60節 後始末
いやぁ、PCラックを買おうとしたのですが高い。
一万円ぐらいするんですよね。安いやつもそれなりにあるんですが、精密機器回りなどではこだわりたいお年頃。
あと、ヘッドフォンが壊れてしまいましたぁ……。
魔法でできた爆発によってコンクリートの粒が舞い、海斗は顔を防ぐように腕を上げる。
彼の瞳には、膨大なマナの嵐の中で沈黙するクモをいしっかりと捉えていた。
相手のコアがある位置は上半身と下半身の間にある。そのため、同高度からの攻撃では装甲が邪魔をして貫くことができないのだ。だから、曲射ができる弓を持つヴェロニカが適切だったのだ。
物質化した魔法は重力の影響を少なくだが受ける。もちろんある程度は設定できるようで、低高度高速型は基本的には無効化している。
基本的には遠距離戦においては重力は障害の一つだ。重力による弾道落下によって遠距離射撃が非常に困難なのは想像に難くはない。だから、基本的には魔法はほぼ重力の影響を受けないように設定されている。
だが、曲射をするにあたっては当てはまらないどころか利点になる。
一定高度と座標まで飛行後、上にマナを吹かせば弾速は問題はなくなる。
ジェットコースターを知っているだろうか?ジェットコースターは最初の山以上の高さから出発後は突破しない。これは、摩擦エネルギーや熱エネルギーに変化しているからだと言われている。
しかし、魔法には我々が扱う物理法則に強い抵抗を持つ。
故に通常道理の威力が撃てるわけである。
『敵……沈黙したみたい』
「だ、な……。はぁ、疲れた」
「マスター!?」
「わりぃ、糞。頭がいてぇっ!」
お姫様抱っこをされながら礼の腕に背を託す。
電源のスイッチを入れ替えるように魔視の魔眼を閉じれば、まるでせき止められた痛みが一斉に流れ出てくるような激痛が襲う。
やっぱり、肉眼じゃあマナとかマソとかの動きを見るように人体構造はしてないから脳の負担が大きいな。幸い、今回はタイムリミットである五分間を過ぎていないから意識を保っていられるが、本来ならば解熱薬と頭に貼る冷却ジェルシートを付けてベットにダイブしたい所だがそうは問屋が卸さないだろうなぁ。
抑えていない左目のほうで視線を正面に戻せば、警戒する警察とロシア人の皆様。
特にスカーレットクイーンの方が敵意が顕著だ。舞の脅しに部隊長の娘を篭絡、尚且つこちらは見るからに寄生体を従えてるときた。
警察はまだ咲の銃を下げろの身振りのお陰か敵意よりも疑問の方が多いだろう。
どうするか、四者がこの空気を如何に打開し自らの盤面に持ち込もうかと考えたとき、咲の隣に駆けつけた長髪の女性が口を開いた。
「さて、いろいろ聞きたいことがありますがどうします?ここで話していたらまずいことになるのは確実ですが」
「なら、私の会社に行きましょう。それなら、会議室もあるしね。あとは医療施設や知り合いの医者も呼ぶわ」
「本来ならばこの場で確保及び留置するのですが……このままでは上で潰されますか。先輩よろしいですか?」
「あぁ、問題はない。そちらは?」
「本官も問題はない。大使館には二百人以上を収容する機能はないからな。少年は?」
「あぁ、問題はねぇ……」
ギロリと夜を切り裂くほどの眼光をもってして睨みつけられる。
まったく今日いつ寝床に付けるんだろ?小さくため息を着いた後、安全圏で待機しデータが取れホクホク顔をにやけさせるノヴァの装甲車に乗り込んだ。
車内の空気は重い。体調不良の素人が会話に入ってもむしろ悪化するのは目に見えていた。だから、気を聞かせてくれたのだろう。精華が、俺を助手席においてくれたのだ。
本来であれば当事者なのだから後部座席で円卓を囲まなければならないが、そもそも一般人であると彼女たちが庇い尚且つあからさまに顔色の悪さから、彼らも良心的に同席を拒否するのを許してくれた。
「いやぁ、大変だったすね。ほぃ、スポーツドリンクす。もう十二時……日が跨いで良い子は寝る時間っすよ?」
「あ、ありがとうございます藍沢さん。正直、頭が痛いから直ぐに寝たいです」
「寝ててもいいんすよ?大丈夫っす!まだ海斗君は子供っすからね……寝る子は育つそれに何かあったらおねぇさんが守るっすからねー」
「ありがとうございます。少し……背を預けさせてもらいますね」
「……運転してるの私なんだけど?」
瞼がゆっくりと落ちるのを感じながら、鈍る思考と共に海斗は眠りについたのだった。
眠るということは次は起きるということ。目覚めは優しく肩を叩かれたことによって覚醒した。
瞼を開ければ、窓から差し込む人工の光と人々の喧騒が聞こえてくる。経済日本の経済活動の中心地である、関東統合都市は眠らぬ町だ。日をまたぎ太陽が反対に回ろうとも人の営みは変わらない。
起こしてくれた礼に感謝しながら正面に取り付けられたカーナビを眺めれば時刻は午前三時。大体、三時間ぐらい寝てたことになる。
大所帯で深夜に帰ってくる……昔の子供会で言ったテーマパークを思い出す。あの時も窓に寄りかかってうたた寝をしていたっけ。と言っても、隣にいたのは母親だったが。
昔なら公道を兵員輸送車とかが走っていればそれなりに注目されたであろうが、今は機械生命体によって見慣れているのであろう。撮影する人などいない。
長い列を作りながら次第にフロントガラス越しに見えてくるのはあの特徴的な外観を持つ建物。市民多目的ホールを改造した石竹民間刑事会社の本社であった。一般駐車場を通りすぎ、奥にあるハンガーに入り駐車する。
なるほど、ここは車両を点検駐車できるようになっている。ここなら、隠す事ができるし二百人を運搬した車を収容できるだろう。
そのまま、武装解除せずに会議室に上がりこむ。まさか……このまま話し合うつもりなのか?休憩もなしに?
