59節 焔の雨
2021/06/20
誤字修正
ルビ振り
描写の追加を行いました。
ナイフを持って駆けだす。目的は相手のコアを砕くただその一点。それを銃やミサイルや火砲を使わずにやろうと言うのだから正気の沙汰ではない。
戦車以上の攻撃力、防御力、旋回力、突破力と人間が相手にしていいものではない。いや、そもそも戦車型なんて名称がついているのだから戦車が相手するべきである。
それが、寄生体込みとはいえ生身の人間が正面に出てナイフ一本で戦おうなどと、立ち向かおうとしている己自身が容易ではないことを認知していた。
ヴェロニカのおかげで砲は半壊、威力が下がっているのであろう事が見える。けど、それでもあの光弾の威力と連射性は厄介だ。フルチャージではないが毎分一二〇発の砲弾は礼が全力をだして逸らすことが限界。
そして、問題点がもう一つ。それがクールタイムだ。
魔法は確かに汎用性威力共に優れているが、消費量が半端ではなく五回ほど防げばすぐにマナオーバー状態に陥る。リチャージが完了して礼が復帰するまでは海斗が攻撃を防がなければならない。
いくら魔眼があるとは言え、凶弾に立ち向かえる勇気やそもそも人間の耐久性など問題点が多い。
それでも、海斗は出来ると自信を持っていた。
「作戦は全力で近づく。その際砲弾が飛んでくるが何とかする。接近したら礼は足を切断してその間にコアを俺が露出させる。とどめはお嬢様にやってもらう」
「マスター、それだと危ないよ。どうやって光弾を防ぐつもりだい?」
「砲弾は一番外側が接触感知の役割をしてるっぽい。その後、中心にあるマナが活性化して中層にある炸薬が起動する。だから、その前に中心を切ればやれるさ」
「全て切るのは無理だと思うけど?」
『それは、こっちで何とかするよ。礼ちゃん!兄、今私が交渉して協力を取り付けるから進んで……信じてるから』
耳に取り付けたインカムから頼もしい妹の声が響く。なるほど、今まで黙っていたのはスカーレットクイーンの情報を取っていたからか。オープン回線なのでごたごたしているのが結構聞こえる。
『あ、それと兄……弾道計算プログラム組んだから使って。ある程度至近弾を選別してくれると思うから、ただ、付近に監視カメラとかないから細かい計算は出来なくて直撃弾は目視確認が基本でお願い』
「了解」
そうすると、画面に新しい近未来的なウインドウが開き弾道計算プログラムと言う文字が表示される。
確かに相手の砲塔の向きの延長線上に赤い線が伸びている。右下には準備はいいか?と表示されている。結構かっこいいじゃないか。
さぁ、援護射撃も始まった。もう、引き返しは出来ない。
「じゃあいくか」
「はぁ、できる限り無茶はしないで」
ニコリと礼がほほ笑んだのち、一息を飲んで同タイミングで回避行動から突撃へと修正をした。
先頭を走るのは礼、その一メートル後方に俺が背中を追いかける。
急速接近に脅威を感じたのか、半壊した砲塔がこちらに向き光弾が生成。そして発射される。威力より連射性を重視した攻撃。ビルを粉砕するほどの攻撃力は持たないが、少なくともコンクリートブロックは粉砕できるほどに凶悪なのには変わらない。
それを礼は時には刃で時には剣の腹で逸らし防いでいく。攻撃が接触する瞬間、まるで花火のように火の粉が飛び散る。そんな幻想的光景も一息休憩に入らなければならないようだ。
「っ!」
息が漏れるのが聞こえる。汗の雫が零れ落ちる。六回の剣劇……これが走りながら完璧に防げる限界か。
なら……。
俺はすぐに腕に付いた半透明な鎖を引っ張った。この腐りは物理的なものではなく二人のつながりを示す概念的なものであるが、変更できないとも言っていない。
瞬時に魔力を流し物質化。まるでゴムが伸びた後、元の形に戻る復元性を再現するかのように弾かれながら礼の前に飛び出す。
そのまま、目の前にある光弾に向かってナイフを振りかぶった。
ガッと、例えるならそう野球ボールを素手で受け止めたかのような衝撃が右手を襲う。ギギギとナイフ以外が軋みながらそれでもなお、中心を捉えて布を切るように引き裂いた。
次は右足の、左胸、腹部、飛んでくる場所を予知しナイフを制御しながら切断しては走る。
その後、復帰してきた礼と入れ替わるように身を右に捻りながらその場を退く。そのまま、相手の攻撃を防ぐように近づき。
直後、前方を走っていた礼が走り幅跳びの選手のように突如跳躍、アラクネとの距離五メートルほどの距離に勢いを殺さずに着地をしたのだ。しかし、忘れてはいないだろうか。アラクネは垂直の壁を上るほどの強靭で鋭利なかぎ爪をもっているいることを。
車波の大きさを持つ化け物にとって五メートルなど須臾の差だ。
