52節 瞳
ゴールデンウィークはいかがお過ごしですか?
自分はですねぇ、土曜日仕事だったていう……。
「……あれ?昨日私の事を後ろから撃つって話してませんでしたっけ?今が格好の好機だと思いますけどぉ?」
「不審な行動をすれば……と言いましたけど。それに、敵を見間違えるほど腐ってないわ」
ゆずきと彩は相手を挟み込むような位置を取り、退路を断つような関係。
「気を付けてください。その男……どうやら私達と同類の力を使うみたいですよぉ」
「そう……。なら、こちらの領分ね」
彩は人差し指でセレクターをフルオートに切り替え高らかに宣言した。
「対人戦なら私達の方が得意なのよ!」
ダダダッ!と、トリガーを引き絞ると同時に撃鉄が穿ち銅で圧着された鉛の弾丸が発射された。
音速を超える攻撃は回避する間もなく男の胴体に向け飛来し、着弾する十センチ手前で光が鏡で屈折するかの如く曲がったのだ。
「!?へぇ……」
「効きませんよ銃弾なんて」
フードの男が振り返りながらまるで、演劇者のような身振りをしながら主張する。一方、冷静に引き金を引き絞りながら思考にふけっていた。
(機械生命体が銃弾に対して高い防御力があるのは周知の事実。ですが、それはあくまでも装甲に魔法を使うことによって起きる現象。けれど、人間には普通そんなことは出来ない。だったら……)
撃ち切った弾倉を交換し、もう一度引き金を引く。
同じことの繰り返し……そう思われるかもしれないだが。
もう一度放たれた弾丸は、そのまま同じように飛翔し同じように弾かれたのではなかった。
パンと銃声とは違う炸裂音。
何故なら銃弾が空中で炸裂していたからだ。
――炸裂(HE)弾。
炸裂弾頭や榴弾とも呼ばれ、弾着時に弾頭に詰め込まれた火薬が着火。まるで釘を打ち付けるハンマーの役割をするかのように、爆発に貫徹力を上げる兵器である。
しかし兵器の事に関してある程度知識がある人間は疑問に思うだろう。榴弾は本来であればグレネードのように一定範囲の周囲の人間を巻き込んでダメージを与えるように設計されいるのだが、本来であれば範囲攻撃に銃弾における点の攻撃は余り効果はないのではないだろうか。
それは、正しい。事実、この弾丸が作成された数は非常に少なく、正式採用した軍はない。
そもそも弾頭に火薬を詰めるため炸裂しない様に管理する必要がある。銃の威力は速度掛ける重量で、重さを無くしてどうするなど……。
上げるときりがないほどの欠点。なら、何故使用したのか。
「ふっ」
銃を撃ち終えた後、彩は直ぐに走り出した。フードの男に向かって。
そのまま、もう一度リロード。今度は徹甲弾により確実に仕留める距離まで近づくために。
そう、彼女がしたかった事それは単純明快。炸裂により、視界を潰すことであったのだ。
わざわざそんなこともせずフラッシュを投げればいいと思うかもしれないが、ここでポジショニングが需要である。
先ほど、二人組を挟むような位置関係を取ったのは既に存じ上げているだろう。
つまり、ゆずきの視界には彩と後姿の男も視界に映っているのだ。そんな状況で投擲すれば、最悪ゆずきの目を潰し相対する緑髪の少女に先手を与えてしまうかもしれない。
故にこんな面倒な手段を使ったのだ。
「ですが、やったかいはありましたね。どうしたんですか?段々、隙間が無くなって来てますよ!」
「ぐっ」
「やはり、一定以上の力は曲げきりませんよね!近づけば……っ」
「っ、鬱陶しいんですが!いい加減倒れたらどうですか」
「ぐあ」
再装填の切れ目にフードの男が拳を振りかぶる、ただの素振り。絶対に当たらな距離。
しかし、彩の腹部には肘打ちを叩きこまれたかのような衝撃と痛覚。それは、防弾チョッキを着こんだ成人女性を数歩下がらせるほどの威力であった。