学生には想像もつかないが、現実では起こるのだろう。事実、コーヒーを手に椅子に着席している一同。
「これ、俺も付き合わないといけないよな……当事者だし」
軽く自己紹介したレオニードと杉野彩がにらみつけるように着席するように促してくる。小さくため息を着き椅子に腰かけた。
最初に話が進んだのは警察からであった。特に副隊長である彩の質問が粘着だった。
証拠を取るためではなくどちらかと言えば憎悪の感情を向けられていると思う。所々で、ある程度情報を持つ咲がフォローに回ってくれているが、あれよこれよとかわしながら嫌がらせをしてくる。
「コンテナヤードの事は水に流しましょう。えぇ、今回は見逃してあげます。なるほど……貴方が彼女が言っていた先輩ですか……入院していたとお聞きしましたが?」
「入院してましたよ?軽く死にかけましたけど、まぁうん寄生体パワーで何とかなりました」
「ふーん。まぁいいでしょう。もう一つ、契約と言うのを行い貴方は寄生体を使役していますね?どうやって行っているのでしょうか?また、あの運動能力は?何故、彼女の事を隠していたのですか?」
「おぃ。流石にいっぺんに聞きすぎだぞー。分けろー」
「体長は甘すぎます。我々はけいさ」
「すぅぅうぅ。あのさ、いい加減しつこいんだよ。警察官なら深夜まで長時間聴取知る権利はないだろ未成年だし。あぁ、礼に聞こうとしたって法律は人間に適用されるようにできているから、人間じゃない礼には適応できない。OK?」
そして、長々と眠いのに強く責められるのは色々と頭にくる。海斗は社会的な世渡りも知っているし、位の高い人間なら仕立てに出ることが一番であることが分かっているが、性格的に言えば揚げ足取りをするような人間が一番嫌いで反抗をしたくなる。
だからこそこの発言だった。
「……私達をなめているんですか?」
「国家権力なめれるほど上級国民じゃない。只、私怨と公務は別にするべきじゃないのか?視線隠しきれたないぞ」
「彩ー。そもそも警察上層部だって信用できないんだぞ。ここは、私達の心にとどめておいて利用するべきだと私は思うが」
「っ……。わかりましたよ」
ようやく長髪の彼女が席に座ってくれる。これからロシアのやつらとも話さないといけないのに、時間がかかるな。
そして、次はレオニードを中心とした討論が行われた。まず、ヴェロニカがなぜ寄生体であったかの過去話の説明を受けたうえでこちらの質疑応答を行う。
「なるほど、そちらの大変だったのですね。……こちらとしてはヴェロニカに関しては事故と言え交戦及び契約をしてしまいましたが、所属的にロシア側と認識には違いありません。こちらの要求はお互い過度な干渉をせず利益を得ましょうというだけです」
「うむ、こちらもハイリスクハイリターンは懲りたから問題はない。簡易血液検査では娘の体調も安定している。それに、これは感だが君たちはある程度自由にさせた方がいいと思う。いいだろう」
太陽が水平線から顔を出したころ、やっと話のひと段落を終えたのだ。
コンテナヤードでの交戦やヴェロニカや契約の事などボカシながら話すたび数悶着があったが、何とか一息を付けるようになったのだ。
「もう、六時だよあにぃ」
「あ、舞どこに行ってたんだよ?」
「少しずるいんじゃないかな?僕、いろんな人に根掘り葉掘り聴取されてさ。記憶がないってのに……病院のデータを開示することになったけど」
「えっと、まぁ。私ってほらハッキングとか余裕でできる超絶美少女サイバーガールじゃん?だから、顔を出すわけには行かなかったのさ」
ははは、と笑う妹の姿にため息をつきながら精華さんが割り振ってくれた仮眠室に足を運ぶのであった。
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