7節 傭兵
「さて、ここよ」
精華さんが操る車はとある建物の前で止まる。
大きさ的には全四階の市民ホールほどの大きさで、コンサートでも開けそうな雰囲気だ。
実際にこれは市運営の多目的ホールだったものをPMCが買い取ったのだ。
やはりと言うかなんというか、機械生命体によって当時は公共機関の補修によってほとんどの機関が財政難と化していた。
そのため資金対策として一部運営していた建物を売却しようと言う案が議会によって可決され、今に至る。
大ホール、小ホール、会議室、展示室、練習室など多目的と名乗るのはだてではなく非常に便利性がいいようだ。
「確かれいちゃんは初めてだったわよね」
「見たことない」
「外出したの今日で初めてですからね」
「兄妹は改修前も変わった後も中入ったことありますからね。小学生の時ここでめんどくさい合唱コンクールやりましたし」
レンガで舗装された歩道3人は歩く。
普段なら寄り合っている葉を広げる伊吹柏槇に、都会では珍しい土と青青しいコケのにおいが孔をつく。
精華さんが前に立つと自動ドアが待っていましたと素早く動く。
入口から目に入るのは大きなカウンターと椅子の群れだ。
イスは病院の待合席を想像させるほどびっしりと敷き詰められていて、数多の人々が腰かけている。
病院と違うのは服装から察するに、関係者と言うことだろう。
現実的に考えて一般市民が傭兵に頼み事などしないか。
「さて、こっからは潜入任務よ。スタッフにばれないように」
「何やってんですか。急にしゃがんで」
「……ん?」
突如、頭のつむじに平手を置かれ強制的に姿勢を低くさせられる。
刹那の行動でついていけない海斗たちを目尻にテーブルの下の陰になる場所まで俊敏に動く。
「見つからないように気を付けて……。じゃないと鬼が」
「誰が鬼じゃゴラァァア!」
「ひょえ」
来た当初からずっと密埋めていた精華さん海斗たちの方向を振り向いていた間に無音で足を詰めていた。
そこから一気に腰と頭を押さえ地面に押し付けた。
怒られたからか、衝撃か定かではないが涙目になっている精華を視線から外し。
「お、しさしぶりです……藍沢さん。その様子だとやっぱ仕事さぼってたんですか」
視線を留まらせながら、肩口にかからないように乱雑に流し赤みがかった髪を揺らし。
「海斗君じゃないっすかぁ、久しぶりっすね。いぁそうなんすよ精華また報告書サッボちゃいまして」
「いやだ、別にいいじゃない。爆発物使ってその余波で公園の遊具壊したぐらいで、なんで報告書で時間がつぶれなきゃならないの!?」
「それは、あんたが前線に出なければいい話なんすよ。一様社長ですっすよねなら考えて遊具8割消し飛ばしてっるんじゃねぇーす」
礼以外のフロアにいるスタッフはいつもの光景だと無視をし仕事に励んでいる。
「あー。え?っと」
「君たちの後ろにいるのがしゃちょーが紹介したい娘なんすね」
唯一口を開けてぽっけとしている礼に気が付いたのか、拘束を詰めながらパッチりとした目を向ける。
「こんな格好で申し訳得ないっす。改めまして自分は藍沢夏っす。性があいざわで名がなつっす。よろしくっすよ」
言動からは少年ぽさを感じさせながらも、柔軟な体に拘束するため使われた腕に挟まれ乳房の上に、より大きな谷間が作られる。
ワンピースの上にメッシュ状の服を着ているがいろいろな意味で防御力不足を感じる。
太ももまで伸びる靴下を止めるためにスカート中から白いガーターベルト伸びている。
これは靴下のおずり落ちを防ぐものだけではなく、隠れたレッグホルスターを保持するためだろう。
「どうも……文月礼です」
赤紫色の瞳に避れるように小さく頭を下げた。
「どうもっす。取り合えずようこそ石竹民間警備会社へ!ここでは非合法なこと以外はなんでもござれ。護衛や警備、害獣駆除まで行うっすよ」
どうもどうも、そういいながら力ずよく握手を交わす。
「なんでも?記憶がなくてぇ……身分証明できなくて、身体能力が高いと。家は力仕事が主っすからね。弾薬運んでくれるだけで無問題っす」
「うで、うでぇえ。決まってるから。関節とれるから」
「ほらソーイングセットで治せるでしょ。さぼるのはだめっす」
「うちの実働部隊は優秀なの。だからちょっとぐらい」
「おまえが壊したんだからおめぇが書けよぉぉぉおお……す。」
「口調、外れかけてますよ」
面目ない。彼女は抑えながらカードキーを手渡してくる。
それは彼が持っているモノとは縁どられた色が違うものであった。
「来客用のやつっす。まだ入隊るとはいってないっすからね。中に入ってお茶でもしててくださいっす。あ、おやつ私も分も残っすすよ。私は精華を処分してこなくちゃいけないですからねー」
右腕一本で精華さんを引きずっていく。
精華さんって確か装備着用していたような気がしたが、さすが突撃部隊隊長と言ったところだろう。そしてちゃんと苦痛を与えている。
助けてと左腕を伸ばす精華さんに舞までもが無言を貫いた。
「はい、これ身分証明書。なくしたら色々面倒な手続きが必要だからね」
30分後、やつれた顔をした精華から礼は身分証明書を受け取っていた。
