81節 迷い子
「ぇ?」
外に出た際に目を鳴らさせるためだろうか、最低限の明かりがついた監視室。
危険だからだと押し込まれたこの部屋に、楔は立てかけられたモニターを見て声を漏らした。
正確には、音だろうか。
側面のコンビニを写したカメラ。車が所々に転がり炎上する中で一人の少女がポツリと佇んでいた。
深く被ったフードで表情はうかがうことができないし、服装もダッフルコートを着ており判別できない。只、性別だけは胸部を押し上げるふくらみから女性だと認識できた。
声を漏らした理由は、モニター越しだというのに視線が合った錯覚……。
もう一つは……まるで引き込まれるような感覚。
「んぁ?会長?」
と、突如閃光が瞬くともに振動。
近くにあった車が爆発でもしたのだろうか?画面が一瞬で真っ赤に染まる。
あぁ、と思ったその瞬間。
赤い絵の具が風に流されると同時にペラっと、あっけなく、やすやすとフードが翻った。
――そこにいたのは忘れるはずのない、十五年間一緒に苦楽を共にし愛している最愛の妹がそこにいた。
「――翡翠ッ!」
「……ふぁっ!?」
がっとテーブルに手を付きながら立ち上がる。目前には、炎に揺らめきながらこちらを見る翡翠の姿がそこにあった。
数の想到の後、コートをひるがえしてこちらに背を向け歩みだした。
「待って!」
「ちょちょちょ!――ぶへっ!?」
いきなり駆け出す楔に嫌な予感をした舞はパソコンから手を放し、部屋を出ていく寸前に足に掴みかかる事に成功した。
しかし、悲しきかな引きこもりでパソコンばかりいじり十秒も走れば喘息並みの息を切らす我が妹に対して、こちらは成績優秀運動神経抜群のスーパーせいとかいちょ。
瞬時に振りほどかれ、背中から壁に叩きつけられたのだ。
あ、としたが決めたことに一直線に向かう彼女は外面左下に出ていた非常階段前に向かっていったのだ。
「ぐ、ぁぁああ。っ――。ふぇ、ふぇえ。すぅ……げほごほ」
背中と腰と後頭部に強い衝撃を受け、蒸せながらなんとか立ち上がる。
「うぇ…………一意専心、って言うんだ、け?あぁ、一つの事に、集中するのは……美徳だけどさぁああ。保護対象だって、知ってるのかぁああああ!ごほ、おにいちゃああああああああん!楔がぁ、どっか行ったぁぁあああああああ!!!」
「は!?」
インカムから聞こえてきた妹の声に俺は、自動無人砲台に装填する手を止め叫んだ。
聞くところによると監視カメラに写っていた妹を見て彼女は一目散に掛けていったらしい。
それに。
『たぶん、寄生体だと思う。胸にコアが付いてたから……スマホに送るね』
そして、すぐに携帯がバイブレーション。画面を付け画像を表示させるとそこには動画と写真が。
動画では妹と思われる少女が佇む姿が、写真は爆風で乱れた衣服の隙間から見えるコアが高解像度で映し出されたいた。
「これ、あの夜に戦ったやつと同じですねぇ」
「なるほどぉ。寄生体なのは確定っと……もしもし精華さん、Help!あの楔さんが脱走しました」
『え?えぇっ!!どういうことなの説明して』
とにかく報告は大事だ。
すぐに精華さんに連絡して事の経緯を話したのだ。
『なるほど……。ごめんなさいこちらは一般市民を護衛しているのだからこちらからは出せないわ。私も夏も陸もいけないわ』
「咲さんは?」
『そっちも戦闘中ね』
「今動ける戦力は俺たちしかいない、と」
『アルバイトと女子中学生を戦力に含むのだったらそうね』
ですよね!知ってた!!
最悪だ。これが楔が駆けていったのも問題だし、相手側に寄生体が居ると判明したのも。
寄生体を相手にするには完全武装の小隊が必要だ。だが、市街地で一般人と言うお荷物を守らなければならないという状況では、戦力の抽出は出来ないだろう。
また、咲などのSS以外の警察官などに見つかってしまったら?
