88節 推測
申し訳ありませぇん!!
持病?である片頭痛が悪化し、嘔吐からの点滴してましたあああああああ!
小さくため息をつくのをマイクが拾う。社長の仕事を手伝うその姿は秘書のように思えるが、実際はバリバリの実戦部隊の隊長であるのだから人は見かけによらない。
後ろからは魂が抜けた『もう、むり、無理だってこれぇ』とへもへもな声がかすかに届き育児退化している三十路の女性の嘆きが。
「……。甘い物を持ってきたと伝えてくれ。後、抱き枕とコーヒーもあるぞ」
「ふぁ――っ!?」
「すっ、くはは!」
『ほんと!』
ガバ、バサバサバサァと何かが落ちる音が聞こえてきたのちガチャリと扉が開けられた。眼前に現れたのは精華の姿であった。
多少目元にクマが出来ているが、その身振りからは元気そうである事が伺えられる。……まぁ、空元気とかハイテンションでマヒしている可能性も無きにしも非ずだが……。
そうして、代の大人に俺たち……特に妹の舞が引っ張られて入室させられた。
「海斗君は、牛乳と砂糖大さじ二杯っすよね。礼ちゃんは牛乳と砂糖大さじ一杯ってことで」
そう言い、砂糖を入れる夏さん。テーブルには甘いクッキーが置かれている。
何となく来てしまったが、話の邪魔にならないように俺たちは精華さんから離れた位置……つまり出入口の近くのソファーに座る。
対面には三十路に抱き枕にされ死んだ魚の目をした妹がかすかに腕を振るわせている。諦めろ、お前の腕力じゃ振りほどけない。
抱き着きながら器用にコーヒーを口に含み、その後舞にクッキーを食べさせている精華。
癒しでストレスを軽減したと判断してから、咲がバックの中から紙束を取り出しながら切り返した。
「で、だ。これを見てほしい。これは、付近の状況と近隣住民の調査資料……そして塾とその公式サイトをまとめた物だ」
「ふむふむ。犯行時間は午後八時四二分。場所は人通りの少ない路地で回りはほぼ空き家それに人通りがなし。随分と揃ってるわね」
「新関東統合都市に外れた所にあるから、監視カメラもない……。前々から狙っていたのか、或いは慣れていたのか。で、このタイミングで少し疑問に思うことは無いか?」
「そう、ね。やっぱり犯行時刻かしら。公式サイトの時刻表を見てみると明らかにおかしいわね」
ほらここよ。と薄いピンク色のマニュキュアをした爪で指をさす。そこにはとある一面があった。
そこには時刻が記入されていた。
◇中学生の部
20:00~20:50 21:00~21:50の二時間行います。
#長期休みやテスト前などは時刻や日にちなどが変更になる場合があります。一週間ほど前に、変更した日時を記入した紙を配布します。また公式サイトにも掲載いたしますのでご確認のほどよろしくお願いします。
……?一体どこがおかしいのと言うのだろうか。一般的な塾と変わらない時間だと思うが。
「そうっすね。八時四十二分……直すと二十時四十二分っすか。ちょうど時間と被るんすよね」
「本当だ。ちょうど授業時間と被ってる……でも、あれなんじゃない?忘れ物を取りに行ったとか」
「いやぁ、それはないと思いますよぉ。この時間でしたらぁ……電話とか?筆記用具くらいなら常備してあるはずでしょうし」
「帰り道の途中で十分ほど前に出たとしてもおかしいと言う訳ですか」
それにな、と次の紙を渡してくる。
そこには捜査資料の写しがあった。丸るくきれいな字に所々にアンダーラインやマーカーで色分けされた非常にわかりやすい物であった。所々にちょっとした絵が描いてあるのが偽もであるが。
そこには現場の資料が。
誘拐されたと推定される区間には被害者と思われる所持品は一つも確認ができなかったと文章が。
監視カメラがない場所のため、捜査をかく乱するために犯人が仕掛けたものだと予想だったが。
「ここで、このSDカードに入ったデータを見てほしい」
「これは?」
「塾の付近にあった監視カメラの一つだ」
