82節 御子
デモンエクスマキナをやってたらふと思いついた。
(このカスタマイズ制があるゲームをやってたら異世界転移したらおもしろそうじゃない?と)
あ、別にさぼっていたわけではないですよええ。
「翡翠!」
愛する妹を見た瞬間、不審者に回りを囲まれているのを忘れ脱兎のごとく駆け寄っていた。
そのまま、長い袖の中に包まれた枝のように細い指を絡め強く握る。
「ねぇ!ねぇ!!翡翠、翡翠でしょ?今まで何をしてたの何処にいたの?けどそんなことどうだっていい!ねぇ帰ろ、みんなが待ってるよ?……翡翠?」
涙で瞳を潤わせながら顔を見る、しかし妹から帰ってきた視線は暖かくも鋭い物であった。
「ごめんね」
「ううん。謝らなくていいの。帰り――グぅッ」
「私は帰れないの」
突如、腹部からの衝撃。翡翠からボディーブローをかまされたと気が付いたのは、衝撃で二メートルほど吹っ飛び地面に倒れたタイミングだった。
え?と驚愕に包まれる。まず、彼女が自身のことを殴ってくるわけがないという精神的な動揺。そして、約体重五十キロある自信を不意打ち気味とは言え二メートルも吹っ飛ばした筋力があるという理屈的な振動。
「……っ、なんで?帰れないって、どういうことなの?」
「殴ったのに、帰れないことを先に心配するんだ。やっぱり優しいね」
「いやぁ、姉妹の絆は感動的だなぁ」
そして、もう一人翡翠が現れた噴水の影からトコトコと演劇をするかの如く飄々と現れる。
他のやつと同じようにフードを深く被り顔色はうかがえない。が、その声質からは男であろうことが予想できた。
「あなた、何をしたの!」
「ん?色々はしたよ!当然だよな。そして、今回は姉が大好きな妹自身に誘拐させる。その後、二人仲良く転生だ……素晴らしい」
「は?何を言ってるの?何でいうことを聞いてるの何か悪いこと……そうだ、洗脳とかされたんでしょう!負けないで」
「そうです。私は、私自身をぐちゃぐちゃにした男を手伝って大好きなお姉ちゃんも襲おうとしてる……悪いことわかってる」
「なら」
「けどね。私の望みなんて関係ないの、私が大切だって思いとか倫理観とかそんなことよりご主人様の命令の方が全てにおいて優先されるのですから」
「っ!おっ、お前」
「おっと怖い。私は噛みついてくる犬は苦手でね。ほら、瀕死の動物ほど何をするのかわからないってやつさ。ミミズのように地面に這いつくばってる状態でも怖いから拘束させてもうよ」
とことこと倒れる楔を腕を掴んで無理やり立たせる。
立たせる際に、胸元の隙間から独特な光と宝石が視れた。
あれは昨日私を誘拐しようとした人についていたものと同じ……つまり寄生体っ。
「ッ!離して!!」
「ぐっ」
海斗にとって生徒会長は馬鹿な人間だと思われているだろう。それもそのはず、妹が関連する件に関して相談もせずに勝手に突っ込みピンチになっていく。
周りが見えない女……確かに事実である。だが、頭の回転が悪いわけではない。
拘束されていない右手で素早く拳銃を抜きぶっ放す。バン!と火薬が破裂する音と共にくぐもる苦痛音。右から近づいてくる人陰にまずは一発。そして、瞬時に左に二発。
いくら寄生体だと言え至近距離から弾丸を食らえばダメージは抑えられずに仰け反るか倒れた。
「おっと、怖いじゃないですか。良いんですか、私は人間ですよ……貴女に人殺しの重課が耐えられますか」