前足を持ち上げ乙女の柔らかな肌に刃を入れようとしたとき、影法師が生まれた。突如、人間の時にあった感情が泡のように浮き上がり一つのひらめきとして弾けた。言葉にするなら……。
――後ろにいたガキがいないっ。
導きだされるように上に伸びる鎖をたどるように見上げれば……赤い瞳を光らせナイフを構える少年の姿が。
やばいと集中が逸れたその隙に。ガクっと体が傾いた。視界の端に見える剣撃。
「セヤァアアア!」
礼は海斗の事を信じて剣を振りかぶっていた。レーバテインは刃に魔力をまとわせることで絶対的な切断力を誇る。また、マナを使用して武器が伸びるように展開することも可能である。
さて、こんなものを女性のしなやかな体でバネのように力を利用しながら大きく振りかぶればどうなるだろうか。
バコンと金属を叩きつけた音が鳴り響き、液体と共に足が宙を舞った。
それを尻目に海斗は相手に飛び乗りながらナイフを振りぬいた。まるで、髪を切るかの如くすんなりと刃が通り確認するや否や、全力をもって深くより広く。
「おらぁああああ!」
その場で回転をし相手の上半身に切断断面が浮かび上がるがまだ浅い。だがこれで十分だ。
回転した勢いを乗せたまま、海斗は背中に背負っていたものに手を掛けた。
それは槍のようなものであった。鉄の先にきれいな宝石のようなものが取り付けられているなんも変哲のない槍。
だがこれが一番効率がよく吹っ飛ばせるものであった。
――そうあれはこのナイフを受け取った時。
礼の依頼でナイフを作ると同時に創作意欲が沸いたのかノヴァは立てかけてあるものを取り出したのだ。
『これはね……刺突雷槍といって先端にある機械生命体由来の宝石にマナを流すと、爆発するの。所謂、旧日本軍が使用してた刺突爆雷ね』
『特攻兵器じゃねぇか!?何、持たせようとしてんだよ!』
あの時はニコニコとした表情でカミカゼをして来いと言われたかと思って怒鳴り、押し付けられながらも一度も使うものかと決心をしていたのだが。
やはりと言うか先人の受け継ぎか。
俺の心の中にある大和魂が叫ぶ。万歳と。
回転エネルギーを維持しながら、遠心力が高まったタイミングで腕を伸ばし傷口に押し込むように突き刺した。
「はぁああああっ」
魔眼を発動しているときは、自らが扱ったことがない武術を何年も練習してきたかのように振るうことができる。これはナイフだけではなく槍にも該当するようで。
ガッとヒビが割れたかのような強烈な一撃。そう、装甲を穿つ技名は。
「蔓茘枝っ――!」
そのまま、持ち手に付いてある細い糸を引っ張る。キンと金属音と共に小さな棒に丸がくっついたかのようなものが宙に舞う。別名安全ピン。わかりやすく例えるなら手榴弾を投げる際に抜くものである。
セーフティが外れ、マナの輝きが刃に満ち……。ドガッと青い爆裂が起こったのだ。
「ぐっ」
「マスター!?」
吹っ飛ばされた海斗をキャッチし礼がお姫様抱っこで全力で後退する。視線を下に向ければ爆風から飛び出たにしては浅い傷。
心臓に悪い。
とにかく、これでお節介は完了した後は焔の雨を眺めるとしよう――。
ヴェロニカは弦を思いっきり引っ張りながら暁の矢をつがえた。ギギギとしなる音共に、マソの高まりからか彼女を中心に火が混じった風が巻き起こる。
「わたくしの焔は、行く手を遮る敵を灰と化す邪火」
少女が言葉を紡ぐ、それに共鳴をするように輝きがより強くより深く。
「ダロワイヨ・ルベウス!」
少女が叫んだ瞬間、弦が勢いよく跳ねた。
まるで、ロケットが空に飛んでいくかの如く煌めく粒を残しながら空高くまで飛んで行ったのだ。
『兄、やばいよ。あのクモが回避行動しようとしてる』
「何!?」
「え!そんな……僕が足を切断したはずなのに!」
一方そのころ、礼たちは再び動き出そうとするアラクネに驚愕していた。
ヴェロニカの一撃は必ず仕留められるようにするために、大幅なマナを使用している。つまり外したらリチャージまで非常に時間がかかるということだ。
距離が開いているし、近づいたとしても今度は味方の攻撃で灰と化す可能性がある。遠距離手段に乏しい俺たちが取れる方法はなかった。
だが、せめてと拳銃を抜き放とうとした瞬間。視界の端に紫の光が瞬いた。
ガン!と、巨大な三角形上の紫水晶が相手に当たる。
「いい加減そこでじっとしていてくださいよぉ!」
背後では鞭で自らが生成した宝石を投石しているゆずきの姿が。バランスが崩れたアラクネはその場に座り込み。
そして、降ってきた矢によって辺りに閃光と爆音が鳴り響いた。
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