「なるほど、やはり近づかなければ威力はこの程度ですか」
「ふっ!はっ!……って、彩さん!?先ほどの宣言はいったいどうしたんですかぁ?下がります?」
「っ……問題、はありません。貴女は目の前にいる少女を拘束しなさい」
さらっと相手の拳を回避し脇腹に蹴りを叩きこみながら相方を心配するゆずき。
確かに彼女は人間ではないが、元の少女の人格と記憶をもとに形成されたのだ。故に、いくら嫌いでも苦しむ人を見て反射的に心配するぐらいの常識はある。
まだ、お互いを気遣い合う余裕があるが戦闘は拮抗状態。勝利条件的に言えばどちらかと言えば不利状態。どうにか、ここらで一手を打ちたいところであったが。
「「!?」」
突如、ゆずきとバイザーの少女……つまり寄生体組が一斉にとある方向に弾かれるかのように振り向いた。
そのコンマ数秒後――ドガンっと戦車の手法のような音が響き渡ったのだ。
「これは……?」
「このマナは、ちょっとやばいですねぇ」
「おい、この音を出したやつもお前たちの仲間か?」
「……いいえ、私達も知りませんね。そうですね……ここで会った縁ですから忠告してあげましょう。貴女達も逃げた方がいいと」
「何を――っ」
意識が戦闘からそれたその瞬間、もう一度バイザーの少女が拳を振りぬくのが見える。
まずい……っ、逃げられる。気が付いた瞬間、ゆずきが全速力で駆けよるが奮闘空しくコンクリートがもう一度穿たれた。
「ガッァ」
礼の蹴りは見事にヴェロニカの顔面に導かれるように到達し、バガっと鈍い音を響かせる。
そのまま、彼女は蹴りの威力で浮いた体目掛けてレーバティンの腹で強打した。
ポーンっと、まるで野球ボールのように飛んでいくヴェロニカ。その軌跡を気にしながら礼は手を伸ばしながら俺の元へ駆け寄ってきたのだ。
「大丈夫?ご主人様。何かされていない、怪我はないかい?」
「ぁあ、腕が痛むが問題ない」
やや、紫色に変色した両手首を観察しながら答える。しかし、彼の表情や息遣い……そして額を流れる汗から強がっているのは見え見えだった。
それもそのはず。これによって海斗の攻撃手段は潰されたに等しい。
骨は折れていないモノの変色していることから内出血していることは確定である。内出血……つまり外観からは怪我の具合は観察することが出来ない。
また、仮に数日程度で腫れが引く程度だったとしても痛みで構えるのに支障をきたし、尚且つ扱う銃がオートマチックピストルの都合上反動を受け止めねば弾詰まりが出てしまう。が、そもそもこんな状態で反動を受け止められるかも疑問である。
「ごまかせると思っているのかい。その腕じゃ銃を撃てないし、ナイフだって振るえない。契約してるから」
「……すまねぇ」
ここは、心苦しいが引くべきであろう。もちろんマナ供給が出来る距離に留まりながらだが。
カタン。小石が地面に転がる音がする。視線を定めれば、頬に手の甲を付けたヴェロニカが錆びた看板に体重を掛けながらも立ち上がっている所であった。
あの様子から、顔面への蹴りは掌によって間一髪防御は間に合ったらしい。
そのまま、頭部を押さえるように移動させ叫ぶ。
「ドウシテ!?どうして私の物にナラナイの?ニンゲンじゃナイカラ」
ねぇ!とまるで壊れてしまった機械のようにうわごとを繰り替えす。このまま、逆再生のようにもう一度暴れ……。
「人間か人間かじゃないかなんて知るかぁっ!」
「……ェ?」
る前に声が割り込んだ。
明らかに唖然とした表情を浮かべるヴェロニカに向かって海斗は立て続けにまくしたてる。
「うちには礼とかゆずきとか居るんだぞ。些細な事だ」
「些細な事……デスノ?そんな訳アリマセンワ!ワタクシは人間じゃ無い。イマまでの記憶も感情モ思いも……全部、全部贋物だったんですわヨ。だから、殺さないとお母様をコロシタ機械生命体とニセモノのワタクシを」
