92節 囚われの身
2022/06/25
演出面での強化
描写の追加
を行いました。
「ぐあ」
光に包まれて一瞬。俺たちは思いっきり地面に押さえつけられていた。
痛みでゆがんだ視界で体を揺らしながら、辺りをしっかりと見渡す。
どこかの施設だろうか?塾の木製の床とはちがう、コンクリートで出来た四平。空気も今まで身にまとわりついていたようなものではない。
家具もなく、只リビングほどの広さの部屋に俺達は地面に押さえつけられているのだった。
何が起こった。あの変な両開きのドアをくぐったと思ったら意味がわからない場所にいる?まるで瞬間移動したかのような。
「ぁあ、はぁ……はぁ……」
「ぁ……ぁ……」
「く……放しなさい」
同じく地に付している俺達の様子も三者三様。
礼とゆずきは明らかに体調がわるく見える。全力で抵抗している姿勢は見て取れるが、熱が出たときに私を置いていかないでと裾を引っ張るような儚さでしかない。発熱しているようにも捕らえられた。
対して、楔と俺は寄生体組と違いダウン状態ではないが力が出ない。例えるなら、採血された後にすぐ運動するようなことだろうか。
とにかく、愕然と力が入らなかった。
「あぁ、慣れてないとそうなりますよね?」
「大丈夫だからさ。薬はまだ使ってないよ。こんな所で暴れようとしないでおとなしくなろうよ」
「貴女、良い体つきね。これなら多くの人を助けられるかも」
「はいはい、貴女達。資金源のご要望にお応えしないとね」
「そうだよ!お金がないと人を救えないからねー」
「えっと、男の人とエッチな体の人、そして中学生かな?はそっちね。そこの、あぁ……一か月前に祝福された娘のお姉ちゃんはそっちの扉に輸送ね」
「「はーい」」
そう言って、少女の内二人が楔を抑えながらもう一つ何処からともなく表れた扉に向かって進みドアをまたぐと、跡形もなく消えた。
理解ができない。何がどうなっている?
「ほら立って」
「あ、危ないの持ってる……だめでしょ?没収!」
「まぁ、顧客になるなら別に持ち込みも大丈夫だし。ほら、的当てとか需要あるのはわかるから」
そうして、身動きがとりない俺からホルスターに入った愛銃を取り出す。
まるで、腫物を扱うようにゆっくりと手に持っているがトリガーに指を掛けるなど基本的な知識は無いように思える。セーフティーが掛かっていなかったら向かいにいた少女死んでたぞ。
じっと、にらみつける視線には目をくれず。俺達を無理やり立たせるともう一つの模様が描かれたドアに押し込んだ。
目に飛び込んだ景色は、長い長い廊下であった。ちょっとした、大型トラックが入れるような広い幅に四メートルほどの高さの天井。
皮膚から伝わる感覚は地面が金属で出来ている事をひしひしと伝えてくる。
押さえつけられた状態を解除しようにも、人数差でどうにもできない。くそ、と悪態をついたとき鼓膜が近づいてくる一人の足音を伝えたのだ。
女だろうか。コツコツとわずかに上げた視線から華奢な足が目に映る。
彼女が近づいたことで、姿勢を正したのかそれともいけない事を咎められた子供のように、今までの乱雑さは消える。
そのまま、女性は俺の一メートル前で立ち上がり客人をもてなすように丁寧に話しかけてきた。
「お待しておりました。御子、カオスプリンス、黒山羊」
「……なんだそれは」
「こちらの貴方達への識別名……とでも思っていただければ幸いです」
そうして、こちらに視線を合わせるために目の前にいる奴はしゃがんだ。
今まで黒いロングブーツしか見えなかったが、全体像があらわになる。
白い太ももに巻き付くようなベルト。スカートもなく、短い前掛けが秘部をかろうじて見えないように隠している。
腰には悪魔の翼が生えているかのように布がまたたき。へその上と胸の谷間にはベルトの固定のためか十字架の衣装が施されている。
手はわきの少し下ほどまでの長さのロンググローブで隠され、掌を豊満な胸に押し当て祈るようにしていた。
首には覆うほどの十字架があしらわれた金属製のチョーカー。
そして、薄いベールで顔を隠しながらも桜色の唇に閉じられた瞼。白髪の髪がシスターベールの隙間からサラサラと見えた。
美しい女性だった。ただ、ベールの下から見える目は瞼で閉じられたままで……何となく嫌な気がした。
「さぞかしお疲れでしょう。私の名前は……そうですね。マリアとしましょう。よろしくお願いしますね」
「マリアね……修道女がボンテージ衣装を着てるのが意味不明だ。痴女の間違えなんじゃねえか」
「挑発できるぐらいなら大丈夫でしょうか……そこの二人は伸びてるようですね。ですが御子が元気なら問題ありません。運びなさい。私の後ろにピッタリとつくように」
そうして、二人が係で担がれていく。暴れられないようにあざができるほど関節部を抑えつかられながら。
コツコツとレッドカーペットを歩いていく女優の様に、マリアと名乗る女性を先頭にして廊下を進んでいく。
ふと、あぁそうですた。と目の前にいるシスターが口を開き。
「天使の教会では、主に様々な事業を展開して資金源を稼いでいます。この施設ではその一つは免罪符です。罪を吐き出させることによって我々は人を救いながらお金をもらえるのです。なんと素敵な事でしょう」
「……」
何を言ってるんだこいつは?
