56節 鏡
パソコン新調しました。
いやぁ、すごい快適だなぁ。只、キーボードも変えたせいでちょっとタイピングしにくいですが……。
HOI4もぬるぬる動くし、Eliminator カエデさんも平均四十FPSは出るしカスタムメイド3D2も動く。
あ、いや、ゲームばっかかまけて小説を忘れていたわけではありませんよ?本当ですよ!
崩壊した村で見つかった少女は、ぜひとも我が手の物にしたほどのサンプルだった。涎を出し喉から手が生えるほどの。
厳重に拘束された少女が運び込まれる中、レオニードは遠く過去のように……物語を見ているかのような他人事めいた風に思って居たのだ。
だが、その思いは一週間後に崩壊する。
レオニードは上司に呼び出されて、コンクリートの外壁覆う町にやってきていた。
――閉鎖都市。
あるは秘密都市とも呼ばれ、第二次世界大戦時に作られた兵器を作るためだけに作られた都市であった。有名所では大日本帝国の大久野島などがある。
現代にも閉鎖都市があり、その中の一つ。大陸間弾道ミサイルが配備されているオジョルヌイの執務室の中にレオニードが居た。
「正気ですか?まだ、確実性が無いのにこんなことを……」
「だからこそ君たちのところにあの少女が配備されるのだよ。君たちならばもし暴走したとしても制圧できるだろう」
上官の言葉にたいそう驚きながら返答する。伝えられた事は、あの崩壊した村にいた機械生命体に寄生されていた少女を保護観察の名目で配備すると言うものであった。
否が応でも決まってしまったらしく、もともと機械生命体特殊部隊のはずが少女のお守部隊とかしてしまったのだ。
少しの緊張と警戒心を持って白い扉に手を掛ける。この先に例の少女……ヴェロニカがいるらしい。
扉に立てかけられたネームプレートから視線をそらし、コンコンと軽くノックをした。
あまり音を立てることなく入室をしてもいいかと言外に伝えれば、すぐに「どうぞ」と少女の声が扉越しに曇りながら聞こえてくる。
「失礼する」
そう一言かけながら取っ手に手をかけドアを開ける。
視線に飛び込んできたのは純白のベットに横になる赤毛の少女であった。ルビーのような赤い瞳に同色の髪色、そして少し開けた隙間からはあの寄生体と等しく宝石が埋め込まれるようについていた。
……。どうやら本当に純粋無垢な少女らしい。半身を起き上がらせ首をかしげる。
「あの、すみません。どちら様でしょうか?」
「私かね?あぁ、そうだ話を聞いていると思うけど自己紹介をしていなかったね……私はレオニードだ。君の受取人だ」
返答もできる。本当に人間みたいだ。
そう思いながらもここに来る前に話されたことを思い出す。
彼女の主治医兼科学者である男性は、寄生体のコアの部分に銃弾によってダメージを与えられたことによって、意識を乗っ取られることもなく自意識を保てたのだそう。
只意識が人間だとしても身体は完全に別物になっており、人間の細胞と寄生体の細胞が結びついて人に戻すことは困難らしい。
個人的には彼女には保護施設に保護されこのまま安静の人生を過ごすべきだと思うが、国のお偉いさんや科学者はそうは言ってられないらしい。
「さて、一応聞いておくけど……君はあの時に現代医療では助からないほどの怪我を負ったんだけど、その際に最新鋭の治療を施すことで何とか君を治すことができたんだ。ほら、もうリハビリも開始できるくらいに」
「そう、ですわね。それには感謝していますわ」
「それ自体はいいことなんだけど……問題はこの治療法は不完全で、ほら目覚めた後色々長ったらしい検査があったと思うんだけどさ。要は軍の……その、悪い言い方をすると治験者みたいなものになってしまっている。言わば軍関係者だ」
できる限り彼女が実験動物であることを伏せながら、尚且つ将来的な軋轢を生まないような交渉をしなければ……。
そもそも、真実を話さないで軍にぶち込むなんて無茶クチャなのだ。普通に考えて十二歳を軍人にする組織はどこにでもいない。
けど、頷いてくれなければもっと酷い事になってしまうだろう。ヴェロニカにとっても我々軍人にとっても。
「要はしばらく軍に居てくれということですのよね?なら問題ありませんわ」
「そうか。なら手続きをしよう。こちらにサインを……」
「それに……都合がいいですもの」
「?」
「私は母様を父様を殺した機械生命体を絶対に許しはしませんわ。必ず敵は……」
少女が持つべきではない表情を浮かべていた。まるで番犬が獲物に食いついて骨までしゃぶる瞬間の想像をするかのように、ニタニタと笑っていた。
当初は寄生体だと言う事実に隊員は驚き戸惑い、あからさまな警戒を取っていたがやはり子供。
多少の身体能力が突出しているだけでアイドルに見劣りしない少女が同隊にいて、所謂守ってあげたい本能が出るのは仕方がなかった。
一か月後にはいわば癒し枠としての地位を確たるものとする。
