、振り回し遠心力を付けることによって打撃を与える。
一方相手の二人組は、正面で槍を放ちナイフを持つ少女が側面や背面を回り込むように攻撃してくる。
例えるとするならば、スピードを上げた瞬間に目の前の信号が赤信号に変わるのがわかりやすいか。
マナを吹かして攻撃しようとした瞬間に回りこまれるものだからその分息切れをするし、ピンクを狩ろうとすれば槍で突きを放ってくる。
一方ゆずきは、メイスを持った黄色の少女はともかくとして杖を持ったオレンジ色の少女に苦戦していた。
彼女もまた海斗と等しくどちらかと言えば、相手の妨害を得意とする。
武器の鞭は軌道を悟られにくく、使う魔法も足場にも盾にも投擲物にもなる紫水晶の生成と汎用性は高い。
が、それ以上の汎用性がある魔法を使うのは杖の少女だった。一見それは、ヴェロニカが使う炎とに頼った外見を持つが本質が違う。
ヴェロニカが使用する際には必ず矢として形状を変化させなければならず、作成できるのは多分自身が触れられる範囲までで射出は弓を使用しなければならない。
だが、彼女はその作り直すと言う過程をすっ飛ばして攻撃を放ってくるのだ。
無論、魔法など防御すればいいと思いだがここでメイスの少女が生きる。小娘操るメイスは打撃武器であり尚且つピックの様に尖端がとがっている。
これは強化ガラスと同じ理論で面での衝撃に対しては非常に強固ではある、しかし針のような尖ったものをぶつけられると脆い。
これは、薄く尚且つ強度を高めると言う製法での仕方がない事なのだ。車の窓だってハンマーで叩いても割れにくいが、ドライバーだと割れるそんなもの。
(……厄介ですねぇ、具体的に言うなら煽れないぐらいには。いくら私達の模造品だとしても魔法は魔法ですからぁ、食らったら一たまりもありません……人間で例えるなら拳銃かライフルで撃たれるかの違いですが、どちらも戦場では致命傷ですしぃ)
どちらかを無視して集中的に攻撃できないようにする。タナトスと言う少年は、きっちりと前回一人一人で捌かれていたのをしっかり反省しているようであった。
周りを見渡し、海斗は決意をする。これは使うしかない。
一呼吸。しっかりと視線を敵に合わせながら俺は脳のスイッチを入れ替えた。
ズッキっと、過電流が流れた電線の様に一瞬ショートする感覚が響くが無視。そのまま、瞳を赤く染めナイフを構えた。
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!
ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!
作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。