84節 撤退
ご飯食べてたら一時間ぐらい遅くなったぁあああああああ!!!
空を見上げれば、夜空に光る六つの星。それが、どんどん光が強くなっている。正確には、下降し近づいているのだ。
あれこそが、俺たちを絶体絶命の状況から引き揚げてくれるクモの糸。ここら一帯を吹き飛ばすほどの魔力をもった爆撃だ。
だが、そんな威力があるものに気が付かないはずがない。各々が各自の対応を迫る。
守るものに盾になるもの思考が追い付いていないもの等様々な反応があるが、その中に一人だけ海斗たちを叩き落すという選択肢に出るものが居るのであった。
透き通った透明なコアを持った少女が煙の中から一直線に上空に飛び出してくる。所々防具のようなものを着用した少女は髪をはためかせ、右手に持った剣をもって道連れと言う選択肢を取ったのだ。
「っ!やろう――ッ」
いち早く気が付いたのは礼たちではなく海斗。理由は単純に視線が下を向いていたからだ。
必死に残っていた銃の引き金を引くが動きが鈍いっ。あん時の衝撃でフレームが壊れち待ったのか……。
「ォ――」
素早い身のこなしで小さな突起を足場にし、まるで忍者のように上っていく。
礼……むりだ。近接戦しかできない。迎撃を取れば重力と言う絶対法則に逆らえない。
ゆずきは絶対無理だ。準備をしているとは言えこんなものを作った後だ、消耗的に無理をさせられない。
「くそっ」
「落ちろっ!」
鋭い太刀筋をもって俺に切りかかる。剣道でもやっていたのかはわからんがこれはまずい。
瞬時にナイフを抜きだし受け止める。だが、なんて力だ……押し倒されそうだ。けどっ!
俺はナイフの角度をやや斜めにし滑らせて受け流す。角度が甘かったのか肩が少し切れるが無視だ。
初激はいなしたが狭い足場では不利。身体能力では圧倒的に劣勢な状況で、俺よりも早く切り返しを相手は放ち。
「いや、君が落ちる番だ」
届く前に横に吹っ飛んでいった。視線を動かせば半身を逸らしながら蹴り上げる礼の姿。
そうだ、押し倒されるということは地面……この場合ではゆずきが生成した足場か、があると言うこと。激激できないのは遠距離攻撃をもたないのと空中の機動力が絶望的な事。
逆に言えば接近し地上に立って入れば問題ないわけだ。
「やばい、時間が」
「手を!」
そんなことをしていたらすでに眼前には巨星が輝いている。あと数秒もしないで着弾だ。
俺は急いで礼に担がれ、ゆずきは楔を抱っこし柱から跳躍した。
その瞬間、バコンと音が六つに衝撃破。
「うぉ」
「ぐぬぅ」
「きゃ」
「っちぃ」
背中に叩きつけられる風でバランスを崩しながらも、何とか公園の敷地外に出ることには成功した。しかし、ここから全力疾走したとしても数の暴力で普通に撤退したら追い付かれてしまうだろう。
だが、ここに数年前まで地下水道をねぐらに活動していた美少女が居る。
瞬時に、近くにあったマンホールを筋力で無理やり開け体を滑りこませる。全員が入った後そっと、ふたを閉めたのだ。
「はぁ、はぁ」
「……ッ」
「苦しいと思うけど耐えてくれ」
両者ともにマナ不足で疲労困憊であるが、ここで活性化させると敵に感ずかれる可能性がある。
マナを動かさないでくれとは機械生命体にとっては致命傷。人間で例えるならマラソン終わり息切れをしている中、暫く息を止めてくれと言っているようなもの。
地上にいるであろう敵の反応がなくなったと妹から連絡が付くまで待機だな。
「やられ、ましたね。しかし、伏兵が居たとは気が付きませんでした。はぁ――ったっくよぉ!修理するのだって金が掛かるんだぜ」
煙が晴れたあと現れたフードの者たち。何とか防ぎ立っている者、衝撃を殺しきれずに倒れている者、男を庇って尚且つ順風満帆者などがいた。
守れれていたいた男は、自身が罠にかけたつもりで罠に掛けられたことを理解し、冷静な仮面を取っ払い近くに倒れていた仲間の女性をストレスのはけ口として蹴るのだった。
「そこに寝っ転がってるのは応急手当てして一日放って置け……そのぐらい経てば治るだろ。その後は金を体で支払ってもらうさ。容姿も良く壊れにくいからな……駒の繁殖もできて金がもらえるなんてちょろいわ」
そうして、自らが蹴っていた少女に向かって屈み、懐から取り出した注射機を首筋に突き刺した。すると、瞬く間に苦痛に歪んでいた顔が明らかに上気し目の焦点が合ってない状態になったのだ。
翡翠にラリッている娘を任せ。
「まぁ、いいだろう。ここはこう考えようか。あの時までに強くなってもらわないといけねぇから、俺が超えるべき脅威になってやるさ。育成ゲームの始まりだ」
翡翠は、訳もわからないことを言う主を見て心から嬉しく思うのだった。ご主人様が喜べばマリオネットドールである私達が喜ぶのが当たり前な事。
それが彼によってゆがまれた事を知りながら、乙女は微笑みながら倒れている少女を引きずりながら研究所に帰っていくのだった。
「あぁああぁあああぁ」
「いえ、私がそんな声出したいわよ海斗君……って今回は不可抗力か」
妹から敵の影がなくなった事を確認し、そのまま水道を通って帰還したのだった。
マンホールをどっこいしょと退かし会社の前に現れる。所々戦闘の後があるが、周りを見れば負傷はいれど死んでいる者はいないようだ。
空薬きょうと瓦礫の撤去作業を指揮していた精華が気配でこちらに気が付き、抱き着いてきたのだ。
むにゅっとやわらかい物が当たり、その後ケガをしていないかなどを確認し応急処置を施されたのちにもう一度客間に招待されたのだった。
テーブルの上には今回の事をまとめたタブレットが置かれていた。
『これは、酷いね。大体直径六キロメートルの範囲でおこってたのか。大体の身元は判明していて国際テロ組織に犯罪組織が起こしたみたいだね』
「ゲーセンが……クレジットサービスしてくれる貴重なゲーセンが」
「なんか違う意味でダメージ食らってる子もいるけど……まぁ肩のけがは純恋に診てもらうとして。楔ちゃんどうしてあんなことをしたのかしら?独断専行はダメって歴史で習ってないの?」
「それは、ごめんなさい」
さすがに、今回は懲りただろう。萎れた紙のようにうつむいた。
少しずつ彼女は口を開いていく。「只、妹に会いたかった」のだと。
それから、今夜あったことも今までどう思っていたのかをポツリポツリとつぶやいた。
「貴女の言いたいことはわかったわ。けど、努力を積み重ねてきた楔ちゃんhじゃ言うは易く行うは難しって言葉を知ってるでしょう?」
「はい」
「現に負傷者が出てしまった。装備品が破損してしまった。弾薬を消費してしまった。そして、何も言わないで出ていった挙句呼びかけた無線にも応答しなかったでしょう……。はぁ、私に説教は似合わないわ。今回お世話になった人に謝罪してきなさい。特に海斗君たちに!」
「今回は多大なご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした」
「はぁ、後で何か買ってくださいよぉ」
『新作のゲーミングパソコンとエロゲーを買ってくれるなら許してしんぜよう』
「なんか、買ってくれるのなら僕はいいよ」
「労災で出るだろうけど慰謝料とMP7一個でいいさ」
チラリと処置さえた肩を見ながら俺は言う。そこにはにじむほどの血が純白の包帯を染めていた。
確かに流血沙汰はこれが初めてか……。認識の違いってやつなんだろう、誰かが目に見えてけがをしない限りは対岸の火事と思い込む。
銃を撃てたのは人の形をした何かだと思ってるいるからで、実際に知性がある黒幕の男と親愛がある妹は人間認定して撃てない。
自らの常識を覆る事を体験したんだ。そりゃ、今までの考え方だって変わるか。良い意味でも悪い意味でも。
あくまでも自分は遠くから見ている観戦者ではなく当事者なのだと。
「わかりました。それぐらいで償えるのであれば」
「よっしゃ!」
ま、今までの事は忘れてないから仕返しするけど……ちゃんと二十万払ってくださいね。
『なんか、腹黒の間隔が見えるけど……別にいいか。こっちが損をする訳じゃないし民間人と民間人だしなんも問題ないね』
「因みに……質問があるんだけど。僕銃使わないからわからないからアレなんだけど、値段どれくらいなの?」
「カスタム混みでざっと三十万っす」
夏と会話する礼を尻目に俺は病院へと向かったのであった。
前回のけがを治療してくれた病院はどちらかと言えば一般の患者はお断りをしている。それは特殊な成り立ちで建設されたからだ。
外観もすごい。壁は鉄筋コンクリートで作られており、窓は全て防弾仕様で外見を無視すれば野戦病院が入った防衛陣地と言うところか。
「機械生命体の襲来において一番問題視されたのは人命だった。事故なんかとは違う独特なケガを治療するには当時居た医者や施設では対応出来なかった」
斬撃程度ならまだ何とかなる。只、魔法を受けた人体は基本的に損傷が激しくなる。そして、軍医が居ないことでさらに被害が広がった。
故に、政府によって負傷兵専門の医療施設建設計画がスタートしたが……市民の反対により実現はされなかった。
が、物好きのやつは何人かいるようで元大企業の娘であり医院長でもあり医者でもある橘純玲が本病院を建設したわけだ。
「そやね。当時の国防軍……失敬、陸自は少なかったかんな。九条あるから徴兵出来へんし金ないしでひさんやったで。だから、感謝してや」
「それはもちろん。純玲さんじゃないと来ませんよ」
「そやそや、わざわざ忙しいなかあんたのためだけに時間と場所と偽装書類作ってんねんから……ちゃんとデータと金もらうわぁ」
「貴女の事だから心配しないけど、その言い方は海斗君を実験動物見たいに扱う悪い人みたいな感じになるからやめた方がいいわよ?」
「あーい」
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
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