そして教えられるものはとことん教えた。それには格闘術なども含まれ、いわば特殊部隊の一員として遜色ない技量を手に入れていた。本人も入隊を希望していたようで、入隊手続きは瞬時に終わったのだ。
最新兵器の実験としての弓の貸与など着実に地位を上り詰めていた……はずだった。
上からの命令で日本に飛ばされる。別にそれはよかった。本国は治安の悪化で日本は廃墟都市に近づかなければ治安は基本的に良かった。
お偉いさんはヴェロニカに十分利用価値があることを判断し、寄生体を捕獲しわざと少女に寄生させた上でコアを破損。疑似的に人間兵器を作りだそうとしていた。
そのために、予定通りに商業地域に足を踏み入れ……大敗した。
取引は罠であり幾らかの兵士が銃撃で死亡。そして、ヴェロニカの精神的な不安定化であった。
発見された地下貯水池で何かあったのは明らかだ。けれど彼女は話そうとしない。このままでは……。
レオニードが思考から帰ったと同時にバンと扉が開かれた。
銃を向けながら視線を上げると、そこには息を切らした大使館職員であった。確か彼女はヴェロニカほどの年齢の子供を持つことからお目付け役をしていたはずだ。
「はぁ、はぁ……っ。ノックもなしに失礼致します」
「どうした!!」
「ヴェロニカが――行方不明になりました!!」
「なん……だとっ!」
まずい……。ヴェロニカは我が隊になじんでいるが人間とは違う寄生体。もし、日本政府や機械生命体の事を神の使いとして信じる天使の協会に見つかってしまったらどうなるかわからない。
ドンとこぶしを机に叩きつけ。
「何故逃したァ!!」
「それが――」
ヴェロニカは歩いていた。目的などない。只々歩いていたのだ。
頬を染め、荒い息を吐きながらポツリポツリとつぶやく。
「私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。私は人間。」
ふと伏せていた顔を上げる。どうやら目的のない旅の終着点は女子トイレだったらしい。
きれいに清掃された床に壁には造花と消臭剤が立てかけており、清掃員の粋な心遣いが感じ取れるだろう。
ボーと揺れた瞳に映し出されるのは鏡。そのままヴェロニカは持っていたルベウスの緋弓を叩きつけた。
パリンと破砕音が辺りに響き渡る。
「どうしたんですか!?」
音を聞きつけたのか何時もお世話になっている職員が駆け付けたのだ。
視線は私にそして割れたガラスに。
「……お怪我はありませんか!災難でしたね鏡が自然に割れるなんて」
「違いますわ」
「え?」
ゆっくり、ゆっくり彼女がこちら側に振り返る。
「ついにやりましたわ!ついに両親の仇の機械生命体を殺しましたわ」
「何を言ってるの?それはただの鏡で――っ」
「いえ、確かに殺しましたわ!私とそっくりそのまま擬態した寄生体を確かに!!だってそこでバラバラになっていますものっ!!」
振り返って見えた横顔、血走った眼は赤く発光し東洋に伝わる鬼のようだった。
職員が言葉を絞り出せたのはその数秒後であった。
とにかく割れたガラスでケガをしているのを理由に安静にするようにと部屋に戻し職員は廊下に立ち尽くす。
彼女の状態はいわば一種の精神病であるノイローゼなのだろう。とにかく落ち着かせることが重要だ。
ヴェロニカは寄生体のため市販さえれている医薬品では効果が薄い。
だからこそまずは彼女とコミュニケーションをしてどうしてそんな状態になったのかを解析しなければ。お菓子や飲み物を用意すれば話も弾むだろう。
「よし。ヴェロちゃん。入るわよ」
気持ちを整理して、扉越しに呼びかける。返答はない。
しばらく待ったのちもう一度呼びかけるがまたも反応はない。
寝ているのかしら?そう思いヴェロニカの部屋の扉を開ける。
女の子らしく可愛らしいお部屋で、所々にぬいぐるみがおかれている。窓が開いているのかカーテンが風で瞬き近くにあるベットは整えられている。
寝ているわけではない?では何処に行ったのだろう?タンスの中?浴室?それともトイレ?
その疑問は机の上に置かれているブレスレットで中断された。
それは、GPSが内蔵されたブレスレットであった。インターネットが確立した現代、今や銃撃戦は変わりつつある。敵味方識別装置(IFF)も一つだ。
このブレスレットには敵味方識別装置用にGPSが取り付けられている。これは、危険度が高い作戦を任務とするスカーレットクイーンは、負傷した際にメディックや付近のいる隊員に救援をすぐに出せるからだ。
しかし、ヴェロニカのものはどちらかと言えば監視用の意味合いが強く、医療行為のために取り外しをしないようにされていた。
それが、机の上に鎮座している。
ビョーと風が部屋を駆け巡る。自然と開いている窓に視線が行き。
「まさか……」
そうして彼女はレオニードのもとに走っていた。
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