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パラサイト・エヴェレット parasite_Everett  作者: 野生のreruhuさん
本編:第2章 緋色たる烈火と紫水の彷徨へ
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50節 翠玉の髪

 時間が……時間がぁ!


2021/04/19

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 廃墟になった公園内の噴水。おぼろにイルミネーションされた光に背を向け煙草を吸う男性が居た。

 車の運転席の扉に寄り掛かり待ち合わせの人間を待っている。

 無論、デートのために待っているのではない。遊ぶには物騒なもの(USP)が右手に握られている。

 ザァーと水が吹きあがると同時に足跡が聞こえ咥えていた煙草を投げ捨て、ビジネスシューズで踏みつぶし立ち上がった。


「久しぶりだな。てか、随分と早いじゃないか……まだ、深夜じゃないだろ?」


 物陰から体を出しながら二人組の人間と相対する。

 一人は彼と同じ男性なのだろう。背が高く右腕にアタッシュケースを持ち運んでいる。

 そして、その隣にちょこんと佇むもう一人。

 身長は一六〇センチほどだろうか……。深くフードを被り色のついたゴーグルを着用し、表所は伺えない。

 しかし、バイザーからはみ出る髪と柔らかそうな桜色の唇から女性……いや女の子だと言うのはわかった。

 まるで、親子が夜の公園を気分転換に散歩をしに来た。そんな、陽気な気分で片腕を上げ。


「あぁ、そうだな安藤あんどう。別にいいじゃないか?それより、ちゃんと持って来たんだよな?」

「あぁ、寄生体……それも幼体だ。高くつくぜ……その代わり」

「もう、壊したのかい?はぁ、女を攫ってくるのも簡単じゃないんだが。と言うか、普通の奴より頑丈なんだけどなぁ」

「ははは!まぁ、儲かるからいいじゃねぇか。横の子良さそうじゃないか……ちょうどいい食いごろだ」


 そう言い安藤と呼ばれたスーツ姿をした男は女の子に対して無造作に緑色の髪を撫でる。そして、手は髪から頬へ……その後、唇をなぞり親指を少女の口内に入れた。

 瞳には怪しい光が灯り、知らずのうちに微笑んでいる。……性欲解消の道具としか見ていないのは明らかだ。


「そうだ、また女を売ってくれないか?壊れちゃってさぁ」

「壊した……の間違いだろう?普通の人間より頑丈に出来てるのだがな」

「そんなこと言わないでさ。例えばそこにいる少女とか」

「えぇ、今は私の操り人形(マリオネットドール)ですからね。しかし、まだ使えるので売りに出していないのですよ。まぁ、そっちの調教もしているので使えなくなったらお売りしますよ」

「よっしゃ!」


 そんな身の毛を穿つほどの下品で品性を疑う会話をしている中、少女は一度たりとも身をよじる事をしなかった。少なくと年相応(全うな精神)なら嫌悪感を示してもいいハズなのに。