新しいおもちゃを受け取った子供のように弄り回し、暫くした後ポケットの中に腕ごと深く突っ込んだ。
……。
神妙に顔を歪める海斗に振り向き。
「何だか早くね?と、思ってるとだろうけど実際そんな物よ。名前や生年月日を記入して所属会社が身分を保証しますと、政府に連絡すればいいだけなの」
なるほど、政府による精密検査がなされないからこそ文月を誤魔化せるのだろう。
「ねぇ、あの……れいちゃんって凄く過食してる気がするんすけど。何時ものことなんすか」
もぐもぐ食べるのをそっと見つめる夏さんが訝し訝しめに問いかける。
確かに多い。
通常、人間が活動するのに必要なカロリーは2200kcalほどだと言われている。
礼は明らかに人一人分を超えている。
まぁ、カロリーが高いイコールメタボになりやすいというわけではないが、その体積でどのようにエネルギーを貯めているのか気になるのだろう。
貯めるというよりかは。
「エネルギー消費が激しいんじゃないかと私たちの持論よ。身体能力が高いというのは事前に話してた通りだけど、ここまでとは」
「……別に、常時使ってるわけじゃない……大人3人分あれば日常生活には問題ない」
「だ、そうですが、今時こんな食いしん坊はゲームキャラでも見たことないよ」
「あー、あとで倉庫から消費期限が迫ってる戦闘糧食持ってきた方がいいすか?ちょっとカロリーや塩分やら高めですけど」
「食べる」
ある程度会話をし第一印象をつかめたそう判断し、一同は施設内の案内をされるようになった。
と言っても、精華、夏に引き連れられながら礼は奥に歩んでいく。
傭兵と聞くと泥臭く乱雑なイメージを持つものがほとんどかもしれない。
事実、過去には酒やたばこを当たり散らしながら荒事をする社会不適者の集まりだったのは言わずも名が。
しかし、そんな印象を払拭するがごとく白々な廊下が続いている。
プラスチックを挟んで見える第4オペレーションルームには、制服を着崩すものはなく誰もがせわしなくキーボードをたたいている。
「ここは第四オペレーションルームよ。大体電話するとここにつながるわ。基本的には重要性や危険性が低いものをここで処理していると思ってね」
「れいちゃんたちは正式に所属しているわけではないっすから。ここからの指示をこうことになるっす。要は雑用っす」
「弾丸つめたりとかな」
「私、プログラミング作らされたんですけど?雑用では無くね」
「それは、ね?ほらお金沢山上げたし」
「と、こんな感じにガバることあるから気を付けろよ」
「えぇ……?」
次に連れていからたのは鉄の扉で遮られた部屋だ。
この先、火器管理その他色々!火器操作資格持ってない人は許可なく触っちゃだめだぞ!!と書いてある。
こんな雑な注意書きが書かれているが、実際には銃のほかにも可燃物や爆発物などが収められている区間があるため決して精華さんをバカにしてはいけない。
うって変わって空気には火薬が燃焼した独特な臭いが辺りに充満している。
廊下も木製の物から金属製のものとなり一層世界が違うことを暗示していた。
「おー、こんなところにまたバイトかい?」
と、意識が一気に現実に戻される。
通路の進行先にガタイのいい30台ほどの男が三人。
中央に陣取っり毛先をやや青色に染めた長身の男性が腕を上げながら近づいてくる。
「こんにちは」
「おぉ、久しぶりだな?弾倉に弾詰めるだけでも現場は助かるからな!」
「声がでけぇんだよお前」
「まぁ、声が響きやすいのでいいじゃん」
はははと高笑いを上げたあと後ろにいる2足りに気が付き、友好的に手を伸ばしながら声をかけてくる。その腕が胸に向かっているのは気にしない。
「舞ちゃんに……えーと」
「彼女はれいちゃんっす。家に保護?されてきたっす」
「こんな別嬪さんが保護されるなんて。なんて厳しい世界なんだ。美しい女性は人類にとって宝というのに」
「誰かれ構わずナンパすんの、やめろよな。社内の気品が落ちるだろう」
「まぁ、手遅れながするけどね」
いつも道理漫才を続ける3人組を他所に次に進もうとする。
「ちょ、ま。自己紹介ぐらいさせろよ」
精華さんが小さくため息をつきながら彼らに並ぶように動かす。
さすがは訓練を受けているといったところか。一寸の狂いもなく列を作り敬礼をしている。ソコには先ほどのおふざけた空気ではなく覇気が纏っていた。
真ん中に陣取った男が一歩前に出る。
「と、言うわけで頼れるリーダーの獅子王陸だ。よろしくぅ」
その自己紹介を聞いた右隣いるややあさ黒い男が小さくため息を
「リーダー突貫するのを引き止める役の冷泉仁だ。よろしく」
次にやや小柄な少年のような見た目の男が出てくる。
「僕の名前は水瀬直樹です。こんな外見だけれど成人しているんですよ」
「と言うわけで自己紹介終わり」
「外回りでもしてくるがいいっす」
「女性陣の対応が冷たいぜ」
「お前がナンパしてるからだろ」
「いつもどうりだからね………」
「はよ!|走れ(run)っす」
いつも道理の漫才を繰り広げたのち彼らは外出していった。
あんなのでも前線で真っ先に活躍する、精鋭部隊に所属する一員なのだとか。世の中は不思議で満ち溢れているな。