57節 生意気小悪魔にお説教を
PC変えたって言ったじゃないですか?
それで地味に困ったことがあって、変換でよく使う単語が出なかったり方向キーの上下が聞かなかったり……。
いえ、ゲーム?あぁ、小説は忘れてなどおりませんよ!えぇ!!
「故に我々は……」
「はぁ、話が長いんですよ。年寄りは説明が長くてたまりませんねぇ」
「ちょっと」
余りにも長すぎる回想に盛大に欠伸をしながら話すゆずきを焦った様子で窘める精華。
中将に向かってなんて口を……とやや焦りちらりと恐る恐るレオニードのほうを見る。
彼女の言葉を聞いたレオニードはコンマ数秒硬直したのち、予想に反して確かにと笑いながら言い放った。偏見かもしれないがカチンと怒鳴りつけるかもしれないと思ったからだ。
余談になるが、現在の日本警察内部では自ら以上の装備と収入を得られる傭兵はあまり好まれていない。なので精華のこの反応は警察官に向けては正しかったりする。
「あのですね。忘れてると思い出けど戦場なんですよぉ?もっと短く纏めてきてくださいよぉ。書類仕事してんでしょう?」
「いや、私はどちらかと言うと現場人でね。裏方は苦手なんだ」
「……で、話の続きを簡潔にわかりやすく纏めて!どうぞ!!」
要はヴェロニカを探し尚且つ部下を倒した敵にお釣り付きでやり返したい。で、基本的には機械生命体はマソが多いところにいるためこの場にいるかもしれない。
また、情報を入手することでこちらを騙した組織の背後関係情報の入手などきっちりとメリットは追い求めている。
なお、ヴェロニカを捜索するのは別動隊を任せているらしい。
「ほぇ、で?倒せる見込みがあるですかアレが?正直、貴方達と言うか私達もですけどあのアラクネの横に転がってるトレーラーの中身を確保したいんですよね?なら、どこかに誘き寄せてその間にシュパッと取っちゃえばいいんじゃないですかぁ?」
「もちろん、その案は考えた。だが、我々が目を離した瞬間に背後組織が内容物を強奪……または逃げ出る可能性がある以上この場での戦闘に踏み切る判断をした」
「えぇ、裏でこそこそ嗅ぎまわっている連中に対しては同意です。我々も取り逃がしてしまいましたが二人組のローブを被った人間と戦闘になりました。彼らが取引相手だとも」
「なら余計に情報を入手しなければな」
そう言い身を上げた所で、視界にピンクと紫色が混じったかのような蛍光色がまるで映画館で映画を見終わり一斉に照明が付いたかのような眩しさと共に辺りを照らした
「やば!」
その瞬間、まるで冷却装置が高速回転したかのような音があたりに響き渡り、砲弾が発射された。
先ほどとは違い楕円形ではなく、傘のような尖端をもつ砲撃は発射されて数秒後に例えるならば大きな包みが空中で裂けクラスター爆弾のような細い光線が辺りに散らばったのだ。
あるで五月雨のように降り注ぐ光弾は兵士に平等にまき散らされた。
細い光線だと侮るなかれ、実際には着弾と同時に手りゅう弾と同質な爆発。
殺傷能力はそれほどだ。実際直撃した兵士は骨折とノックバックで済んでいるし、ゆずきも当たったところから血が出て吹き飛ばされただけ。
しかし、障害物を破壊するという運用方法では非常に効率がいいものであった。
身を隠していた遊具が粉砕され、煩わしかったであろう豆鉄砲も鳴りやんでいる。となれば相手がやりたいことは一つ……主砲の発射である。
もう一度キュインッと耳に媚びる付くような嫌な音が響き渡る。すでにお前たちはとらえていると瞳が赤く発光。
各々が地面に仰臥する身体に力を入れ動き出そうとする。しかしそれよりも速く、砲弾は撃発された。
ゆずきは被弾した方を抑えながらも鞭を振るい瞬く間に水晶の壁を作るが、もう魔力がないと言っていたのは本当だったのだろう。
輝く閃光が紫の壁に接触。瞬く間に衝撃波。しかし、まるで暴風に煽られ飛んでいく傘のように守りは瓦解。バイオレットの砂が夜空に瞬く星のように消滅していく。
例えるなら星が命の炎を燃やし尽くしたかのように消えゆく灯は、どうしようもなく未来の自分たちの姿を暗示していて。
「……っ!先輩」
愛し人を瞼の裏に移しながらそっとゆずきは瞼を閉じた。
「もっと早く呼べやぁああああ!」
「ふぇ!?」
ずっと待っていてくれたノヴァの車に乗り込み一息つく。
これから何も言わず何も残さず、どこかに行った後輩を叱りに行かなくてはならないのに余計な体力を使ってしまった。
全く……寄生体って言うのは人の話を聞かないし独断専行するしで、どうしてこんなに立ち回わらければならないのか。
溜息を付きながら猫のようにくっつく赤髪の少女を見る。俺の腕に絡みつき頬ずりをしている姿からは、先ほどの殺し合いをした当人とは思えないほどの変わりぐらいだ。