 まるで、命令を待つ人形(マリオネット)のように。……微動だにしない。

 だから、命令が無いから、近づいてくる人間がいる事を彼女は主人に報告しなかった。


「あれは」

「どうする。スカーレットクイーン(ロシア軍部隊)の姿は見えないが……」

「いないのならば好都合ね……まずは聞き手に回って情報収集よ。収音マイクを起動して」


 故に、軍人でもない二人は五〇〇メートル先に忍び寄っていた彼女らに気が付かなかった。

 周りを囲む装甲車を包囲するように陣形を構築し、アンブッシュ。


「それで、ブツはどちらに?」

「あぁ、それはここにある。とっとともってこい!」


 そう言い右腕を上げると装甲車の一台からフル装備の兵士が荷物を持ってやって来る。唯一違うのは頭にガスマスクを付けていることだけであった。


「こん中に入ってる。安心しろって、水槽にはキチンと薬品で満たされてるからな。キッチリと仮死状態さ」

「なら良い。俺はこいつを組織に持って帰るとしよう。謝礼しゃれいに付いては後日、銀行口座に正規の金を振り込んでおく」

「洗浄もお手のもんだな」


 それじゃあ、交渉は成立で。そう言い双方が歩み寄り腕を伸ばす。

 安藤と呼ばれた男は隣にいる兵士の男から荷物を受け取り、目の前にいるフードの男へ渡そうとし。


「止まれ!」


 触れる数センチ前に動きが止まった。いや、強制的に止めさせられたと言うべきか。

 全員がフードの男を除いて警戒心を丸出しに声が聞こえてきた方向へ振り返った。視界に入るのは警察官の格好をした二人組の女性。

 ――拳銃を構える小鳥遊咲たかなし さき杉野彩すぎの あやの姿であった。

 強い警戒感を持ちながら銃口を向ける二人。キリリとした表情の裏には焦りを隠していた。

 当初から囮として前に出ることは決まっていた。だからこそ警察官の制服を警察署から奪ってきていたのだ。

 問題は……。

 ちらりと咲が視線を逸らす。暗闇の先で影が動いているのがわかるであろう。まだ、援護する準備が出来ていないのだ。


『少し早いけど逃げられるよりはマシね。すぐにカバーできる配置に移動して』

「どうしてこんな所に公僕が居るのかな。ちょっと政治活動中でね、機密事項なんだ。私も役人として君たちを裁き卓話無いのだが」

「あぁ、誤魔化さないで結構だ。種は割れてるんだ」

「商業地域内での機械生命体騒動、ロシア軍との取引並びに殺人罪。証拠は上がっていますよ」

「お前には令状の代わりに牢屋に行く片道切符を叩きつけてやろう!」


 二名の警官なら口封じ出来る。そう踏んだのか、お役所仕事フェイス(胡散臭い表情)で丁寧な応対をするが彼女たちはSS部隊。

 特殊部隊(対人戦激強い)の人間に対して嘘八百を付くことは無意味である。

 もちろん、油断させるためにわざわざ警察官の格好をしているのだがそれにしたって甘すぎではないのか。


「待ってくれ。誤解なんだ……務所で取り調べを受けたっていい。……だから、死ね」


 突然装甲車の中から人影が現れる。全員がアサルトライフルで武装した私兵だ。

 彼らは主の命令を受け取り展開をしながら銃口を二人に向ける。その数は六つであり、数秒もせずに咲らは穴あきチーズ(エメンタールチーズ)と同等の存在になっていただろう。

 何も考えずに出てこなければ。

 パンと静寂な廃墟に銃声が鳴り響く。肉を穿ち骨を砕き、夜に桜のように赤い花弁が舞い散った。

 そうして、バタリと倒れていく。……装甲車から出てきた私兵が。


「はぁ、どうやら装備だけの立派な案山子(動かない的)だったようだな」

テンプレ(お約束)ですが。貴方達は包囲されています。素直に降伏してはいかがです?」

「――き、貴様ァ!たかが一般市民の分際で上級国民の俺に歯向かうだとォぉぉおお!?」

「動くな、銃を置け(Drop gun)!」


 カチャリ今まで姿を隠していた精華や他のSS部隊が様々な武器を持って現れる。

 準備できた銃はバラバラ。しかし、武器屋はよくやってくれたと言ってもいい。すべての武器が不良なく、尚且つ取り扱いがしやすく威力が高い物ばかりだからだ。

 F2000を構えたSS隊員が警戒しながら防弾シールドを装備したバディと一緒に詰める。

 既に雌雄は決していたのだ。


 ――たった二人を除いて。


「じゃあ、私はこれで」


 戦場に似合わないのんびりとした声だった。

 ちらりと安藤とその仲間たちを警戒しながら視線が声を発した主へと動く。

 まるで、散歩してる途中で偶然変質者が警察に捕まったのを見た野次馬のように、当事者ではありませんよ?関係ありませんよ自分?と、そんな声色でフードの男から先ほどの言葉が放たれたのであった。

 それに、キレない二人ではない。

 散々、嫌な事をされやっと解決しそうな時にみすみす将来に遺恨を残すであろう事は確実だ。それに……。


「何を帰ろうとしてるんだ。無関係……と態度で言いたいんだろうが物品を受け取ろうとしてる時点でアウトだ」

「善良な市民であるなら、なおの事私達と一緒に来ては?無実であれば解放いたしますが……」


 少なくともこんな怪しい奴を逃してはいけないと警察官の感が囁いていた。拳銃を向けながら歩み寄る。

 フード姿の男はまるで演劇者かのように大きくため息を付くと。


「……武器を持っていない一般市民ですよほら。両手を上げています」

「なら、地面に伏せていろ!精華、隣にいる子供を確保し安全圏まで連れて行ってくれないか」

「えぇ、わかったわ。大丈夫?怖かったわよねいきなり銃を持った人がこんなに居るんだもの。大丈夫おねぇさんが守ってあげるから」


 そうして、精華はバイザーを付けた子供に向け銃を下げ警戒させないように視線を低くしながら近づいて行く。

 それを、今だ物陰からゆずきは観察していたのだ。


(おかしい。うまくいきすぎていますねぇ。当初予定していた寄生体ヴェロニカとの戦闘も無いですし……私の正体を明かす意味なかったですねぇ)


 そんな思考にふけりながらもゆずきは他者から離れた場所に、つまりは客観的に物事を見る事が出来たのだ。

 故に……。


「うーん、ちょっとそれは嫌なんですよね。この利用価値ありますし。なので近くに居させられません?」

「何を言っている?少なくとも現状では不可能だな」

「そうですか、残念だなぁ!じゃマリオネットドール、ヤレ!」

「了解、マスター」


 そうして、少女は拳を振り上げ叩きつけたのだ――地面に。

 無意味な行動。誰もがそう思った。だがゆずきの瞳はバイザーの少女の拳にマナがまとわりついているのをしっかりと捉えていて。


「伏せて!」


 ダン!コンクリートがドンドンとひび割れていきそして、視界が砂で覆われた。

 舞い散る砂が視界を遮ると同時に、何かが飛んでくる。それは、飛び散ったコンクリートの破片であった。無論、ただ飛んできたのではない……時速換算で一六〇キロの素早さで飛んでくるつぶてを近づいていた精華に対して牙をむいたのだ。

 そうして、悲鳴を上げる暇もなく彼女は倒れた。無傷で。

 伏せての声を聴いた精華は反射的に行動(ダイブ)をしていた。故に礫は彼女の頭上を通りすぎただけで済んだのだ。


「……っ!あいつは!」

「あそこよ」


 視界が腫れると同時に私達は周りを見渡せば瞬時に包囲を脱し、逃げ延びている二人組。


「このままじゃ逃げられるぞ」

「くそ、早すぎる!人間か!?」

「ふ!」

「ゆずきちゃん!?」

「私が追いかけますので後に続いてください」


 そうして、公園は血で地面を染める戦場へと早変わりしたのだった。



 もし気に入った、面白いなど思ったらブックマークやポイント、感想をよろしくお願いします。

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