人を救いながらお金がもらえるだ?そんなことはあり得ない。
この世界はそんな優しくないのだから。誰かが幸せになると言うことは誰かの幸せを奪うと言う事。誰かを救うと言う事は誰かを見殺しにすると言う事。
心臓を臓器移植で提供して提供元が死なないで満足に生きられるわけがない。
わかった。こいつはシスターじゃない。いや、神とやらに心酔してるのは見て取れるがそれは俺達の世界を見ていない。狂気のものだ。
目を使えば逃げ出すことは出来る。幸いこちらに敵意は無く、押さえつけられてはいるが拘束具などは取り付けられていない。
だが、と礼とゆずきを見る。
これは、時間を置かなければ立つこともままならないだろう。
シスターもどきの話を聞きながら、くそがっとそう心の中で悪態をついていると一つのドアの前にたどり着く。
よくアニメで見るような研究室か何かの扉だった。金属製で出来ていて、隣にはセキュリティーのためかカードキー製のドアノッカーが取り付けられている。
「さぁ、こちらでお待ちください。貴方が連れてきてくれた彼女も今処置を開始して転生の最中でしょう。それまではゆっくりと」
そう言い彼女たちはドアを開け部屋に入った。
簡素なベットに水道にトイレに冷蔵庫。ちょっとしたホテルと病床を合わせたような部屋だ。窓もある。いや、よく見れば無数のドットで作られた虚像……つまり窓を模した液晶か。
ポイっと、そのまま叩きつけられ扉が閉められる。隣に同じように放りだされた礼たちを揺するが、吐息が漏れ出るだけでこちらに反応は無い。
小さくため息をつき、ドアに向かう。電子的なロックもなくふすまの様にやわなセキュリティーの印象を与える引き戸は取っ手にすべての力を掛けてもびくともしない。まるで、接着剤で固定化されたように。
「監視カメラは無い、舐められているのか。いや、事実そうか。礼たちは何もできない、銃を失った俺は……クソっ」
バンと有り余る感情を抑えきれずに俺は拳を扉に叩きつけた。
二刻の時間が過ぎた。ん、と漏れる声と布がこすれる音が鼓膜を揺らす。
「ここは?僕は……確か、いきなり……変なドアを通ってそしたら力と言うか」
「……まるで、体内にある血や酸素をごっそりと抜いたような感覚に襲われましたねぇ」
「おきた、か。どうやら、ここは敵の基地中らしい。いきなり意識を失ったから心配したんだぞ」
「そう。逃げればよかったのに」
「残念ながら女二人を長時間引っ張る筋力も体力もなくてね。とりあえず出よう。ドアが固定されてるから、多分礼の回し蹴りで開けれると思う」
「わかった」
そう言い、礼は立ち上がり軽く伸びをする。
本気を出せるように、胸のクリスタルから黒々とした液体が漏れ出て体にぴったりとまとわりつき、何時ものラバー上のハイレグを身に着ける。
そのまま、自然体になりいきなり地面を踏み込み飛び上がりながら遠心力と加速をつけながらハイヒールを蹴り上げた。
だがしかし、本来であれば厚いコンクリートの壁すら突き刺さるどころか粉砕する脚力を持つ礼の足を受けてもなお、扉はヒビすら入らず軋むことは無い。
右足の足首をぶらぶらとさせ反動の痛みを霧散させながらコツと足音を揺らす。
「コレ、多分普通じゃない。多分魔法で強化されてるんだと思う。それも、もっと力強く精密で柔軟な魔法で」
「つまり、無理?」
「魔力を伴った蹴りで無理だったからレーバテインも無理だと思う。弾かれると言うか、こう衝撃を完全に殺される」
「私じゃ無理ですよぉ。一番パワーがあるのって礼さんじゃないですかぁ」
「く、どうするか」
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