61節 それぞれ
いや、その。仕事が忙しくって……。
残業もあるし、休日は資格を取りに行くわで時間がなくて。具体的には七月二十日くらいまで大体こんな感じです。
本当だったら、本話で後日談まで行きたかったんですが。後日談は次話と言うことで。
「え?今から寝るの。生活習慣崩れると思うけど」
「深夜超えて昼間に寝る奴に言われたくはないんだけど。只、あと十時間以上起きてろってことはキツイし……それに走り回ってたりしたし頭痛いし気持ち悪いし。とにかく寝たいんだよ」
「そう、だね。流石に僕も疲れたよ」
そういい精華さんが支度してくれた仮眠室に向かう。
仮眠室と言っても何度か利用させてもらったことがあるが、どちらかと言えばホテルの部屋に近い。ベットにトイレにタンスに水道、キッチンすらある。
なぜなら、職種の都合上泊りかけで仕事を行ったりするからである。事実、一部の仮眠室は社員専用の社宅のようなものになっていた。
もらった鍵をポケットから取り出し、捻る。ガチャリと鍵が開き、扉を開けると綺麗に掃除された部屋のベットに腰かける生意気な後輩の姿がそこにあった。
いつもの戦闘服ではなく、女の子が着ている普段着で。
「やっほ。先輩……こんばんはぁ。おっともう日は上ってるからおはようございますでしたかぁ。長かったですねぇ」
「ゆずき……どうして?」
よっこいしょ、と立ち上がる小悪魔……ゆずきを見て舞は「はぇ」と狼狽し、礼はあからさまにむくれる。
これは、寝る前に痴話喧嘩が起こりそうなんだがっ。
ふらふらぁと、こちらに近づき。クルリと回転して桜色の唇を開いた。
「当然、寝るために決まってるじゃないですかぁ。な、ん、な、ら……夜伽をしても――」
「死ね」
「わっちょ!!冗談、冗談ですよぉ!!剣をおろしてくださいよぉ。あぁ、まぁとにかく一緒に寝たい。疲れた、脇腹にダメージを負ってるので近くにいて回復したいんですけど」
そういって、彼女はTシャツをめくった。そこには確かに腹部を隠すように包帯がまかれていて、右わき腹は少しだけ赤黒いシミが浮かび上がっている。さらには手慣れたようにほどけき、乙女のきめ細やかな肌がされ毛出される。シミ一つないきれいな黄土色に混じる紫色と刺し傷のような跡。
止血はされているようだが、内臓ではまだダメージはあるのだろう。
へらへらとした表情の奥で首筋を流れる汗が告げていた。
「……そうだな。頭も痛いし、いろいろ疲れたし寝よう。英気を養おう」
「じゃあ、僕は右隣で」
「ふぇ!ちょっとそれは負傷してる私の権利じゃないですかぁ」
「うるさい、眠いんだよ。寝かせてくれよ」
「私は誰の隣でもいいや、人肌が恋しいだけだからね」
ゆずきに押し倒されながらもベットの上に寝込む。ぼふっと反発力が返るとともに柔らかな感触が右側からもたらされる。
いよっと、そう言いながら舞も崩れ落ちるように体重をかけた。
両サイドの痴話喧嘩を注意することもなく、眠気の波にのまれ意識が深く落ちていった。
そんなご主人様の様子を見て、顔を見合わせた後ベットに身を任せたのだった。
一方そのころヴェロニカはレオニードと一緒にいた。
海斗と契約したとしても所属は軍属。流石に国家間の争いごとに巻き込み巻き込まれるのは双方にとって好ましくなかった。
特に、あの悪魔の科学者たちに娘を渡す気も会う気も彼はなかったのだ。
ヴェロニカなどから話を聞いて海斗の人相を把握していた彼は、混乱さえしても彼を恨むことはなかったし権威検査の結果、体調も身体能力も劇的に改善されていた。
精華と言う女性から聞いた二人組……アレが私達をはめた諸悪の根源である事は明白で、解決していないことだけが心残りであったが死亡者が出てしまったことで本国に直接出向いて報告する義務があるだろう。
彼女もわかっているのか下を見て紅茶をすすっている。
大方、健康診断と評して体を弄繰り回されデータを取られることはわかっている。だが、これもマスター様のためと思えばつらくはない。