今の所寄生体は人の恰好をしただけで知性はあまりないと認識だが一気に覆ってしまう。戦力や警戒態勢の強化と言えばメリットがあるが、礼やゆずきを仲間に持つ俺たちは最悪公僕との敵対関係になってしまうかもしれない。
早急に動けて機械生命体相手にも対抗できる少数戦力は俺たちしかいない。
『本来なら、引き留めるのだけどね。護衛対象を守らなければならないし、海斗君的には寄生体を従えられる相手の情報が知りたい。でしょ?すぐに逃げなさいわかった?』
「了解」
『話は聞いてったす。こちらも一回攻勢を仕掛けて注意を引くっす。だからその隙にっ』
「てなわけだ。みんな!周りが見えなくなった生徒会長を引っぱたいて引きずりに行くぞ」
「敵を突破するには僕の剣が必要でしょう。前衛は任せて」
「なら、遊撃は私がしましょうかねぇ。鞭らしく横からスパンと叩きましょ」
『ナビゲーションは任せて。前回は監視カメラがなかったけど、今回は町中だからね。十分仕事ができるとおもうよ』
「ごめんなさいね。私は待機なの、でも……ふふ。弾薬補給ぐらいは出来るけどする?」
ノヴァさんから徹甲弾を受け取り薬室に装填。今回は最初からAPを使う、費用とかそんなの出し惜しみは無しだ。
ナイフよし、軽量ベストよし、医療キットよし、予備弾倉よし、HMDの同期よし。
チラリと同行者の様子を見る。視線を合えば力強くうなずく礼とほほ笑むゆずき。
俺たちは非常出口の一つ西口に向かった。
『そこから先は警戒地域。只でさえ市街地で障害物が多くて遭遇からの近接格闘戦に移行しやすいんだから気を付けて』
「了解」
そうして俺は、厚い金属製の扉を開けた。
飛び込んできた景色はまさに修羅。鼻孔は煙臭さと生臭さをつかみ取り、鼓膜は辺り一帯に広がる爆発音と悲鳴を伝える。
瞳に映るは、ひび割れた道路に所々散らかる血痕に炎上する建物。
特に燃えた地点には近づかない方がいいだろう。有毒ガスが出ているかもしれないし、都市ガスに火が付いたら大爆発間違いなしだ。
そして、銃撃音が多い所もだ。流れ弾に当たったら大惨事だ。
倒壊しても巻き込まれないように野外、それも崩れ落ちた瓦礫に身を潜めながら進むのが得策だろう。
『付近の監視カメラのハッキングに成功したよ。周辺に人影なし。大丈夫だよ』
「了解。行くぞ」
拳銃を抜き炎上する都市を進んでいく。
所々に銃声がするが、前には人影も戦闘も感じない。
『おかしい。楔が移動した所に人影が全くない。……戦闘がある場所も敵が前線を進めたり後退したり……』
「まるで、僕たち……ちがうね。楔を傷付けないような立ち位置だね」
「明らかに罠だと思いますがぁ?」
「直進生徒会長が先に進んだ都合、対策も無しに追いかけなくちゃならないが。なにか考えたり準備する時間もない。ここは後をつけるしかない。わざわざ退いてくれたんだ、突き進むぞ」
――。
燃える街を一人の少女が疾走する。はぁはぁと荒い息を吐きながら、夜になりながらも八月の水気が孕んだ空気を振りほどくように。
少し後悔しながらも、楔は走っていった。
周りを見ないで顧みる姿からは、自身がアリジゴクより深い深い穴に誘われていることに気が付いていない。
彼女が視ているのは、ちらちらと視界に映る人影だけであった。
「……っ」
気が付けば彼女は開けた場所にいた。
ザーと液体が下に滴り落ちる音。
汗をぬぐい、顔を上げればそこは公園だった。
昔、首都東京にあった噴水公園。それを、関東統合都市に再建築し改良したものらしい。
現に泉はライトアップされていて、夏祭りなどのイベントがあろうものならば設置された椅子が埋まるであろう。だが、爆発音響く街中には楔以外人影はない。
「ぁ」
正確には一般人と言う意味での人はいなかった。
「誰、なの!」
足を止めた瞬間ありとあらゆる物陰からローブを被った人間が現れた。その数七人。
楔はその容姿の都合、チンピラに絡まれたことがあった。それは妹も同じ、ゆえに彼女は守るためにある期間武術を嗜んでいたことがあった。
ローブを被る人間は胸を押し上げるふくらみから女だとわかる。しかし。
(何、この感じ気配、雰囲気、何もかも違う!)
一定の距離を取って、包囲する。そんな中、正面の噴水にいる少女が顔を隠しているフードを取った。
そこにいたのは、姿を見せてここまで案内した翡翠の姿であった。
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