「く」
「ほら、撃てない。銃口はしっかりこちらの脳天に向けているのに、引き金に立った少しの力を入れれば解決するのに」
「んっ」
「お前ぇっ!」
「妹のためと言いつつ、どうせ貴女の事だ……守ろうとした友人家族知り合いがいたのでしょう?そんな人達を押しのけて来たくせに、最後の一閃を踏み越える勇気がない覚悟がない。ただカタカタと銃を震えて向ける少女だ。だから、目の前でこんなことをされているのを目にしても行動できない」
そう言って妹の胸を強く揉みしだいた。
ぐにゅっと変形するのがわかるほどの強さで。
何で、どうして。私は、会話をしている最中から彼が翡翠の胸を触り揉んでいたのを見えていたのに。今でさえ両腕でわしづかみしているのを見ているのに。銃を向けているのに何で動けるの。怖くないの?クルッてる。
そしてあの子は掴まれている反応に熱い吐息をこぼすだけ。
「何よこれ、何なのよ」
ザッ。
「こんなの……こんなのって」
ザッ、ザッ、靴がこすれる音がする。
「――っ。ぅ!どうして」
腕に力を入れる、何度も何度もナンドモ。けれど、あの男の顔が花火のように破裂することは無く。
「じゃあ、茶番は終わりと言うことで、翡翠。捕らえて」
「わかりました」
ただ、自身にそれも妹によって振り下ろされた拳を眺めることしかできなくて。
そこには弱い少女が震えていただけだった。
目を閉じ衝撃に備える。
……。
………。
「ぐっ」
けれど、彼女が想定していた打撃は訪れずその代わりに破砕音。
瞼を開ければ、拳を大きく上に弾かれた妹の姿が。遅れながら届いた銃声から自身が助けられたのだと思いしった。
「おまえ、勢いよく静止したものを突き飛ばして飛び込んだ割にはお粗末だなァ!!」
瞬間一斉に声がした元へと振り返る。そこにいたのは、最近一緒に行動してきた下級生海斗の姿があった。
「まぁ、独断専行した挙句小鹿のようにガクブルとは……何のために出て来たんでしょうかねぇ」
「流石に妹が胸揉まれてるときに撃たないのは、僕もちょっと……」
「肉眼じゃ見えない距離だからってあんな、無様?な真似はさ」
『監視カメラで状況把握は出来てるんだからね。突き飛ばしたこと覚えてるから、一生この映像ネタにしていじってやる』
はは、そう聞こえない距離で俺たちは敵を見据えた。
距離は……十メートルほどだろうか、叫べば何とか声が聞こえるくらい。そして移動するのに約二秒かかる距離。
普通であれば二秒あれば、敵に包囲されている楔を救出する前に悲惨なことになるのは目に見えてるが……目には目を歯には歯を、バケモンには可愛い女の子をぶつけりゃいいんだよ!
他力本願だが致し方ない。
チラリと二人に目をやればやる気満々の笑み、特にゆずきは翡翠に用があるようだ。ずーと彼女の瞳を見つめ返している。
「頼んだぞ。それじゃあ……」
レッグホルスターから取り出した拳銃を構え。
「よーいドン!」
まるでリレーを開始するかの如くフードの男に向かって引き金をためらわずに引いた。
パンと同時にバコンと破裂音。
弾丸は無慈悲に飛んでいくが、パキンと隣にいる楔の妹に拳で弾かれる。まぁ、計算内だ。こちらが狙う、そして相手の視線が銃と言う明確な脅威を持つ俺に割かれる。
たった一瞬だけで良い。
美しいバラには棘がある……そんな言葉があるが、うちの娘はワニ並みに凶暴なんでね!