「……っ!おかしいわね。この時点で何も持ってないの!」
そこに映し出されていたのは、何かにおびえながら走る翡翠の姿があったのだ。
ポーチやバックなどを持たず只々、後ろを気にして全力疾走するか弱い乙女。
「……似てますね。毛先を萌黄色で白髪、体の発育は……まぁ、寄生された段階で色々いじれるので」
「似ている……どういうことだ」
「そのことは海斗くんから説明を受けた方がいいじゃないかしら」
「実はですね――」
そう言ってこちらもゴーグルにつけられた小型カメラの映像を提出した。
視聴後、小さくため息をつきながら咲は考える。
これは、明らかに天使の教会の仕業だ。犯人が自ら名乗っていると言うのもあるが資金力的にもこのような大規模な作戦が出来る裏組織はこいつしかいない。
「問題は、どうやって彼女を変えたのか。本拠地はどこにあるのか……末端を捕まえても相手の加工所を抑えなければ駆除できないぞ」
「……やっぱり塾を調べるのが一番なのではないでしょうか?」
「ん?」
「荷物がないのが不自然です。真面目であると聞く彼女が起き勉をしていると思えないですし、塾内で何かあったのでは」
「警察が捜査してるんだから問題ないって言いたい所っすけどねー」
「ヴェロニカの件で裏で暗躍している役人がいると言うのがわかったからな。で、どうする?色々調べるのには我々は適していないと思うが」
「それは……」
「と言う訳で私に来たわけですか……と言うか依頼者本人が居ないうちに勝手に話を進めるのをやめてもらいませんか?二度手間ですよ」
止まりかけた獣道。新たなる道を発見するために、病院から帰ってきた楔をここへ呼び出したのだ。
診察結果はなんと完治しており、動きもレントゲンにも異常はなく一応処方されたくするを飲む事を続ける以外は何も以上は無かった。
そして、彼女は戻ってから咲たちが手に入れた情報を伝えられたのだ。
「私が知っている情報と言えば……勉学面だけではなく道徳面も育てる事に注力しているのは知っています。地域との交流を推進してボランティアとかをよくやっていますね」
ボランティア。それはまぁ、暇人……立派な人間性だ。
「ただ」
「ただ?」
「交流会を定期的に行っていると聞いたことがあります」
「交流会?地域と密接なんでしょう。なら、不可思議な事だと思わないけど」
「……なぁ、生徒会長、交流会ってを聞いた事がありますって言ったか?確定情報じゃないんだな?」
「えぇ」
「咲さんもう一度捜査資料と公式サイトの方を見せてもらう事は可能ですか?」
「まぁ、大丈夫だが」
「なんだったらコピーしてくるっすよ」
俺が疑問に思ったことは単純だ。何故人伝なのかと言うことだ。
ボランティアなどを行い、道徳心を重視し地域との密着型の塾ならば交流会の情報が関係者である楔の耳に入らないのはおかしい。
ホームページにもそうだ。一切そのような事は記載されていなかった。
そして、もう一つ謎の女からの助言。
――塾を調べるといいさ。翡翠と言う少女が通っていた塾を……。
あの言葉が妙に頭に残る。小骨が喉に刺さるような、何かあると言う不祥感。
あの少女に誘導されているのかもしれない。言葉巧みに操られていて、見世物にされているのかもしれない。だが、寄生体に関わってコネクターになってしまった以上、大口を開けたワニの中に進むのも致し方ないこと。
毒を食らえよ皿までも。
「黒にしか見えんのだが」
「わかりましたわ。警察は調査が終わり過度な干渉は法律違反でできなく、精華さんたちは民間警備会社で印象が悪く捜査権もない。探ることができるのは私達民間人だけ……ならば私が行きましょう」
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!
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