「偽物?そんなん言ったら礼だって記憶喪失だぜ。お前はそうしなければならないと強迫観念に押しつぶされて、自ら体を傷つけているだけだ」
コツリ、ヴェロニカが一歩後ろに……今までの戦闘で初めて臆した。
マスター?と駆け寄る礼を腕を伸ばすことで静止させ、一歩また一歩と距離を詰める。
これは、博打だ。契約をしてしまえば何とかなるだろうと言う希望的観測に基づいたただの無茶。
「お前の発言からするに何か致命的なミスをしたんだろ?だから、自己嫌悪に陥ってる。けどさ……偶には自分を甘やかしたらいいんじゃないか」
「アマヤカス?」
「うーん、例えば自分のやりたい事をやってる視るとかな?過去や周りの奴なんてどうやったて変えられない。けど、自分の未来だけは変えられるだろ?」
あと数歩の距離まで近づく。
まるでこちらに壁を作るように顔を手で覆いながらも、指の隙間から目だけは血走っているのがわかった。
ねぇ、と……まるで懇願するように、ゆるしの秘跡に来て牧師にかたる咎人のように唇が動く。
「私は、偽物なのに。ヴェロニカと呼ばれた少女の模造品なのに……イイノ?好きにしてもイイノ?」
「いいんじゃないか。ただ、警察のやっかいご――」
「ソっかそうなのね。ふは」
そう言い微笑みながら彼女は見上げた。夜空に輝く星々を。
そうすると変化が起きた。まるで、パレットの中に黒い墨汁がしたたり落ちたかのように衣服が黒く変色していったのだ。いや、変色しただけではない服装もドンドンと礼やゆずきのようなボディラインが浮き出ていて尚且つ露出が多い物に変化している。
あれ?そう唖然としていると。まばたきの間に海斗は押し倒されたのだ。
「うぉ!?」
「マスター!?」
「無事だ」
先ほどとは違い、締め上げるようなものではなく。包容するかのようにねっとりと体を絡みつかせて。
「わたくしの家来になって、わたくしの言う事だけを聞いて、わたくしに飼われて、わたくしだけを見てその瞳で!」
そうして、彼女は海斗が装着していたバイザーを乱暴に取り外した。
そのまま、瞳が鏡合わせになりお互いの姿を映し出す。
キスをしてしてしまいそうな距離にルビーのような美しい瞳……海斗は無きほほ笑む少女に向けてゆっくりと――拒絶の言葉を放ったのだ。
「嫌だが」
「……え?ナンデ?どうしてですの?わたくしの言う事だけを聞いてくれればいいのですわよ。そうすればこの体だってあなたの物だと……貴方だけが唯一刻み付けることがっ」
「そういう事じゃない。……お前だけを見て聞いて後ろに付いて行ったら、お前を助けられないだろ」
「助ける……?」
「お前と知り合ったのは最近で、あったのも数回だ。けど、濃すぎんだよ内容が。それに、どうやら相手が寄生体関連だとどうやら首を突っ込んでいられないらしい」
「?」
「お前だけ見てたらお前と一緒の景色も観れない。お前だけの言葉を聞いたら一緒に音を楽しめない。飼われろってそもそも同じところを歩けないじゃないか」
だから、嫌だ。
そう強く拒絶した。少女の顔に影が差す、けれど。
「家族」
「カゾク?」
「家族ならいいさ。これから一緒に歩んで行こうぜ……」
「貴方にわたくしはひどい事をしてしまいました」
「あぁ、壁に叩きつけられたり手首捻られたりな……結構いたかったんだぜ。前者は入院したしな」
「それでも……それでもあなたは許してくれますの」
「許す許さないじゃない。お前がしたい事は何だって」
「わたくしがしたい事は……貴方と一緒に居たい。貴方を見るたびに声を聴くたびに臭いをかぐたびに、熱くなる個の鼓動に従って。貴方と共に生きたい」
そうして、ヴェロニカはそっと口づけをしたのだった。
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