走っていた二人が一気にスピードを上げる。地面が足を付き飛ぶ瞬間、胸から光と黒い石油のような液体が彼女たちの体を覆った。
空中に飛翔する戦乙女。炎に照らされ独特な光沢質な服、下腹部に怪しく光る紋章に肩のバーコード。三つ編みにした髪がまたたき、桜色の唇が獲物にありつけると楽しくゆがむ。そのまま胸のコアと同じ意匠が付いた大剣を礼は携え。
同じく光沢をした服に腰に身ミニスカートもどきを吐き、紫色の髪をサイドテールにしたゆずきが胸のコアを紫水晶色に灯らせ。
「先日のか、り、は……しぃっかりと返させてもらいますよ!」
セイ!と鞭を振るえば、中心から鍾乳洞のように無数の針が地面から生まれる。取り巻きは対応によって思考に隙間ができる。
その瞬間、一番手練れであろう翡翠に向け剣でぶっ叩いた。
本来であれば人体がくの字に折れ曲がり、大きく吹き飛ばされながらバスケットボールのようにポンポンバウンドしていく……時速八十キロの大型トラックが突っ込んでくるような威力がある攻撃だ。
だが、彼女も黙って吹っ飛ばされてはくれない。どこからか取り出し装備した大型の籠手で剣をぶっ叩いたのだ。
まるで鉄塊を叩き落したかのような音が響き、コンマ拮抗し動きが止まる。
その刹那だけで取り巻きの一人が男を抱え退避したのを確認した直後、腕の力を抜き野球のボールのように宙を舞った。
だが、事前に想定していたおかげか空で一回転をし体制を立て直して体操選手びっくりの着地。
有効打には明らかになっていない。
周りの取り巻きに銃弾をばら撒きながら俺も合流する。
「ち、お前はネコか?」
「投降してくれませんかぁ。私達、は貴方達に危害をく」
「おぉ、おぉ!何たる幸運か神に感謝を」
「……は?」
「見える見えるぞ。私には彼女らにつながった魔力路が……おぉ、貴方こそが天使と人類をつなぐ架け橋の一人。御子だったのですね」
「御子?一人?まるで複数いるみたいな言い方だね。僕のマスターと同じ存在が居ると?」
「えぇ、天使。その通りです、我々は来る最悪のために人を天使に転生せねばいけないのです。しかし、我々ができるのは人造天使と言う偽物。スペックも半分以下です……量産性がいいという利点はありますが」
相変わらずまるで舞台役者のように身振り手振りで話してきやがって。
チラリ、と視線を動かす。首だけはしっかりと正面を向き相手の話を聞いてますよー感を出しながらゴーグルで隠れた眼球だけは必死に情報を得ようと動かうす。
ち、やはり狂ってるようであの科学者?頭の回転がいいのかきっちりと包囲は強いてやがる。
『大丈夫しっかり録音してる』
さすがは我が妹よ。優秀だ、突然おしゃべりになったことは置いておくとして人造天使とかは真実なのだろう。目の前にコアが半分に割れたものを見れば、正非はすぐにわかる。
が……。
(コアが半分か、あの時……ヴェロニカと戦闘したときに見た光景の中で倒れる人。そして胸に取り付けられた物……明らかに一致してる。あぁそうだ、空白になっている所に変な機械が取り付けられている以外は同じだ!それに俺と同じ存在が居るのか?)
「人と言うのは争い合うもの……我々にはいくつかの派閥があるのです。今の我々は最弱……支配領域は日本いや、それも減りつつあるのです。貴方こそが救世主、さぁ新たなる地平に旅立とうではないですか!」
なるほど、なんかよく知らないが相手はどちらかと言えばこちらに友好的らしい。天使の教会にもプロテスタントやカトリックみたいに宗派があるのだろう。
そして、研究対象である寄生体の力を十分に発揮できる俺を祀り上げたいと言う訳か。
「どうです?悪い話ではないでしょう」
「そうだな……俺の回答はただ一つ――――論外だ。誰が犯罪者の味方をするか道徳学びなおしてから来い。魅力的な案を主張したいならもう少し好感度を上げる努力をしたらどうだ。お前の利点しか挙げてないぞ、俺に関して何も言ってないよな?結局お前は詐欺師なんだよ」
「そうですか……残念です。殺さずに全員捕獲しなさい、骨を少しぐらい折ってもいいですから」
「マスター来るよ!」
そう言って飛び込んでくる翡翠相手に楔をかばいながら俺は銃とナイフを構えた。
楔「ぐっ」(ボキッ!)
サラッと肋骨にひびが入る楔ちゃんであった。
ブックマークは新着小説で投稿されたのがわかりますし、ポイントは作者のやる気にもなります。
また、ご意見ご感想も受け付けていますよ!
ブックマークは上部に、ポイントはお話を読み終わり『<< 前へ次へ >>目次』の下に入力案がありますよ!
作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします。