49節 一人と二人
うーん、やっぱり皆様も新年度になりまして環境が変わったと思いますが……私もすごく変わっています。
要は時間が取れなかったんですね。
本当なら一節は平均文字数、四千文字を目指しているんですが……。
ギリギリ三千届きませんでした。
ですが、この話から「第2章緋色たる烈火と紫水の彷徨へ」のクライマックスシーンと次章における敵がチョイ見せで出てくるのでお楽しみに!!
2021/04/19
ルビ振りの増加
誤字の修正
矢が放たれたと同時に動いたのは礼であった。
ズン!と力強く踏み込み風を追い抜きながら前進する。大方、飛翔物を叩き落としそのままヴェロニカの事を叩き切ってしまおうと考えているのであろう。
矢じりの先端とレーバティンの刃が混じり合うように剣を振るった。
バン!と爆発音と共に硝煙が火焔が咲き閃いた。一般人であれば、瞬時に死亡したと思うであろうが礼はそんなに柔くはない。
煙からの影がどんどん深くなっており瞬間、映画のスタンドのように爆風の中から花弁を裂くように前のめりになった礼が現れたのだ。
そして、そのまま切りかかる光景を見て。
――嫌な予感がした。
それは、単純な悪寒だった。じっとりと背中を照らし身震いするほどの。
まるで巻き戻し再生のよう白黒になった映像が脳内に閃く。
それは、首都圏外郭放水路での出来事。海斗が瞳の力を使い矢を叩き落として、詰みの一手を放った時だ。瞬時に五十キログラムある俺の首根っこを掴み投げ飛ばしたのだ。
そして、彼女は軍人で更に特殊部隊出身。身体能力が大体同じと仮定するならば格闘術を修めているヴェロニカに分配が上がる。
「避けろ!」
命令を出したのは礼が剣を振りかぶる寸前だった。
はっ、と瞬時に反応し無理やりにでも防御しようとレーバティンを逆手に持ち変えながら身を隠した。
つまるところタックルに切り替えたのだ。たったそれだけかもしれない、けれど確かに未来が変わった。
見えない様に隠し持っていた弓が現れる。それは、赤く紅く焔を纏っていた。
サーカスで見るような先端に付いているのではない。文字通り隙間なく炎が燃え盛った居たのだ。
やはり読んでいた。弓は遠距離武器と言う固定概念を逆手に取ってカウンターを決めようとしたのだろう。
相手も少し驚きながらも止まれずに双方攻撃を繰り出した。
ガキンとまるで鉄板の上にスレッジハンマーを叩きつけたかのような音共に鍔迫り合いのような状態になる。
バチ……バチ……と接触面から火花が散り少しずつ礼が押し込み。
スッと横に逸れた。
「え!キャァ!」
そして、回転しながらヴェロニカは背骨に綺麗な蹴りを叩きこんだ。
くの字に曲がりながら礼は暗闇の中に吹き飛ばされていった。
「礼!?くっそ」
吹き飛ばされた方向をちらりと見ながら拳銃を構え三発発砲。
螺旋を伴って放たれた弾丸は瞬時に回避され、次の瞬間には俺は視界のブレと衝撃を感じ地に伏せていた。
「ネエ、どうして?」
「離、ぐぅぅぅぅうぅぅううう!」
ぼやけた視界にヴェロニカの顔が映りこむ。
反射的に振りほどこうと行動するが手首が|変形しかける(違う方向に曲がける)ほど力を籠められる。
骨が軋み、血流が拒まれながらも冷静に観察する。
俺は現在ヴェロニカに馬乗りにされている。彼女が手首を抑えるために姿勢が低いからはたから見れば四つん這いの下にいる様にも見えるだろう。
武器は拳銃が二メートルほど後ろ、ナイフは収納されているから腕のプロテクターに収納されているから取り出しが不可能。
「無視をシナイで」
そう言って彼女はギュッと顔を近づける。
数センチ、たったの数センチの隙間。ちょっと動いたらキスをしてしまいそうなほんのわずかな距離。
まるで、わたくしだけを見てと。語っているようだった。
「どうして私の物にナラナイの?」
「は?」
「ワタクシが人間じゃ無いから?ナンデ?ずっと一緒にイタジャない」
「――?何を言ってるんだ」
唇の端から唾液を垂らし、頬に朱を入れ瞳はひどく薄汚れている。
わけがわからない。ずっと一緒にいた?
「ヒヒ、ドーして。あぁ、貴方を見ているとオチツク、貴方に触れるとヤスラグ。私と一緒にイキよ?けど、ニンゲンじゃナイカラ殺さないと……」
「……ッ」
「そう、殺さないと。ニンゲンになるために。フクシュウをハタスためにニンゲンを殺さないと。ワタクシは優秀な――」
「僕のマスターを離せ!」
まるで頭痛を払うかのように首を振るい、数センチあった隙間が縮まる瞬間……下半身がある方向から我が相棒の雄たけびが響き渡った。
駆けているのであろう、コンクリートを力強く踏みしめた音が届き海斗の視界にとらえたのは礼が着用していたハイヒールのつま先だった。
「ここ……か」
「えぇ、うちの社員が得た情報だと……ここが取引ポイントね」
「そりゃ、見たらわかりますよ?廃墟にあんなガチ装備……ザ、怪しいものですよって言ってるようなものじゃないですかぁ」
「……見えるのですか?」
「寄生体舐めないでくださいよぉ、彩さん?こんなの双眼鏡を使わなくても見えますよぉ。で、どうするんですかこれ?」
「――考え中」
一方その頃、精華達は寄生体の幼体が取引されるとの情報を聞き現場に駆け付けていた。
ビルの柱に身をひそめながら道路を挟んだ広場に目にやる。
もとは公園だったのだろう。中心部には電気が生きているのかイルミネーションされた噴水がある。
そして、その外周を囲むように兵士が佇んでいた。
顔を覆面で覆いそのうえで赤外線ゴーグルを着装。黒を基調とした防弾チョッキに振るカスタマイズされた突撃銃を装備していた。
それが分隊規模で巡回警備しているのだ。少なくても、視界内に十六班。
対してこちらの兵力はSS部隊二小隊と精華率いるPMCが三十人。プラスゆずきの構成であった。
見えない範囲に予備兵力が三~十倍いると想定するならば付け入るスキは何もなかったのだ。
どうすればいいのか右往左往していると、巡回していた分隊が突如敬礼のような恰好をしていた。
何が起こっているのか、自然と視線が集中する。
そこにいたのは二人組の人間だった。季節外れのロングコートを着用し、背の高い方が右手にアタッシュケースを持っている。
彼らは何かを見せるとたちまち奥に進んでいった。
「……どうします?先輩」
「そうだな、あれが取引相手なのだろう。双方確保したいが」
「そうね、警備兵が邪魔……うん?撤退していく?」
そして、反対に兵士たちは車に搭乗し撤収していく。
愚か者なのか、それとも余程取引とやらを観られてくないのかはわからない。けれど、警備の手が薄くなるというのは私たちにとって非常にうれしい事だった。
「チャンスですね。先輩、詰めましょう!そこにいる寄生体を肉盾にしながら」
「扱い酷くありませんかぁ!」
「……いえ、貴重な戦力を損失するわけには行けないから後半は却下ね。けど」
「あぁ、今しかない!全員前進準備!」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」
そうして、割れたガラスを踏まないようにしながら公園の敷地に侵入したのであった。
〇次回予告
「久しぶりだな。そうだ、また女を売ってくれないか?壊れちゃってさぁ」
「えぇ、これは人形ですからね。まだ使えるので売りに出していないのですよ。まぁ、そっちの調教もしているので使えなくなったらお売りしますよ」
「いい加減ウザいですよ!子供なら今の時間家にいるもんでしょ!」
「そう。本当なら家に帰らないと……お姉ちゃんの元に帰りたいよ。けど、ご主人様が足止めしろって言うから仕方ないでしょ?」
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