変わったのは態度だけではない。服装だってそうだ。お嬢様が着用するドレスのような見た目とは打って変わり、クビレのいい腹部が露出し所々にベルトのようなものが取り付けられている。
因美で淫らで年齢にとらわれず美しさに、死神のような禍々しさを混ぜ込んだような恰好。
いきなりこんな風になれば警戒もするべきなのだが、契約した影響なのかなんとなく彼女の感情が伝わってくる。響くのは所有欲と寵愛。こちらを害する感情はなかった。
「……」
「ん?ふっ」
「マスター。僕はね、今ね、凄く殺したくなったんだけどイイカナ?」
「やめろや」
剣に手を掛け、暗闇で目元を隠しながらゆっくりと半身を起き上がらせる。
「マスターさん?場所につくまでに……どうです?私が夜伽でも」
「あんまり僕を怒らせるの大概にしてよ」
「……ねぇ、運転手がいるの忘れてない?まぁ、寄生体の交尾とか見てみたい気持ちもあるけど」
「ふっふ。冗談……冗談ですわ。そちらの欲は大いにありますが、嫌な予感がしますわね……」
まるで遠足に行くバスの中のような雰囲気で殺気と共に軽口を言い合いながら廃町を進んでいくと、突如一斉に寄生体である礼とヴェロニカが一斉に顔を上げ。
「伏せて!」
「伏せなさい!」
と、二人が俺に折り重なった瞬間。
爆音と振動。まるで、爆撃でもあったかのような破砕音と共に地面が揺れた。
何が起こったのかと抑える彼女たちを退かし、暗い夜の景色を目を凝らしながら見回せば……フロントガラス越しに、膝から崩れ落ちるかのように倒れこむビルの姿が目に飛び込んだのだ。
一体何が起こったのか、声が出ないほどの衝撃と共に自身の体に嫌な予感が電流のように走る。
「ノヴァさんあの方向って」
「……確かしゃちょーがいる地点の方向だね」
「飛ばせる?」
「了解」
そうして勢いよく加速する装甲車。
瓦礫を踏みしめ軽快に走行していくが倒れたビルの残骸が行く手を阻む。
いくら装甲車の走破性が高いと言ってもこれだけの高さを誇る残骸を上るのは不可能だ。
回り道をするしかいのか、そう諦めていると空が紫色に染まった。いや、違う!空が輝いたのではない。地面からの光で辺りが光っているだけだ。
「マスター!多分、さっきのはこれだと思う。ちょっと魔力が少ないけど」
「そうですわね。随分と目障りな光ですこと」
そうして破砕音。今まで響いていた銃声がまるで、先生に怒られた教室のようにシンと静寂に包まれたのである。
明らかに何かあった。ゆずきは無事だ、つながっているからわかる。けど、精華さんは?
ギリッと歯がこすり合わせる。回り道を進んでいる暇なんてない。
「礼。頼む、俺を運んでくれ」
「わかった」
「え?わたくしは?」
礼は瞬時に海斗の膝と背中に手を当てお姫様抱っこをし、カエルのようにぴょんぴょんと瓦礫を超えていった。
少し唖然とした表情を浮かべたヴェロニカは「小賢しい真似を」と毒づきながらも後を追いかけていった。
「離れられたらデータ取れないんだけど」
ノヴァを残して。
残された銀髪の少女はうなだれながら回り道をしようと車に乗り込んだ。
「見えた!」
礼にお姫様抱っこという何とも言えない体制で運ばれている海斗は、廃公園の中心部で佇む化け物を眼前にとらえた。
まるで、SFにある多足戦車だ。節足動物を思わせる姿と戦車のような無機質な砲塔。なぜ、機械生命体と呼ばれる所以がわかった気がした。
もう一度、あれは紫色の何かを放つらしい。自然に砲塔正面に向けられた対象に目が移ればそこには倒れる精華やゆずきの姿。
放たれた砲弾はゆずきが作り出したであろう壁を瞬く間に粉砕し、等しい結末を与えようとしている。
「先輩っ!」
懇願するような、悲鳴のような、糞生意気で正確がわるくて幼女の見た目の割には妖艶な雰囲気を持つ少女が今まで聞いたことない声を発したのが確かにご主人の耳に届いた。
勝手に突っ込んで、勝手にピンチになって……もっと。
「もっと早く呼べやぁああああ!!礼っ――叩っ斬れェ!」
「うん。はぁああああああ!セイ!!」
俺は礼からすかさず降りる。一方礼はさながら野球選手がバットを振り払う如く大きな大剣を砲弾に向けて振るった。
弾着すると同時に爆発。吹っ飛ばされた礼を何とか全身で受け止め立ち上がらせる。
「何で、ここにいるってわかったんですかぁ」
「契約でと言っても、ノヴァに知らされるまでわからなかったけどな。さて、何でここに来たかわかるか?」
「それは、かわいい後輩がピンチだから、白馬のおじさまよろしく助けに来たに決まってるでしょー」
「あほか!お前は」
背を向けていた俺は生意気な後輩に振り向き、美しい瞳に向けてはなったのだ。
「お前を叱りに来た」
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