48節 鉄の狼
皆さんがモンハンライズを買う中、私はバルドハートを買うって言う。
海斗一同を乗せた車は海斗の家を通りすぎ、関東統合都市に入る。見慣れた道乗り、見慣れた光景……ノヴァが運転する車は石竹民間警備会社の駐車場に駐車したのだった。
ガチャリとまるで、遊園地に到着し好奇心を抑えきれない子供のように飛び出す海斗達。
エントランスを駆け抜け、すぐにノヴァが持つ武器店のさらに奥。製作所に駆けこんだのだ。
中の様子は前回来た時と同じように、様々な銃や武器が壁に掛けられてる。そして、中央には作業机が……。
「えっと、こんなに散らかってましたっけ?」
金属製で出来た作業台は所々酸で溶けたかのような跡、そして金属片がざっくばらんにほおられていた。
その机の上にある大きな箱を持ち上げこちらに投げ渡してきたのだ。
「おっと」
「開けてみて」
それは、皮で出来たホルスターだった。急ごしらえなのだろう、所々縫い目がほどけている。しかし、隙間から尋常ではないオーラを感じ取った。
緊張した表情で海斗はナイフをゆっくりと引き抜く。
それは漆黒の物体であった。しかし、ただの黒一色ではない。
まるで、真夏の天野川を眺めるようにキラキラとした輝きが持ち手から刃まであり、鍔の部分には礼の胸にある赤黒い宝石が埋め込まれていた。
照明越しに全体図を俯瞰。大きさは今まで使っていたナイフより一回り大きい。そして何故だろうか……手に吸い付くように違和感が無い。それに、羽のように軽い。
まるで、俺の体の一部のようだ。人馬一体とはこの事か。
「ふふ、その反応気に入ったって顔だね」
「はい。一体これは?」
「それはね……文月礼ちゃんの細胞をもとに作ったナイフなんだよ」
「え?」
「何でももし離れた時にも助けられるからって」
「えへへ」
うん。確かにうれしい。嬉しいんだが……。
何だその、ヤンデレが自分で作った料理に血を入れると同義な事やってるの?
ちらりと視線を逸らせば、可愛らしい僕っ子が表裏なく微笑んでいた。
一呼吸、深呼吸をして礼から受け取った腕のプロテクターにあるナイフラックに収納する。一回り程大きくなってはいるが、内臓された調節ねじを回せば問題はない。
「名前は付けないの」
「名前?」
収納し終え、視線を上げると横からノヴァに話しかけられる。このナイフは特注品のため名前が無いそうだ。
別に一々名前を付ける必要性は無いと思うが。
「専用武器ッ……兄!これはロマンだよ。かっこいい名前決めよう」
「僕もマスターが懐けてくれた方がうれしいかな」
「だってさ。ふふ、信頼されてるんだね」
何故俺が名づけることになっているのだろうか。確かに使用するのは俺なんだが。
うーん、うーんと頭を捻りながら考える。
夜空のナイフとか?いや、それだと安直すぎる。普段の戦い方から連想してみよう。
俺は貧弱な存在だ。けれど、家族を守ると言う鉄のような意志だけは欠けてはいない。どんな困難な敵でも喉元を狼のように食いちぎって見せよう。
「アイゼンヴォルフ……でどうだ」
「鉄の狼ね。ふふ、いいんじゃない」
あまりない引き出しの中からかっこいい名前を取った。
それに、ドイツ語なのも評価が高いだろう。
「あ、もう一つあるんだけど……持ってく?」
「もう一つですか」
「え?僕は頼んで居なのだけれど?」
「ふふ、これは完全に私用……つまりはシュミ!」
そうしてノヴァは近くに立て掛けたものを持ち上げた。
それは槍であった。鈍く輝く持ち手に先に取りつけられた宝石。刃が無くどちらかと言えば子供のおもちゃと言わざる負えないだろう。
明らかに戸惑う俺たちの姿を見て彼女はゆっくりと口を開いた。
「これはね……刺突雷槍といって先端にある機械生命体由来の宝石にマナを流すと、爆発するの。所謂、旧日本軍が使用してた刺突爆雷ね」
「特攻兵器じゃねぇか!?何、持たせようとしてんだよ!」
それは某ゲームで有名になった対戦車兵器であった。。
刺突爆雷……それは太平洋戦争時に大日本帝国が作成した平気であり、当時強固になった戦車における有効打を与えられる兵器が無かったため現場にある在り合わせで作られた武器である。
単純に説明すれば、二メートルほどの竹やりの先に火薬を取り付け肉弾するものだ。
しかしながら、爆風で使用者本人が重傷を負う、そもそも起爆しないなどあまり評価は高くはない。
それを何故作ったのか。
「ふふ、何とこの兵器は相手の装甲を突破して有効打を与える事が出来るのだー」
「いや、普通に考えて|ロケット(RPGとか)使用した方が速いと思いますけど」
「ん?いや、マソだっけ?それを纏わせた装甲ってめちゃくちゃ固いんだよ。それを貫通できるだけすごくない。それに契約してる海斗君じゃないと、起動するのにマナ使うからだめなの」
「すぅ、なるほど……」
無垢な表情で刺突雷槍を渡してくるノヴァ。
日本人のサガなのか、キッパリとした否定の言葉が喉奥から出てこず結局受け取ってしまった。
重さはM4カービンよりは軽いが、やはり先端部分に宝石が付いているため重心が前より……つまりトップヘビー状態になり二桁振り回すのは困難を極めるだろう。
イラネェ……そう思いながらも礼のクリスタルに仕舞ってもらい、使用した徹甲弾を購入し補給。
戦闘服に着替え、ハンドガンをホルスターに収納しHMDを装着。
「妹はここでナビゲーターしてるんで、頑張ってね」
「任せた」
「あと、礼ちゃん。兄が怪我しない様に守ってね」
「もちろん」
「準備は出来た?じゃあ、乗ってね」
そう言ってノヴァは運転席に座り、装甲車のエンジンを起動した。
そうして、車は関東統合都市の南へ進んでいった。ビル群から森に、そして瓦礫に。
九年前に東京と言う都市は瓦礫の海とかした。それは二三区全てだ。境界線は鉄のカーテンで遮られ、付近には十五キロほどの干渉地帯が間にある。
どうやら取引は緩衝地帯内にあるビル前で行われるらしい。
「付近を警備している軍人は基本的に前後二時間は駆け付けてこないから、ドンパチしても問題ないよ」
「そうですか。交戦しない事に越したことは無いですけど」
「そうだね」
既に太陽が沈み空には満点の星空が瞬いていた。月見をしたくなる気持ちをギュッと押さえ、緩衝地帯を進んでいくと……。
車が止まったのだ。
動き出す気配は一切ない、何かトラブルでもあったのだろうかと思い後部座席から身を乗り出し運転席……の前に広がる光景を見つめる。
ひび割れたコンクリートで出来た道に車のライトで照らし出された人影。
廃墟には似合わないコスプレのようなドレス姿に前が開いたスカ―トとニーブーツ、紅い髪にツインテール。
スラリと伸びる手足に括れた腰が男性が求める理想的スタイルであった。
ここに英国紳士が居たのならバーにでも誘っていたのかもしれないが、ただ佇むその姿から向けられる濁ったルビー色の瞳には鬼を連想させた。
「これはマタ」
ノヴァが冷や汗を掻いているのがわかる。
以前であった時とは比ではない程の殺気を目の前の少女が放っていたのだから。
「どうしてこんな所にいるんだ?ヴェロニカ……」
俯く少女に向かって少年はぽつりと呟いた。
「ノヴァさんだっけ?僕の言う通り動ける?」
「無理。あれはキマッテル目だね。絶対立ちふさがってやるって感じだ。こっちが動いたら矢で爆破四散かもね」
「そうですか……」
「なるほど、ノヴァさんありがとうございました」
「マスター?ちょっと待って」
海斗は銃を抜きながら扉の鍵を開ける。目の前に佇む少女の動きを注視しながら外へ一歩歩み出した。
驚きながらも礼も剣を出現させながら海斗の前に進んだ。
「よぉ、こんな所でどうしたんだ?」
十メートルほどの距離で立ち止まりヴェロニカに向かって問いただしたのだった。
ゆっくりと彼女の顔が上がる。表情には影が差し、濁った瞳でこちらを認識したのだろう……唇がひらいていく。
「わたくしは、わたくしは……人間、ですの」
「は?」
「そう、わたくしは両親を殺した機械生命体を倒すために……新兵器を使える選ばれた人間。人間ニンゲン」
「ぉ、おい?」
「っ――マスター離れて。僕の前に出ちゃダメだからね」
まるで、壊れた機械のように同じ言葉を繰り返しそして、頭を抱えながら星空を見上げた。
例えるなら演劇者のように独創的に華麗に身振り手振りをしながら。
「ウヒッ、ホントウはネ。わたくしがコロシタノ……銃でウタレテ衝撃で記憶をウシナッテ。ズゥゥゥゥウウット人間として復習対象がジブンジシンってナニカシラね」
言動も行動も不具合が生じているのであろう。
精神的には人間である彼女……しかし肉体的には機械生命体と言う反転。それ故に何方かに天秤が傾くのではなく、双方を支えていた天秤が壊れてしまったのだろう。
言わばバグってしまったのだろう。
「アァ、きっとコレは機械生命体が魅せるゲンカクデスワ。ソウにキマッテルなら殺さないとニンゲンをそしてワタクシは人間だからァ!」
「やり合うつもりなのか!?」
そうして弓をこちらに向け構えてくるヴェロニカ。
それに合わせてこちらも武器を構えていく。
その動きをみた彼女は首を傾げながら目を丸くし、ニッコリと笑んだ表情で。
「あら、海斗サンイらっしゃたのですね。あぁ、オイシソウ良いニオイ……そんなフウニしてたら寄生体にネラワレテシマイマスワァ。だから、イッパン人ですからワタクシが殺してマモッテあげます。人間であるあるアルアル」
「来るぞ」
「っ!」
「アヒャ!ツラヌイテ!わたくしの緋弓」
虚空から生まれた矢を弦に番え……バシュンと放たれた。
それと同時に二人は駆ける。礼が持つレーヴァテインを振るい。……爆発に巻き込まれた。
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