こうして、珍しくボーと過ごしていた彼らに。
「失礼します、モスクワ。モスクワでェっ!――プロレタリアートのクーデターが起きました!!」
無慈悲に新たな戦火が上ったことを告げたのだった。
コツコツとブーツが出す特有の足音を響かせながら女性が廊下を歩いている。腰まで届く長い髪を流し、絹のように滑らかな黒色が特徴の女だ。
背筋を伸ばしまっすぐな視線で、徹夜をしたのにも関わらず凛としたたたずまいを見せつける。
そんな彼女……彩はとある一室の前で立ち止まった。
ゆっくりと観察するように周りに人がいないか見回した。大方、このフロアにいる人間はほとんど眠りについたのだろう。人の気配も感じない。
ならばと、扉の前でしゃがみポケットの中から取り出した棒を鍵穴の中に差し込んだ。
「やっぱり、買い取ったと聞きましたが……鍵は基本旧式で物理ですか。電子ロックなら大型な機材を持ち込まなければならなかったのですが……これくらいなら強引に開けれる」
カシャン。鍵が回る音がする。
そのまま、腰のホルスターに手を掛けながらドアノブをひねって部屋に進んだ。
扉を閉めると同時に、拳銃を抜きスライドを引いて初弾を薬室に装填。振り返れば静寂。やはり寝ているようだ。
では、早く終わらせよう。少年と妹に対しては銃声が目覚ましの変わりになるのが申し訳ないけど……世界のためだ。
静かに気配を消しながら、サイドテールの少女……ゆずきに向かって銃口を向けた。
セーフティーを外し、銃声で起きるであろうもう一人の標的と守る一般人を視界に入れて。
「……」
四人はまるで支柱に巻き付くツタのように絡みついていた。そんな格好にふとデジャブを感じたのだ。
それはまだ、幸せだった記憶。年の離れた妹と弟が雷が怖いと泣きつき私の布団に潜り込んだ事。まるであの時のように、守るように抱き着いて。
「すぅ、っぐぅ」
小さく息を漏らし宙を見上げ拳銃をおろす。
そのまま、彼女は袖で目をぬぐって振り返ることなく廊下に向けて歩みを進めた。
静かに扉が閉じられる。そんな様子を薄目を開けてみていた礼とゆずきはそっと枕に顔をうずめた。
「さて、やぁっと我が家ですよぉ!兄!!早速ゲームにログインしてくるからログインよろしくぅ!!」
「あい。冷蔵庫の中にあるやつで作るわ」
時刻は三時。特に遊ぶことなく俺たちは家に無事に帰宅した。
そのまま、舞は二階に駆け込み俺は冷蔵庫を確認し入っていたジュースを飲む。
「僕も手伝うよご主人様」
「ありがと……で?――何でいるんだゆずき」
「ここが先輩のハウスですかぁ。え?何でって先輩がいる所が私の居場所ですよ」
まるで自分の自宅のようにソファーの上でくつろぐ紫髪の少女ゆずきは何を当たり前なことをと、そんな問題すらわからないのか?と馬鹿にする小学生のように口をゆがめた。
「それともぉ……私を野外でほーちプレイ?家なしの女の子を放り出すなんて……こんな世の中じゃレイプされちゃいますよぉ。あ、それとも寝取られ好き?」
「何言ってんだお前」
そう言いながら、冷蔵庫の中にあったオレンジジュースを投げ渡す。こういった気遣いできる所が流石先輩ですねぇと言いながら受け取った。
「だって私の家廃墟ですよぉ?地下水道に住めっていうんですかぁ。今は可憐な女の子、おしゃれもしたいし恋もしたい。最低限の衣食住はほしいですよ」
「それは、そうだが」
確かに彼女が住んでいたところは廃墟都市の中。五年ほど前から瓦礫と化しているだろう。それに、この前みたいに目の届かない場所で色々されても困る。
それに、もう警察とかロシア軍人とかにマークされているし……何かあった時に戦力は居た方がいいか。
「わかった。ただしきちんと家事を手伝ったりすること……OK?」
「もっちろん。これでも元お嬢様ですからぁ、いろいろ出来ますよ?頼りにしてくださいね」
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